第481話・光と闇と分霊と
闇の拠点に住む人たちがもう少し増えれば、闇の力もまた増すんだろうけど。
実はこっそり真面目に役目を果たすべく大陸中フォンセが動き回っても、そんな人は少ないと言っていた。
光の精霊神、あんにゃろの教えは、「疑うな、ただ信じよ」。
その呪縛に捕らわれて、光の精霊神を少しでも疑ったら町を追い出されることもある。
あれ、ここ、なんかおかしくないかな? と思っただけでも、精霊神からの追放のお告げがあったりする。
だから大神官や聖女などの聖職者がいる町では、神を信じることは、スキルで選ばれることより重要だったりする。少しでも不審な考えを起こせばお告げが下る可能性もあるからだ。
追い払われたところを助けても、それでも光を信じる者が多すぎて、闇に連れてこれる人間は少なく、定住する人間はこれまた少ないらしい。
無理やり連れてきて信じ込ませれば? と冗談交じりに問いかけたら、何でわたしがそんなあのアレみたいなことを、とぶすっと返された。まあね、そう言うやり口は確かにあんにゃろの得意技だけど。
……なんでここまでぼくがフォンセの作戦とかを知ってるかって?
フォンセ本人から聞いたから。
そして、あんにゃろが、今一番恐れているのは、フォンセではない。
それは……ぼく。
こっちも本人から聞いた。フォンセだけじゃない。あんにゃろ自身からも聞いた話だ。
「おもてなし」が終わり、三聖職者が夢の命令を聞いた直後くらいか、実は、ぼくの所にもあんにゃろが現れたのだ。夢ではなく、精霊神としての金色の炎の姿で。
(何か用か)
反射的に結界を張って、町長室からみんなの気が逸れるようにして、ぼくはこんにゃろを睨んだ。
(何故に光から生まれた君が、己の使命を放棄し、私の使命の邪魔をする)
(その使命がお前の暴走妄想から出て来た自殺願望だからだよこの野郎!)
ぼくは怒りを叩きつけてやった。
ぶるりと炎が揺れる。当然だ、精霊は強い感情に引きずられるし、悪意を向けられると痛みを覚える。
(わがままを言うな。君の使命はこの大陸の人間を……)
(この大陸の、気に入った人間を、の間違いだろうが!)
(…………)
ぼくがまともに話を聞く気がないのを察したのか、炎はしばらく揺らめいて、何も意思を発しなかった。
これを好機と、ぼくは強い怒りを発し続ける。怒りは正確には悪意ではないからこんにゃろを傷付けることはできないが、動揺はさせられる。
(ぼくに「まちづくり」のスキルを与えたのは、一応人間を助けるためではあるだろうな。精霊神としての態勢は整えてる。だけど、そこにはぼくの意思も意図もない。ぼくはただの命のままに動くからくりとなることを期待されて生み出された。そして、そこに住む人たちの意思もない。気に入らない町民を追い出して、自分が選び抜いた人間を乗せるんだろう? そんなの知ったことか、ぼくはぼくだし、この町はぼくの町だ! 例えぼくがお前の劣化コピーだったとしても、お前に従う筋合いはない!)
(う、ぐっ)
(分かったらさっさと失せろ! ぼくが怒ってるうちはまだいいけど、これ以上切れたら悪意になるぞ! 痛いことになるぞ! それどころか変質するかもな!)
(わ、私を変質させるなど)
(できるかどうかやって見なけりゃ分からないだろうが! 第一お前は既に変質しかかってる! その背中を蹴飛ばすくらいならぼくでもできる!)
(ま、待て、今回は君とやり合うために来た訳ではないのだ!)
(ほー。じゃあなんだ)
(君に大人しくしてほしいだけなのだ)
(ほー。うちの聖職者に脅しまでかけてきて、そしてぼくを懐柔しようと。ほー。ほー)
(せ、聖職者は私の下にある存在だ)
(本人の許可取ったわけじゃないだろ。それが何より証拠にはアナイナはお前の下にはいなくなったじゃないか)
(…………)
反論も浮かばないか。
(人間が全て自分の下にいると勘違いしない方がいいわね、光の)
ぼくの結界の中に新たに入ってきたのは。
(フォンセ?)
こちらは銀色の炎の姿をしているが、気配で分かる。フォンセだと。
(闇の! 何故、ここに)
(あなたと違ってわたしは招かれているからね)
人の姿を取らず、精霊としての姿のまま、フォンセはゆらりと揺れる。
(あなた、クレーが怖いんでしょう?)
金色の炎が
(分霊が自分に牙を剥き、自分に痛みを与え、自分の命に背く。あなたが生み出した存在があなたを揺るがす存在となった。滅しようにも、町民の信頼を得、処分しようにも私や町の人間が許さない。他の町への発言力まである。厄介よね。厄介な存在よねえ)
銀の炎が小さく小刻みに揺れた。ああ、これ、嘲笑ってるな。
(滅ぼす? 滅ぼしちゃう? でもね、それをすると、あなたは大陸の破壊者としての烙印を押されちゃうのよね。今の彼の影響力と発言力が大きすぎるもの。彼を追放し立場を乗っ取ると言う手段ももう使えない。目の上のたんこぶって言うのはまさにこのことねえ)
フォンセ、大喜びで煽ってるな。
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