第480話・闇の拠点
現在、暴走しつつある光によっておかしくなっているのは日没荒野。
精霊神に会うための試練の荒野だったはずが、光の力が強すぎて、熱射に焼かれて生命が育たない荒野と化してしまった。あんにゃろは不思議にも思ってないだろうけど、人を試みるどころか入って五分も経たないうちに熱中症にかかってぶっ倒れてそのまま儚くなってしまう文字通りの死の荒野だ。しかもそれは荒野だけに留まらず、ポリーティアーを含めた西の小さな町々ですら人の住めない場所となってグランディールに逃げて来たほど。西の人たちはこれを神の試練と思っているようだけど、光の力の暴走のせいです。
これが大陸全土に広がっていないのは、大陸の三方を闇が侵食しているから。
北の大凍山脈。東の狂い崖。南の死の沼。
そこには闇の獣である魔獣や凶獣がたむろして、普通の人間は近付かない。
北、東、南の入り口にはそれぞれポリーティアーのような大きな町が兵力を持って獣たちの侵入を妨害している。
だけど、その闇の三拠点があるから、西の光の暴走が大陸中央まで食い込んできていないのだ。
そこだけ考えても、随分一般人の認識と真実はかけ離れているなあ。
聖典では「闇を追放し闇を許さず欠片も残さず消滅させよ」と教えているが、そんなことになってみろ、大陸に残る命はないぞ。
とは言え、闇の三拠点もまた、人間の住める環境ではないんである。
フォンセに訊いた限りでは、三拠点に太陽の恵みはなく、ただひたすらに凍える地が続くのだと言う。その中にフォンセが創った分厚い毛皮を持った魔獣凶獣が闊歩し、侵入して来ようとしている光と対抗させているのだと。
……まあ、暑さより寒さの方がしのぎやすいってのは、確かにある。
寒さは何とかなる。極寒の中生きている獣がいるように、寒さを遮る家を作り、毛皮をまとい、火を焚き、動けば、体温は上がる。身を包む空気も温まる。動かなくなれば体温が下がってアウトだけれど、そこから体温を上げる術はいくつかあって、体力と精神力次第では生き延びる可能性だってあるのだ。
だけど、暑さはどうにもならない。暑さを遮る家を作っても中で気温が上がり続け、脱いでも上がった体温は下がらず、動かなくても、ただそこにいるだけで自動的に気温も体温も上昇し続け、内臓が茹だり、どんな生き物でも死に至る。
極寒圏と灼熱圏、生き物が生きていけるのは極寒の方。もちろん生き物の中には人間も入っている。
しかも光の精霊神が暴走しかけてこのままだと制御不能、そこに人間が居たらどうなるかってことも考えてくれない現在、光に寄る理由がない。
しかし、そう言っても大陸の町はほぼ全部それを信じてくれないだろう。
闇の本拠地に入った人間がいないからである。
本当は、何人か闇の本拠地で生きている人間がいるのだとフォンセは言っていた。
光の精霊神信仰を疑って神殿や町から追い出され、本拠地に追い出された追放者を匿っていて、彼らがフォンセの加護を受けて暮らしている場所は、ほんの少し炎の精霊や温もりの精霊などが集まっており、生き物がもう少し生きやすい場所になっているらしい。
闇の中で生き物がちゃんと生きている、と言うことが明らかになったら、もう少し違うんだろうけど……、
何せ、精霊神信仰の篤い者をフォンセが嫌がっている。
光に偏り過ぎた教えを本気で信じている人間を、疑問の一つも持たないのかと憤っているフォンセが、生まれた時から死ぬまで光の教えの中で生きてきた人間を認めるわけがない。
おもてなしの時、光に精霊神に仕えるうちの三聖職者を文句こぼしながらも受け入れたのは、ヴァチカがあんにゃろの呼び方をあのアレ扱いしたことにある。あんにゃろの言動を知って、少し疑いを持ち、全面的な信仰ではなく、信じるべき存在を自分の耳と目で確かめないといけない、そう考えた三人だったからだ。つまり、「自分で考えることの出来た」人間だからである。
アナイナに教えたのもそれ。「自分で考えろ」。自分の目と耳で確かめて、信じるものを見極めろ。
フォンセの教えは、「まず疑ってかかれ」。その一文で言い表されている。
疑った結果、闇を離れた人間ならばフォンセは追わない。
疑った結果、光を捨てた人間ならばフォンセは受け入れる。
疑った結果、光を選んだ人間ならばフォンセは見逃す。
疑わず生まれた時から信じてるからと信じてる人間を、フォンセは物凄く嫌ってる。何のために知恵を与えられ、知識を蓄えたのかと。
そう言うところもあんにゃろとは正反対。
フォンセは疑われることを嫌わない。疑うことで自分に興味を持ち、自分のことを調べ、そして新しい域に入ることを良しとする。その結果自分と決別することになったとしても、フォンセは全く文句を言わない。知恵と知識で色々考えた結果、自分と闇が相容れないとなったら仕方がない。追わないしむしろ考えたことを讃え、これからも疑ってかかれとエールを送る。
そうして、疑った結果フォンセに寄ることになった人たちに、フォンセは加護を惜しまない。闇の地に住居を与え、追放どころか処分しようと追ってくる者から完璧に守り抜く。
ほんっと、何処ぞのあんにゃろとは大違いだねえ。
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