第479話・光とそれに対抗するもの
アナイナはそれから本を夢中になって読み始めた。
もちろん空き時間だけね。食堂の手伝いや神殿の仕事はちゃんとやっている。
でも、それ以外の時間は食い入るように本を読みながらメモを取っている。
「アナイナ、変わったな」
神殿からの報告書を持ってきたラガッツォがそんな感想を漏らした。
「そんなに?」
「聖典読み込んで、おれらにめっちゃ質問してくるぞ? この話は何を言いたいのか、どういう伝説があるか、西のおれらでも答えられないような質問」
「……どう答えてる?」
「西の民として一般的なことしか答えてないけどな」
本当のことは言っていいか? と目線で聞いてくるラガッツォ。
「……一般常識の範囲で頼む」
アナイナが真実を知るのは、それを受け止めるだけの知識と知恵がついた後でいい。
そうじゃないと、自分に都合のいい歴史を頭の中で作ってしまうかもしれない。
アナイナは思い込みが激しく猪突猛進タイプ。最初から嘘だと知らせて本を読ませたらあれも怪しいこれも怪しいいやいや全部怪しいと何も信じられなくなってしまうかもしれないのだ。
もちろん、神話はほぼすべてあんにゃろの作ったもの。神話から繋がる歴史もほとんどあんにゃろの都合のいいように書き換えられている。闇の精霊神が闇の王と書き換えられて諸悪の根源みたくされていたり。闇と言うものが徹底的に
もちろん、光の精霊神を崇めているこの大陸でも、例外は存在する。
光の精霊神の敬虔な信者をフォンセによって滅ぼされ、疑うことを覚え、結果的に光の精霊神を拒絶しているオヴォツ。
光の精霊神への感謝を伝えに日没荒野の向こうの聖地に乗り出したのに、それは罪と言われ、神獣や精霊虫に姿を変えられて聖地に住む人たちに仕えさせられ五百年、すっかり精霊神信仰を失ってしまい、聖地からぼくと一緒に脱出したペテスタイ。
そして、光の精霊神の意図によって生み出されながらも、町長を取り込み損ねたがために四人も与えた聖職者のうち一人が自分の下から失せ、残る三人にも隠していた真実を知らされて揺らいでいる、闇の精霊神に近しい町グランディール、つまりここ。
ペテスタイとは協力できる。ペテスタイを助けたのぼくだもん。
光の精霊神への信仰をすっかり失った彼らは、大陸では異端とされかねないので、表向きは精霊神信仰っぽい行動してる。それは完璧。けど、心の中じゃあんにゃろのことなんか全然信じちゃいない。
あんにゃろだって一言謝りにくりゃあいいものを言葉どころか夢枕にすら立たない。もうペテスタイは取り込めないとあんにゃろは判断したんだろう。なのにうちの聖職者三人には脅しをかけてきてるんだから力の使い方間違っているよな。
ペテスタイの人たちに許してはもらえなくても謝って反省してそうして二度としないと言ったならば、元々は精霊神信仰の篤い彼らはそれならこれからの行動を見ようと言っただろう。その後の行動次第では本当に許す人間も一人二人は出て来たはず。それがないって言うのは、問題。
それすらしないで違う町の聖職者に脅しをかけてくるあんにゃろを信じろだなんていやもう無理無茶不可能信じる理由がどこにもない。
しかし……これからどうするか……。
ラガッツォには、グランディールは中立と言った。闇寄りの中立。でも、それを貫けるかは怪しい。
なんせこの大陸、闇って言葉に過剰反応するから。
闇は敵。闇は悪。闇は滅。闇は死。
よって闇は大陸から追放すべし。
これがあんにゃろの作った神話、歴史、正義、悪。
そして大陸の民たちはそれに反論することを知らない。
生まれた時からそれが当たり前だったんだから、疑問に思うことすらない。
ぼくだって目の前にあんにゃろが出てくるまでは、あんにゃろの作った神話、歴史、正義を信じていた。疑う余地すらなかった。だって、反論する存在が何もなかったんだから。
ひっくり返ったのはあんにゃろがぼくの目の前で失敗ばっかしてくれたおかげだけどな!
あんにゃろのやらかしを言って回れば……と思ってた時期がぼくにもあった。
でも、そんな小失敗では皆の精霊神信仰をひっくり返せない。実際には大大大失敗と言っていいけど、信仰って言うのは両目を閉じながら耳を塞いでしまうものなのです。
何か大陸規模のやらかしがあれば……と思いかけてやめた。精霊神の大陸規模やらかしって言うのは大陸存亡に関わってくるものになる。存ならいいけど亡だとシャレにならない。
とりあえず、大陸を持たせるためにはどうするか。
光の力を削って、闇の力を増せばいい。
それだけ。
それだけ。なんだけど。
なんだけどな~。
この難問をどうクリアすべきか、それにぼくは本気で悩んでいます。多分姿を消したフォンセも同じことで悩んでいるはずだ。
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