第473話・精霊の助力
「おう、フォンセさん。あんたもそう思うか」
「思う思う」
タルトをパクつきながら頷くフォンセ。
「精霊と人間は違う生き物だから、力が強いからって精霊に頼り切ると人間によくない」
「?」
小首を傾げるシエルとアナイナ。難しい顔をするラガッツォ、ヴァチカ、マーリチク。
この三人……聖職者って言うのは、精霊神と人間を繋いで精霊の助力を求めるのは本来の仕事。つまり、フォンセの今の言葉は、彼らの存在価値をぶった切ったも当然なのだ。
でも、彼女の……光の精霊神の対である闇の精霊神の言葉は重い。
光の精霊神への深い信仰を持っている西の民出身の彼らでも、今あの明るいのがやっていることは、まずいと思っている。大陸そのものの存亡に関わる事態、いくら大喧嘩したとはいえともに世界を創ってきた対の言葉すら聞き入れない状況。これから先、明るいのからの救いが来るかどうかすら分からない。
明るいのを信じ続けるか。それともフォンセあるいは他の精霊小神に希望を託すか。
大陸の全聖職者は近々この選択肢を突き付けられることになる。
しかし、明るいのへの強力な信仰を植え付けられた彼らが、闇あるいはその他の精霊小神にその信仰を捧げることが出来るのか。
ぼくやフォンセから事情を聞いて明るいのがまずい方向に行っていると知っている三人でも、酷く悩んでしまう程、大変なことなのだ。
「そりゃあ、精霊としては、人間に手を貸すのは
飾りのキイチゴを口の中に入れながら、フォンセは続ける。
「力を借りるだけ借りて自分たちは何もしないなんて、それは何かおかしいって思わなきゃいけないんじゃないかって、わたしは思う訳よ」
「正しい!」
シエルがどん、とテーブルを叩いて同意。
「町長、町長、あんたはどう思う?」
シエル、その話題をぼくに振ってくるんですか。
「精霊に頼るのがいいか悪いか。この町を創ってきたあんたはどう思う?」
「精霊に頼るってのは、スキルも含めて?」
「スキルはいいわよ、別に」
フォンセが割って入った。
「この町は、スキルが職になりにくい方針を取ってるんだから、精霊の与えた力に頼っているってうちには入らないと思うから」
「えー、フォンセさん、詰めが甘い」
「そう? だけどね、スキルは精霊が与えたもので、それによって職や住む場所が決められる。それは精霊に人生を左右されてるってことでしょう?」
シエルが一つ頷く。
「この町は、スキルに全てを決められるわけじゃないでしょ? スキルじゃなくてもやりたいことはやれるんでしょ? シエル。あなたもそうなんでしょ?」
「おう」
「なら、精霊の力に人生を頼り切っているわけじゃないってことでしょう。町長、あなたもスキルがあるから町長やってるんじゃないんでしょう?」
「そりゃあね」
やっとブルーベリーの味が舌に残ってきた。
「スキル「まちづくり」があっても、別にぼくが町長やる必要なかったし。ていうかグランディールの元を作った時、町長の座を誰かに譲ろうと思ってたけど、アナイナが異様にプッシュするからなっただけで」
「え? わたしが言わなければお兄ちゃん本気で町長になる気なかったの?」
「なかったよ」
即答できます。本気でぼく、町長になる気はなかったし。アナイナが妙な理屈を押し付けてこなければ、絶対一町民として、町を作る時以外はダラーっとしていようと思ってたんだから。
話し合いとか化かし合いとか騙し合いとか、そう言う複雑なものとは無縁でいたかったのです。
「スキルがなくても、ぼくは町長の言う通り手伝ったんだろうし、そうすれば町長の意図する町を作っていたと思うよ? やりたいことを探しながら」
「で?」
フォンセがテーブルに肘をついて聞いてきた。
「町長さんは今町長をやっていることを後悔してる?」
「してない」
これは断言できる。
「なんで?」
「みんなが笑ってくれるから」
これも即答できる。
「たくさんの人が、グランディールに来た。その人たちが、ここで笑ってくれる。それがあるなら、ぼくは町長になったことは後悔しない。この町で笑って暮らせるって言うなら、どんなことでもやれる」
「ふうん?」
ドリンクの赤ワインを一口飲んで、フォンセはぼくの目を覗き込むようにした。
「フォンセ、お兄ちゃんに近すぎ!」
「いいじゃない、わたしが近付こうとあなたが妹だってことには変わりないんだから」
「え? ん。んー」
フォンセの切り返しにアナイナ混乱気味です。
「で? どんなことでもって言うことは、例えは殺しでも?」
痛いところを突いてくるね。
「殺したくは……ないなあ。平和に平穏に暮らしたいから、殺人とか処刑とかはしたくない。でも」
呼吸を少し整えて、続けた。
「この町に襲ってくるヤツがいるって言うんなら、ぼくは全力で抵抗する。その結果、嫌な結論が出て、その責任を誰が取るかってなったら、それはぼくが引き受ける」
「そんなことを精霊神がやってきたとしたら、どうするの?」
「もちろん、全力で抵抗するし、牙もむく」
「ふぅん」
ハーブとベリーのタルトを口に運びながら、少し興味を持った風にフォンセは笑った。
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