第471話・ショートケーキ展開

 ヴァチカから事の成り行きをこっそり聞いたぼくは、頭を抱えたくなった。


 ……うん、何かフォンセってアナイナに似てるなって感じてた。気ままでワガママで。


 だからこそ遭遇させたくなかったんだよなあ……。


 この二人が仲良くなっても悪くなっても、どちらにしてもぼくには迷惑な結果に終わるのが目に見えてる……から。ぼくの胃と心臓の為に、二人には出会ってほしくなかったし……そこに賑やかしのシエルまで入ってくると、もうどうにも止められなくなるよ……な……。


「申し訳ありません町長、ワタシたちでは止められなくて」


「いいよ、フォンセが最初にのったんだろ。そこで断ったらフォンセがヘソ曲げる。多分最良の結果……今の所」


「……そう言ってくださると助かります」


 ティーアの所から戻ってきたテイヒゥルもひょん、と髭が垂れ下がっている。


「ありがとうなテイヒゥル。よく頑張ってくれた」


 ごろごろ、と足になすりつくテイヒゥル。


「お? これが噂のケーキか」


 シエルが、メンサ先生作のショートケーキと、五個のベリータルトを見て、少し考える。


 そして、手を出す。


 しゅばばばばっ!


 シエルが並べ直した途端、ケーキやタルトがそれぞれを引き立て合って美しい調和を生み出した。


「う」


 ラガッツォとマーリチク、二人揃ってあーでもないこーでもないと言い合っていたのに一瞬で最適解を出されたのだから少しがっくり。うん、シエルが巻き込まれてくると知ってたら最初から飾りつけ一式シエルに押し付けられたよね……。


 と、遠い目で思っているその間にもシエルはテーブルを整え椅子を整え「明かり」の色まで整えて、とんでもなくすんばらしい会場を一人で創り上げた。


「すごいのね!」


「へへーん。シエルは、グランディールの全部をデザインしたと言ってもおかしくないんだよ!」


 やったのはシエルなのに何故にアナイナが手柄顔なのか。


「すごいわねー。噂には聞いてたけど。前の部屋と比べて雲泥じゃない」


 フォンセ、それって前の部屋が泥って言ってるようなもんだけど……いや、確かに使用前と使用後の幅が大きすぎるけどさ!


「ラガッツォとマーリチクが悪いわけじゃないから」


 慌ててフォローに回るぼく。


「いや、慰めなくていいよ町長……」


「フォンセさんの機嫌がよくなるんなら、それで……」


「あっはっは、ごめんねー? あなたたちの心遣いは嬉しいのよ? おもてなしって感じで嬉しかったわ? 本当よ?」


 笑いながら、の聖職者である二人にフォローしてくれるフォンセ。多分、彼女にしては最上級の褒め言葉。人間が頭を捻って考えたおもてなしを、その心意気を気に入ってくれたという証拠。


「それよりもさー。ケーキ! ケーキ食べよう! 周りにあるベリーで飾ったキレイなのは?」


「ベリータルト。うちの町民が作りました」


「これ、全部食べていいの?」


「一人で食べるの?」


「食べないわよ?」


 即切り返すフォンセ。


「お皿とカトラリーが八つあるじゃない。八等分でみんなで食べるんでしょ?」


「うん、そう、だけど」


 待ての出来る精霊神だとは思っていたが、分けっこの出来る精霊神でもあるとは。


「食べよ食べよ! ここにいるみんなで、ね!」


 フォンセはさっさと主賓席に座ってニコニコ笑顔。


「町長」


 ラガッツォが溜息をついて、刃の平らな長いナイフというより小剣と言ったほうがいいものを差し出してきた。ちゃんと熱いお湯で温めてある。


 さあ、仕事だ。



「どれからがいい?」


 フォンセに訊くと、間髪入れず「ショートケーキ!」と返ってきたので、ナイフをショートケーキに向ける。


「このケーキを作る為に力を貸してくれたすべての存在に、感謝を捧げて」


 この一言を考えるために、三日三晩悩んだ!


 何処からも文句を言われない、そして僕の心にも反しない一言。が見てても文句言えない文言。考えたんだよ? フォンセ闇の精霊神の前でを讃えるわけにはいかないしぼくも讃えたくないし。かと言って闇の精霊神を讃えれば、は絶対殴り込んでくる。


 あちらを立てればこちらが立たず。本当に色々考えて、アパルやサージュには理由を言えないから秘密の面々で、額付き合わせてこの簡単な文言を作ったんだ。褒めて欲しい。褒めてくれる第三者はいないけど。


 そして、メンサ先生に言われた通り、手早く八等分。


 白とイチゴの赤しかなかったショートケーキにスポンジの黄色が合わさって、美しく展開される。


「任せろ」


 シエルがトングをフォークを持って立ち上がる。


 八等分されたケーキに、飾られていたキイチゴを添え、ミントの小さな刃をグースベリーソースの赤い色に寄せる。


 ……美しい。


「どうぞ」


 シエルが胸を張ってフォンセに差し出した。


 にっこり笑うフォンセ。


「なんせフォンセが先~?」


 頬を膨らませたアナイナに、シエルが呆れたように言う。


「主賓だろ?」


「あ、そっか」


 アナイナ、お兄ちゃんがいなければ自分が一番だ主義何とかしなさい。お客様がいらっしゃる場合は例え妹だろうか聖女だろうがお前は後になるんだ。

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