第467話・アイラブ猫の湯(ヴァチカ視点)
ふんふん鼻歌なんて歌いながら着替えているフォンセ。
精霊神でも鼻歌を歌うんだあ……なんてしょーもないとこで感動してるあたしがいる。
スヴァーラはまだ顔が固い。乗っ取られていたことがあったから、どうしても恐怖を覚えてしまうという。それでもフォンセのことは一番知っているから……と役目を引き受けたけど、大丈夫? 心臓破裂してない?
心配な目線をスヴァーラに送ると、スヴァーラは何とか苦労して笑顔を作ってこっちに向ける。
いや、その顔だとむしろ不安を煽られるんですけど?
再び外着に着替えて、動くウサギの絵や彫刻のウサギと戯れるフォンセ。幸せそう。てか精霊ってそう言うものに幸せ感じるんですか。そうですか。あたし精霊神様にお仕えする身なんですけど初めて知りました。
「次は猫の湯? そっちは本物の猫がいるの?」
「いるけど……闇の気配は隠してね」
「うん隠す隠す。てか今回は来る時から完璧に気配消してる」
うん、確かに、今のフォンセからは、過去に彼女がやってきた時に感じた強烈なほどの気配……闇の気配は、かけらも感じられない。
もし彼女がグランディールを滅ぼそうなんて思っているなら、こんな気配はない。
つまり、彼女は心の底から楽しみに来ているってこと。
自分の気配とかであたしたちのおもてなしが台無しにならないように、本当に気を配ってるってこと。
そこへ、宣伝鳥がはたはたと飛んできた。
封筒にはあたしかスヴァーラしか開けられない印がある。
開くと。
『大湯処の準備は予定通り進行中』
ティーアの文字。
ティーアは会議堂の鳥部屋で鳥を使いながらこの一件が無事に終わるように進行役をしてる。
ティーアも大変だあ。
町で真っ先に町長が入れ替わっていることに気付いちゃったせいでこんな大事態に巻き込まれるとはねえ。
あたしも紙を取り出して、封として封筒に入れた。飛び出す宣伝鳥。
内容? 何にも書いてないよ。
事態が予定通り動いている場合はあたしたちからティーアの元に送る手紙は白紙だって決めてるもん。
大湯処では町長とラガッツォとマーリチクがもてなし会場設営に忙しいはず。
大湯処全体を使うんじゃなくて、大湯処の一室を町長名義で借り上げて、飾りつけやらのおもてなし準備をしてる。スキルを使えば一瞬で準備できるけど、それじゃあ面白くないとフォンセが頬を膨らませたそう。人間が人間をおもてなしするのを楽しみたいとか。あたしたち人間からすると何でそんな……と思うけど、そう言うのが楽しみなんだそうだから神様ってのは人間には理解しきれない。
まあ楽しみたいってんならいいけどね。
「ねっこのゆ、ねっこのゆっ♪」
フォンセはもう浮かれちゃってる。何がすごいって言われても、猫がたくさんいるだけですよ? まあ建物は一見の価値があるかもだけど。
「ん?」
歩いていたフォンセが目を細めた。
「もしかして……」
「はい」
目をキラキラさせたフォンセに、スヴァーラが初めて普通に微笑んだ。
「あれが猫の湯です」
「きゃあ! 猫の湯! 猫の湯ー!」
大喜びするフォンセ。
まあ、子供っぽい感性の持ち主なら喜ぶよね。
なんせ名前のまま「猫の湯」だからさあ。
うん。町の真ん中に、どーんと。どーんと、大きな猫がいるんだもん。
はしゃいでいるフォンセに、通りがかりの町の人が微笑ましい笑みを投げかける。まあ微笑ましいだろうねえ。猫の建物の周りで妙齢の女性がぴょんぴょん飛び跳ねて猫の湯ってはしゃいでるんだから。
「フォンセー。ここではしゃがなくていいからー。入ってからねー」
「はーい」
ここまで来ると、フォンセに何か神様感はなくなってきたよ。何か小さい町から出て来たばかりのお客を出迎えているっぽい。古い友達を出迎える気分で、なんて町長に言ったけど、うん、そのままだね。フォンセと喋っていると相手が精霊とか神様とかってんじゃなくて、なんか友達っぽい感じがしてくるもん。
うん、本当に友達だって思っちゃダメってのは分かってる。町長も言ってた。相手はどんなに人間に見えても人間とは異質な存在なんだから、完全に心を許しちゃいけないって。
スヴァーラが警戒してるのも、同じ体に入っていた時に、人間じゃない部分を感じたんだろうね。だからこそ心を許しきっていない。うん、それが正しい対応の仕方なんだろうね。注意注意。
軽くお湯を浴びて、湯着で猫の間に入った途端、フォンセのテンションはもっと上がった。
「猫~! 猫~!」
きゃあきゃあと喜ぶフォンセ。ちょっと待って、この世界の生き物の半分はあなたが作ったんだよね、なんでそこまで喜ぶの?
猫たちに緊張の様子はない。フォンセが頑張って闇の気配を消しているからだろうね。入ってきてきゃあきゃあ言い出したフォンセを見て、顔を出したり、喉を鳴らしたり、腹を見せたり。
フェーレースでそういう風に育てられた猫たちだから、お客さんには愛想がいい。
フォンセが手を差し出すと猫がゴロゴロ言いながらすり寄って行った。
「きゃあ、来たあ」
嬉しそうに猫を撫でまわすフォンセ。
「猫を逆撫でしたりお腹とか喉とか尻尾を無理やり触っちゃダメよ?」
「はーい」
素直。
さすが、町長曰く「待ての出来る精霊神」だわ。
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