第464話・キーパーソン
「わかった! もう懐かしいお友達を出迎えるノリで行く!」
「ヴァチカ?」
不安そうな片割れに、光の精霊神の癒し手は両掌で机を叩いた。
「相手は精霊神って思うからいけないの、随分昔に別れた友達と久しぶりに会った気分で行く! もう懐かしい友達とグランディール遊び回るつもりで行く! わたしの信じる精霊神様と対の存在だとか大陸を滅ぼすとか考えたら、きっと頭が爆発する!」
「うん、そのノリが一番いいと思う」
ぼくも大きく頷く。
「フォンセは人間と人間の町に興味を持っているんであって、敬意を抱かれたいとか信仰されたいとかじゃなくて、栄えている人間の町と人間の好奇心が主なものだから、それが一番いいと思う」
「スヴァーラ、そのノリで行くからね? ちゃんとついてきてね?」
「な……なんとか、します」
スヴァーラはまだガチガチ。
「なんで俺がこの立場なんだろうな……」
ティーアも頭を抱えている。
「俺、そう言うとりまとめとか得意じゃないんだが」
「ぼくがやったらフォンセ絶対気付くから」
「ああ……お前もフォンセの片割れの一部だからな」
「うん。ぼくの考えていることが読まれても不思議じゃない。読まないとは思うけど」
相手は待ての出来る精霊神。だけどおもてなしの裏にぼくの意図などを読み取ってしまう可能性だってあり、裏の見えるおもてなしなんぞ楽しくないどころか不愉快ですらあって。
だから、かつて明るいのと差し向かいで単身やり合ったことがあるティーアに取りまとめてもらうことになった。
本人はギリギリまで渋ったけど、スピティ盗賊団の取りまとめをしていたところ、相手を精霊神と知ってそれでもあっちのペースに持って行かせない度胸から拝み倒して頼み込んだ。なんせ最重要キーパーソンですからね。
このおもてなしはサージュやアパルには説明はしてあるんだけど、個人的なおもてなしで他に迷惑はかけないからとこの一件には踏み込まないように頼んである。それでも二人は気にかけてきている。ぼくと精霊神の一件があってから、ぼくの隠し事に敏感になって、調べに来ては何度か結界に引っ掛かって回れ右している。そこまでして隠しているぼくや聖職者三人が会議堂を出て町のあちこちで何かしていれば、何かおかしいと気付くだろう。何事かを確かめに来るかもしれない。
そこでの司令塔ティーアである。
ティーアの鳥部屋はティーアの許可した人間以外には入れない。そして要の宣伝鳥やエキャルは好きに出入りできるしそれを不穏に思われることもない。ここを情報の集積地にして鳥で情報をやり取りする。町長補佐の立場で情報を仕入れようにも、この一件に関してはぼくが直筆署名で町長代理の権限を与えてあるから、二人はそれ以上何もできなくなる。
いずれあの二人にも伝えなきゃいけない話だけど、あくまでも今ではない。今、間違っても、関係者以外に闇の精霊神のおもてなしをしているなんて知られちゃいけないのだ。例え話が進んだとしても、光の精霊神が大陸を傾けようとしているとか闇の精霊神と大喧嘩しているとかその闇の精霊神がなんか知らないけどこの町に興味持ってるとか、そう言うことは絶対絶対絶対に、知られちゃいけないのだ。
「しかし、失敗してもすまんとしか言えんぞ? 俺は」
「少なくとも、フォンセはティーアに敵対心を持ってないから」
「何故だ」
「言葉で明るいのをけちょんけちょんにしたから」
「けちょんけちょんってしてないぞ。こっちは背中が冷や汗ものだった」
「でも、事実明るいのから情報を聞き出したのはティーアだし」
フォンセと雑談した時にその話がチラッと出たけど、「今のこの大陸であいつと差し向かいで話をして情報を引き出すなんてすごいわよねえ。私が来た時の絶対弱みを見せまいとしていたあの覚悟もいいわ。あいつはこの町ではあなた以外の気に入りよ」と言っていた。そのお気に入りが参加しておもてなししていると気付けばフォンセの機嫌も少しは良くなる……というのがぼくたちの作戦である。
「そこまで期待されても困るんだが……」
「とにかく保険としてデンと座ってて。それだけでぼくたち何となく安心する」
何故かってティーアが関係者内で一番年上だから。ぼくが十六、ラガッツォ、ヴァチカ、マーリチクが十五、スヴァーラがちょっと上で二十六。そしてティーアが四十一。しかもティーアは家族持ち。奥さんフレディと二人の成人前の子供がいて、盗賊しながらちゃんと養っていた立派な大人である。実際この秘密会議とかも、ティーアが重要なところで取りまとめてくれなかったら空中分解した可能性も大きい。
「最終会議をまとめると、成り行き任せ、情報は密に、で、いいか?」
「うん」
「話し合う必要あったか?」
「とりあえずみんなが覚悟を決めるのに。あ、ペテスタイの人たちにも言っておかないと」
「今思い出すか? 今?」
グランディールと並んで移動している空飛ぶ町ペテスタイの人たちには、一応今回の闇の精霊神のおもてなしを伝えてある。明るいのに酷い目に遭わされた人たちだから、そんな嫌悪感とかは低いけど不安はあるだろうから、情報は伝えてある。だけどここしばらくの情報は伝えてない。
「エキャルー」
手早く書いた手紙をエキャルに持たせると、エキャルは飛んで行った。
「じゃあみんな、明日はよろしく」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます