第463話・最終確認
冷器部屋に入れて、ぼくしか開けられない鍵をかける。
泥棒なんていないと信じてはいるけれど、このケーキとタルトに何かあったら大陸滅亡級の凄惨な事件が起きてしまう。
「町長連相手の時より気を配っているようだけど、どなたをおもてなしするんです?」
ピェツに言われて、一瞬スヴァーラの目が泳ぐ。
ぼくが代わりに笑顔で答える。
「スヴァーラを旅の途中で助けてくれた人だよ。ずいぶん親切にしてもらって、グランディールの近くまで送ってもらったって言うから、スヴァーラが是非とも礼をしたいって言って。町民が世話になった礼をするのは町長の仕事でしょ」
「へえ。何処かの偉いさんを歓待するんじゃないのか」
「何処かの偉いさんを歓待するなら町民全員に通達して大歓迎してるよ」
「ああ、そうか」
「相手はおもてなしをされてみたいって言うから、個人的におもてなしをするの。ケーキも僕の個人的なものだから」
「そんなだったら僕も助けるよ」
冷器部屋のドアを見ながら、指を銜えたさそうなピェツの声。
「ピェツは焼きの手伝いでお礼をたくさんもらってるだろ?」
「もっと食べたい」
「……作れば?」
「作ってもらうのが美味しい」
「甘味職人のお嫁さんを貰えばいかが?」
スヴァーラさんは笑い含みに言った。
「甘味職人候補の中には妙齢の女性もいらっしゃるんですから、スキルの有能性を押し出してお付き合い始めれば」
「その手があるか」
何て言いながらピェツは出て行く。
「行った?」
「……よう、ですね」
スヴァーラが町長室のドアを細く開けて確認した。
「よし、結界」
テイヒゥルがぬうっとドアを開けて出て行って、それまで大人しく止り木で様子を観察していたエキャルが空いた窓から出ていく。
少しして、ティーアと三聖職者が飛び込んで来た。
「いよいよ明日だ」
うん、と一同が頷く。人間だけじゃなく虎と鳥も。
「予定の最終確認をするよ」
うん、と頷くみんな。ぼくも一緒に頷く。
「明朝八の刻に
全員の視線が窓の外に向く。
会議堂の横にある時計塔。時を告げる鐘が六の刻から鳴る。
「まず出迎えるのはぼく、ヴァチカ、スヴァーラ」
うん、と女性二人が頷く。
「フォンセにはちゃんと出入り口から来いっていてあるから、その時間キーパに頼んで地面と上昇門でつないで、そこからフォンセが来る。一応、世間話的なことをしつつ、ウサの湯に向かう」
確認して、次にマーリチクとラガッツォの方に向く。
「ぼくとマーリチクとラガッツォは、その間に大湯処の特別室へケーキを運び、飾り付ける」
うん、と聖職者二人が頷く。
「ティーアは全体進行確認を頼む。宣伝鳥の準備はいい?」
「ああ」
「じゃあ、進行状況は常時宣伝鳥に伝えるから、何処か遅れたり異常事態が発生したりフォンセが好きなことし出したりしたら、ティーアの判断でどんどん変えていいから。この一件に関してはティーアに町長代理の許可をだすから、フォンセがやりたい放題し出す前に予定に乗せちゃって」
ティーアは頷く。
「テイヒゥルはフォンセたちと一緒に行動して、何か変なこと考えるような連中から三人を守って。エキャルは何かあったら即ティーアに連絡」
うん、と一頭と一羽が頷く。
「この一件に大陸の存亡までかかってきているから、もうプライドとかそう言うこと考えなくていい。とにかくフォンセが満足したらオーケーなんだから、全力でフォンセをおもてなしする。他の町民に迷惑が掛からないように!」
「「「「「了解」」」」」「ぐあお」
声を出せる人間とテイヒゥルは返事をして、鳴かない鳥のエキャルは何度も大きく首を上下させた。
「最後に質問」
ティーアが手を挙げる。
「はい」
「フォンセが帰る予定時間は?」
「フォンセが満足したら」
そして腕を組む。
「相手は闇の精霊神だから、夜の町を見たいとも言い出すかもしれない。その場合はその時の都合に合わせて」
「その時に合わせてが多くないか?」
「しょうがない。人間だったらある程度の予測はつくけど、相手は人間の皮を被った精霊神だ。全く予想がつかない行動をされる可能性だってあり得る。ガチガチに立てた予定で崩れてアウトより、その時その時に応じて判断したほうが絶対いいと思う」
「相手は人間じゃないものなあ」
ティーアがガシガシと髪をかき回す。
「相手が求めているのは人間の町のにぎやかさと、湯と、おもてなしと、甘味。でもそこから外れる可能性だって十二分にあるからね。その時はその場の勢いとノリに合わせて進めて。ウサの湯、大湯処、ケーキ。この基本三か所さえ押さえておけば、あとどこにずれても本人の希望は満たせる。出来るだけ明日一日で終わらせたいけど、下手したら泊りになる可能性だってある。その場合も時と場合に応じて」
「とにかく喜んでもらえればいいのね」
「そう。それだけ」
ヴァチカが大きく溜息をついた。
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