第462話・完成ー!
「ピェツは?」
「今いらっしゃいます」
「こんにちは」
ひょこっと顔をのぞかせた気弱そうな青年……。
ピェツだ。
「本日もよろしくお願いします」
「はい、よろしくです」
ペコペコと頭を下げる窯師ピェツ。
こう見えても陶器町グランディールを支える重要人物。窯の中を適温に保てるというスキルの持ち主だ。それが原因でファヤンスにいた頃は監視付きで閉じ込められて渋々スキルを使っていたけど、今は好きな時に好きな職人の依頼で好きな時に窯を扱っている。で、このスキルは料理にも使えるとまあ、そう言う訳。
「これから昼食にします。今回はピェツさんのご協力があり、私が代理で焼きますが、本来なら自分で窯の温度を保ったりしなければなりません。石釜の使い方を勉強しておくように」
はいっと返事が返ってきて、机の上に焼くだけのベリーを置いて、生徒さんたちが外へ出ていく。
「昼食を食べに行くんだ」
「ええ。クイネさんが全員分のお弁当をご用意して下さいますので」
相変わらず無敵の料理人だなクイネ。
「お手伝いしていただけます?」
スヴァーラとぼくとピェツでタルトを石釜の前まで持って行く。ピェツがしばらく石釜を見ている。タルトを入れようとしない。
「タルト入れないの?」
「予熱と言って、前以て窯を熱くしておかないと美味しくも綺麗にも焼けないんです。陶器もケーキも」
窯の中が暖かくなり、熱くなる。
うん、とピェツが頷いて、タルトを慎重に入れていった。
「これで、まあ三十分」
「へえ」
「ピェツさんがいらっしゃれば、焼き菓子が生焼けになることも黒焦げになることもなくていいですね」
メンサ先生はほぅ、と息を吐く。
「ファヤンスからは優れた人々を引き抜けました」
それが原因で、ファヤンスの町長の逆恨みで頭おもっきし殴られて拉致監禁されたけど、それだけの価値はある。クイネやピェツ、町中のパンを焼くアルトス、家畜の売買をするゾーオンなどなど。ドゥルセやクオーコ、甘味職人志望者の中にも結構ファヤンス出身者がいる。……ってか、人間と同じ重さの陶土、という条件でファヤンスで大半の町民をもぎ取ってきたから、ファヤンス出身者が多くて当たり前。次が西の人たちかな。その後が放浪者の人たちか。
結構グランディールを目指してくる放浪者はいるらしい。スキル無関係で働く場所と住む家を与えてくれるという話を聞きつけた人たちが、空を飛んで何処にいるのか分からないグランディールの噂を追って大陸を捜し回っているという。可能ならそんな人たち全員を受け入れてあげたいんだけど、サージュとアパルがその人の裏を調べると、何処ぞの草だったりすることもあるんである。草が入って町を調べられてどうなるってわけじゃないけど、現在
まあ、実際一度、降りていた時に拉致られてるから、胸張って大丈夫とは言えないぼくです。
町中では拉致の危険、町外では大陸に関わる危険。グランディールは夢の町、と言われているんだけど、実際は危険でいっぱいです。主にぼく。
その後、クイネが差し入れてくれたご飯を食べながら時間を待って。
「そろそろ時間だ」
ピェツが呟いて、全員で窯の中を覗き込む。
赤い光を帯びているけど、炎じゃない。熱。
その熱が一定の温度を保ってタルトを焼いている。
その一つをピェツが取り出す。
メンサ先生が
ゆっくりと引き抜く。
「何を?」
「竹串の先に何もついてこなければ、焼き上がっているという証明です」
「じゃあ」
「完成です」
メンサ先生は薄い笑みを浮かべた。
「おおおおお」
窯から取り出されるタルトたち。色とりどり、鮮やかで、美しい!
「これを六等分して、二切れずつショートケーキの周りに飾ったら素敵なんじゃないかしら。……町長」
「うん。これなら彼女も喜ぶ」
乙女心は分からないけど、アナイナ辺りが見たらすっごく喜びそうな物体である。
味? 知らない。食べてないから。
「では、こちらを」
一種類二個ずつ十個のタルト。メンサ先生はそれを一種類ずつ紙で出来た箱に入れた。
「飾りつけは御自分で?」
「ええ」
ケーキを作ってもらうだけで充分この精霊神計画に巻き込んでいるのに、飾りつけまでさせてしまっては明るいのに目を付けられる可能性だってある。
明るいのは待ての出来ない精霊神なのだ。
「残りのタルトは?」
「皆で食べて味の批評ですね。で、一切れをピェツさんが頂くと」
ピェツが幸せそうな顔をしている。うん、甘い物好きだって話だし、スキル使って甘い物出来てそしてそれを食べる権利があるって言うなら喜ぶな。
「じゃあ、町長室の冷器に入れておこう」
ショートケーキ二つをぼくが両手で、タルト二つをスヴァーラが両手で、ピェツがたくさんのベリータルトの食べ比べが出来るからと手伝ってくれて、一つをそれまで調理室の前で待っていた待ての出来る虎、テイヒゥルが器用に頭に乗せてバランスを保って運んでくれた。
冷器に収めて、これで一安心。
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