第456話・ベリーを探しに

 二日後の晴れた朝。


 久しぶりにグランディールを出た子供たちは、地面の上ではしゃぎまくっていた。


「はい注目注目~」


 学問所のケンナリ先生が手を叩いて子供たちの注目を集めた。


「はい今日は前も言った通り、森の食べられる物を探しに来ました」


 子供たち、眼がキラキラ。


「ただし、見つけたとしてもすぐに口に入れないように! 勉強した通り、森には毒がある物もあります! ヴァローレさんに見せて「鑑定」してもらってから!」


「「「「「はーい!」」」」」


 元気のいい返事。


「あと、ベリーを集めるのは町長の頼んできたことだから、見つけて鑑定してもらったら町長に!」


 またも元気のいい返事。


「大人の傍から離れないように! 何処かへ行くんだったら必ず大人と一緒に行動! そしてお友達も一緒です! いいですね!」


「「「「「はーい!」」」」」


 ……まあ、どんなに言っても、勝手な行動をとる子供はいるものなので。


 ベリーの鑑定をするために近頃のんびりしていたヴァローレだけでなく、子供の居場所を掴むために「場所特定」のリュー、いざって時の「移動」でアレを同行させた。後は危険な時のソルダート、獣が来た時の「動物親睦」のフレディ、怪我した時の為「癒し手」のヴァチカも付け加え、そして子供たちが採った物を新鮮に持ち帰るために「食品保存」のシートスというメンバーを集めた。


 みんな普段は好きなことをやって町で過ごしてるんだけど、今回は子供を守るため、と仕事を置いてここに来てくれた。


 山に生える食べられる物って好奇心くすぐられるので。ぼくも同行。エキャルとテイヒゥルも同然なので、子供二十人ほどに大人が十人、伝令鳥と護衛虎も追加。


 ここから子供をさらおうかなと考える人間はまずいないだろう。


 なんせ学問所の先生とぼくとヴァチカ以外はスピティ盗賊メンバーだったりする。そんな彼らが警戒のためそれぞれが腰に武器を持っている。剣から短剣から手斧から槍からと武器も勢ぞろいに近い。しかもみんな久々の出番とばかりに張り切って、辺りの気配を探り、獣の気配に殺気を飛ばしたりしてるんだもん。そしてエキャルは周りの空間を把握してその範囲から出ていく気配があればリューに知らせ、テイヒゥルは採取場所をうろうろと歩いて出て行こうとする子供を引きずり戻す。


 うん、ここから誘拐しようってのは自信があるか馬鹿かのどっちかだな。


「せんせー!」


 子供が二人走ってきた。


「キノコ!」「たくさん!」


「おお、すごいな。じゃあ鑑定してもらおう」


 キノコの鑑定はスキル持ちかキノコ仕事をしている人に頼んだ方がいい。そんだけ難しいことなんですよ。


 ヴァローレが受け取ってスキル発動。


「これはワライダケ、これはシビレタケ」


 いきなり不穏な単語出た!


「どっちも毒ね」


「えー」「えー」


「じゃあこれ!」


 わさわさ重なっているようなキノコが突き出される。


「マイタケ。食べられる」


「わー!」


 食べられる、と聞いた途端、子供の目がキラキラからギラギラに変わる。


「でも、キノコはやめた方がいい」


 ヴァローレは子供と目線を合わせて言う。


「キノコは毒を持っているのが多いし、区別もつきにくい。キノコのプロとして勉強するか、「キノコ鑑定」のスキルでも身に付けない限り、危ないことになるから」


「ぶー!」「ぶー!」「ぶー!」


「森で食べられるものはキノコだけじゃありません! いろんなものを探しましょう!」


 チチェル先生も声を上げる。


「ちょーちょー!」


 子供独特のキーの高い声が響く。


 蝶々? いや町長か?


 子供がぼくの所に走ってきたので町長だろう。いや頭の上に蝶々が飛んでいるからもしかして違うかも?


「これベリー? ベリー?」


 町長だったようだ。受け取ったのは黒い粒々の集まりのような果実。


「鑑定してもらおう」


 のんびりと木漏れ日の下日向ぼっこをしているヴァローレの所に行く。


「はいはい何だい?」


「これ」


 ヴァローレがスキルを発動。


「おめでとう、ブラックベリーだ」


「わー!」


 子供がにっこり笑ってぼくに差し出した。


「ありがとう」


 そして、一粒差し出す。


「え? 食べていーい?」


「どうぞ? 最初に採った人の特権だ」


 子供が嬉しそうに口にブラックベリーを入れる。


「甘い……けど、ちょっと渋い!」


「でもそんなに酸っぱくないだろう」


 残りのブラックベリーをシートスに渡しながら、ヴァローレ。


「完熟してるからな」


 シートスがベリーをピシっと固定。固定されたベリーはそれ以上熟することも腐ることもなくなる。


「あいたっ」


 小さな悲鳴。


「どうしたの」


 それまで行動指定範囲の中心部にいたヴァチカが、耳聡く聞きつけてそこに行く。


「トゲ刺さった~……」


 綺麗なオレンジの小さい果実を持ったまま、指先を口で舐めている子供。


「はいはい見せてね。ああ、ちょっと我慢してね」


 ヴァチカはトゲを抜き取り、癒しの力で傷を塞ぐ。


「ありがとー癒し手様!」


「いいから怪我しないように気をつけてよ?」


「はーい! ヴァローレさん。これは?」


「ああ、クサイチゴ」


 たたたッと走ってきた子供から受け取ったオレンジの小さな果実を見て、頷くヴァローレ。


「ベリーだ」


 テンションが上がる子供。


 平和だなあ……。大陸が存亡の危機にあるとは思えないくらいに。

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