第449話・聖職者の本来の役割

 で、ぼくは、事の発端から話し始めた。


 かつて一時的にがぼくの肉体を乗っ取って町長をやって、ぼくはの聖地に犬の肉体を与えられて追い払われていたところから、聖地で聞いた寄りの創世神話、の語った大陸を含めた世界の成り立ち、そしてフォンセがさっき語った、闇側からの恐らくよりも少し真実に寄っていると思われる神話を。


 最後まで語って、紅茶で喉を潤す。


 冷め切った紅茶だけど、水分ってだけで長々喋った後には心地いい。


 そして、見回すと。


 全員、絶句。


「……聞いてない……」


 ラガッツォが呟いた。


「聞いてない聞いてない! おれ、全然聞いてない!」


「うん、言わなかったから」


「なんで!」


「フォンセも言ってたんだけど」


 ぼくは今度は陶器のコップに水を入れて、ぐいっとあおってから言った。


「君たち、創世神話の裏側と闇の精霊神って存在を知っちゃったわけでしょ」


「おう」


 真っ赤な顔をしたラガッツォと、真っ青な顔をしたマーリチク、その間に挟まれてゆっくり紅茶を飲んでいるけどカップを持つ手が微かに震えているヴァチカ。三人三様の動揺を見ながら、ぼくは丁寧に答える。


「他の聖職者見て、あ、あれ、何も知らないダメな聖職者だ、なんて思っちゃうでしょ。それだとグランディールと他の町の仲が悪くなっちゃうからって思ったの。フォンセの心配もそれ。グランディールと何処かの町の仲が悪くなって、そこにフォンセが関わっているとなると、絶対は首突っ込んできて、グランディールを光の中に引き戻そうとする。そうなると、大陸の光と闇のバランスが崩れて、この大陸は一巻の終わり、あーあー、残念でした」


 パッと手を開くぼくに、ティーアが首を竦める。


「ってことになりそうだったから、ぼくは君たちに黙ってたし、もフォンセも君たちに知らせようとはしなかった。ただ、ここまであからさまになるとねー」


 はふぅ、と溜息。


「そもそも待ての出来るフォンセがわざわざと大喧嘩したって言いに来て、ここまでの情報を流しに来たってことは、これからそう遠くない将来、大陸の、光と闇のバランスががったがたになるわけだよ」


「あ」


 スヴァーラも頭を抱える。


 光と闇のバランスが崩れると大陸が崩壊するというのはフォンセが強調していたことだった。


 スヴァーラ……一時フォンセに肉体を共有させられていた彼女からすれば、少なくとも彼女がそう言う所で嘘はつかないって言うのは思い知っている。だから、この言葉は深刻に受け入れている。


「これで大陸を保たせるのは大変になる。とりあえず何とかもたせなきゃいけない。グランディールでもたせれば、他の町も真似しようと思う。そう思えば自然に各町で、グランディールの真似を始める。オヴォツもそうかな。オヴォツはフォンセを崇める唯一の町だから」


 オヴォツのことも説明して、そして、もう一杯水を飲む。


「とにかく、君たちには心づもりをしておいてほしくって」


「心づもり?」


「本来の聖職者の役割……光と闇のバランスを保たせるって言う、この大陸では随分昔に消え去った本来の聖職者としての役割を果たしてほしい、そう思っている」


 三人の顔が強張った。


「無茶かもしれない。でも、やってもらいたい」


「光の精霊神の聖職者であるおれたちが? 闇の力を?」


「闇を操れって言ってるんじゃない」


 ぼくは真剣に言った。


「光の力を弱める。そうすれば、自然フォンセの力が少しばかり入ってくる」


「闇の力って……破壊しかないんじゃ?」


「光の力も充分破壊だよ」


 椅子に座り直してぼくは言う。


「フォンセの言った通り、光になった場所が熱くなり、闇になった場所が凍えたなら、光の暴走を許せば大陸は焼けてしまう。何とか闇と混ぜて、にしないとヤバいんだよ」


 そこでふと、かつてと話した時を思い出した。


 光と闇は混ぜられないとぼくはあの時言った。何か仲立ちをするものがないと相反するものは混ざらないと。


 あの時は以外の話を聞かなかったから分からなかったけど、そう、があれば、光と闇は混ざり合うとフォンセは言っていた。


 と、すれば。


 聖職者の本来の役割は。


「多分、聖職者がふるう力は、光か闇、そして、だったんじゃないかなと思う」


 マーリチクがしきりに汗をハンカチで拭っている。ヴァチカが空っぽのカップを繰り返し口元に持って行っては戻しを繰り返している中、ラガッツォだけがじっとぼくを見ていた。


「海……つまり、光と闇を中和する存在だな」


「ああ。高まった熱をいきなり氷に放り込んだら互いに爆発するかもしれない。その前にを通して、熱風を熱水に変える。極氷を冷水に変える。そして混ぜ合わせれば、落ち着く……ぼくはそう判断している」


「それが出来ればグランディール……後々には他の町も安泰……ってわけか」


 ラガッツォは腕を組んで頷いた。

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