第446話・大陸の精霊神的真実

「……あー……つまりだ。何にもない場所に創造神が現れて、世界を光と闇に割って、そこから空と大陸と海を創って、大陸を育てるために自分の手下を作ろうとしたけど失敗したんで、光と闇の対の神を創って、大陸を育てさせた。で、たくさんの大陸に生命が育ったのを見て、一番いい大陸を一ついい世界に連れていくって約束した。この大陸の人間としてはそういう理解でいいか?」


「それだけ理解出来れば十分よ」


 ふぅっと息を吐いて、温くなりかけた紅茶を一気に飲み干すフォンセ。


「でも、その大陸を選ぶのはいつなんだ?」


「知らないわよ。あの御方のことなんだから。今何処にいるのかすら、神の一柱である私にも分かりゃしない。下手をすればこの世界にいないかもね。あの御方はものすっごく気紛れで移り気なんだから」


「つまり、いつ終わるか分からない勝負に、大陸の神たちは挑んでいるわけか」


「そ。滅んじゃった大陸もあるけどね」


 目を丸くした僕に、笑いながら続けるフォンセ。


「それも一つじゃないわよ。だけど理由は一つね」


「一つ?」


「光と闇のバランスが崩れたこと」


 サラッと言ってくれるけど……それって今この大陸でも起こってることじゃないだろうなおい!


「ああ、この大陸は大丈夫よ、まだ、ね」


 ウインクして微笑むフォンセ。


も私も、追放される時点で大陸のバランスが崩れるのは気付いてたから、私は追放の前に闇の種をあちこちに仕込んで、も敢えてそれを見ないふりした。闇を全部消し去れば光だけになった大陸は際限なく気温が上がって生き物が生きていけない世界になるからね。精霊だって死んじゃう。も同じ。肉体がなくたって精霊だって生きてるんだから、生き物のいられない世界には私たちもいられない」


「バランスの崩れた世界にいられるのは創造神だけってことか」


「そうね。もそれを理解しているから、自分の目の届かない所での闇は見逃している……いいえ、いた、ね」


「過去形?」


「ええ。は最近になって、自分だけで大陸を維持できるんじゃないかって思い始めた。光だけでもなんとかなるって。光の自分が闇の役割も果たせるって。そうすれば自分は創造神と同じ存在となり、純粋な生命を生み出して、勝負に勝って、高次の世界へ行けると。ばっかよねえ、昔それを言い出した私を追い出しておいて、今は自分がそんなことを言ってるんだから」


 そう言えば、以前は言っていた。フォンセ……闇の精霊神は光と闇を併せ持つ純粋な存在を作ろうとしたって。


 今の僕たちは光と闇を併せ持つと言えば言えるけど、光の力も闇の力も使えるわけじゃない。光の部分と闇の部分があって、それが体の中に点在しているって感じ。


 あれ?


「フォンセは昔、光と闇を併せ持つ純粋な存在を作ろうとしていたんだろ? なんで?」


「そりゃあ、それが創造神に並びたてる存在になった、唯一の証だからよ」


「フォンセは創造神になりたかったの?」


「創造神と言うか、それに並び立てる存在になりたかったのよね。上に立つ存在の上に立ちたければ、それを超えるしかない。あなただって、ええと……そう、ミアスト。ミアストを見返してやりたくて町づくりを始めたんでしょ? それは、まず同じ町長という立場にならないと成し遂げられなかったわよね?」


「……ああ、そうか」


 いきなり超えるのは無理だから、まずは力を溜め、知識を溜め、そして並び立てる存在に。そうなってから、初めて自分が相手を超えるべきポイントが見えてくる。


 少なくとも下で「こうなりたい」「ああなりたい」と言っているだけでは何も始まりやしないんだ。


「創造神に並び立つには、創造神のように、光と闇を分けたような、空と大陸と海を創り出したような。それをこの大陸で作れたら、少なくとも創造神に次ぐ対の神の中で一番強い、と証明できるでしょ?」


「……分からなくも、ない。ただそれが人間やにとって大迷惑だっただけで」


「もー、それは反省してるのよ。本当よ?」


 ここまで信用できない「本当よ?」があるとは思えない。


「追放されたついでにあちこちの大陸をぶらり旅して、創造神のやらかした御業がどんなにすさまじいものだったか、思い知らされたわ。私たちは創造神の創った法の下で生きていて、その法に従っている限り創造神を超えることはできない。それを思い知って戻ってきたら、の作った中途半端な混ざり物が大陸で満ちていた。はまだ本気で創造神を超えようとしていた。だから、私も怒って、そんなだったら大陸滅んじゃうわよって言ってやった」


「んー? は確か、光と闇が混在する世界は滅ぼすってあんたが言ってたって……」


「それこそ誤解よ。光と闇を一つにすることは創造神以外には不可能で、あんたの作ったのは紛い物ばっかりだとは言ったけど」


 それもかなりきつい一言ですフォンセさん。


「それでカチンと来たんでしょうね、大陸は自分が高次の存在にする、お前はいらないって追い出された。さすがにいらないから大陸と一緒に滅んじゃなさいって言うわけにもいかないから、凶獣や魔獣、オヴォツ、あとは大陸の闇化かな? そんなのを使ってバランスとるように仕向けてるの」


 まだこの世界が危ういながらも存続しているのは私のお陰よ、感謝しろとは言わないけどね、とフォンセは口を閉じた。

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