第445話・創世期人間用バージョン
ぼくが紅茶を淹れてスラートキーの人たちが試供品として置いて行ったクッキーを差し出すと、フォンセはそれを両方とも綺麗に平らげた後で、語り始めた。
「大陸が生まれる前のこの世界は、何にもない世界。光も闇もない、虚無の空間……と言っても、生まれた時から光と闇が共にあるあなたには分からないでしょう」
「分からないね。薄明るかったのかな、としか思えない」
「でしょうね。私もこの虚無の世界を何と言って形容していいか分からない。とにかく、なんにもない、が、ある。そういう世界」
あっちが「ぼくには分からない」と言う前提で話しているので、ぼくも安心して意味不明、という顔が出来る。
「虚無の世界が変わったのが、創造神がこの世界に出現したこと。なんにもないところに初めて形を持った、虚無と相反する存在が現れた。その時からこの世界の時間が動き出した。……創造神が一体どういう存在なのかは私たちにも理解できない。この世界より高次の世界の存在なのか、それとも虚無から直接生まれた存在なのか。それすら分からない」
「あんたらでも分からないんだな」
「そうよお。あいつならそんなことは知らなくていいって言うだろうけど、私は知らないことは知らないって言える精霊神だから」
背中の毛を逆立て続けるテイヒゥルをよしよしと宥めて、ぼくは話の続きを促す。
「何処まで話したっけ。あ、創造神出現のところだったわね」
その前に新しい紅茶を要求されたので、淹れてやると、フォンセは今度はちびちび飲みながら話し始めた。
ぼくもテイヒゥルの背中を撫でながら、自分は水を飲む。
「精霊神の出現で、虚無は虚無じゃなくなった。何かモヤモヤした
一生懸命ぼくにも分かりやすい言葉を選んでくれているのは分かるけど、意味が不明。
「虚無の世界は光と闇に分けられた。滓も同じように光と闇に分けられ、創造神はそれを軽いものと重いものに分けた。軽いものは空に、重いものは大陸になった。虚無のままだったそれは海となり、大陸と空の間でそれを分けるものとなった」
「つまり、海は虚無に一番近い存在なんだな」
「そうね。まあ、海になった時点で虚無とは言えないものになったんだけど」
もう一口紅茶を飲んで、フォンセは続ける。
「光と闇の中で熱と寒が生まれ、光は限りなく熱く闇は限りなく凍えて行ったけど、創造神はそれを海に入れて混ぜることで暖と冷となり、光が闇に、闇が光に変化することが出来るようになった。両極端な存在から、海を混ぜ込むことで両方の要素を持つ存在が生まれるようになった。そこで、創造神はある大陸に降り立ち、光と闇を司る「唯一存在」を作ろうとしたけれど、上手く行かなかった。まあそれも仕方ないわ。創造神は一人で光と闇を操れたけど、それは虚無に在ることの出来た存在だから。つまり、あー……創造神以降に生まれた存在は、創造神を超えることはできなかったの」
「ああ……」
本当はもっと深い理由があるんだろうけど、多分聞いても分かりやすい説明は帰ってこないだろうから、ぼくは水で唇を湿らせながら話を聞く。
「だから、創造神は、自分を超える存在が作れないなら自分に次ぐ存在を作らなければならないと、光と、闇、それぞれを司る対の柱を生み出した。それは上手く行った。光と闇、正反対の、だけど同じだけの物量を持つ存在は、対等な存在となり、その力を海に注ぎ込むことで、生命を作ることが出来た。それが元素の二柱。光の精神と闇の精神」
「精神? 精霊じゃないのか?」
「待って。順番に話すから。……そうね、二柱の精神がある程度大陸を飾れたのを見て、大陸を任せた創造神は、他の大陸にも降臨して、二柱を作っていった。創造神は前の大陸が作った中でもお気に入りの姿を手ずから作って、力を与えて神にして、その後の大陸を任せた。その一つがこの大陸に生まれた私たち精霊神。……良くは知らないけど、私たちが作ったモノの中で創造神が一番気に入ったのは人間だったから、次に作られた世界では、初めて生まれながらに肉を持った、人間神がいると聞くわね」
「……作りっぱなしであと任せて次の大陸行ったのかよ……てか人間神ってなんだ」
「しょうがないでしょ、そうとしか呼べないんだから。この大陸の次に創造神が行った大陸に行ってごらんなさい、人間が神として全ての生き物を治める場所があるから」
「……想像できない」
「出来なくて当然よ、大陸の生命にとって理解の
ふぅ、と息を吐き、そしてフォンセは言った。
「そして、全ての大陸を回った創造神は、大陸の二柱の神に告げた。この世界で最も素晴らしい世界を作り上げた神とそれに連なる存在を、この世界より上、更に次の世界へと導くと。それを聞いて各大陸の二柱は競って生命を育てるようになった。これがこの世界の真実の創世期、人間に分かりやすいバージョンよ」
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