第440話・カノム町長の覚醒
カノム町長を連れて会議堂へ向かう。きっとあの三人は会議堂で話し合いの最中だと思ったので。
そして、案の定、三人揃って会議室で顔を突き合わせていた。
「戻ったよ」
「おう、町長」
「カノム町長、グランディールは如何でしたか?」
「最高、でしたわ」
うわ、アナイナやヴァリエやフォンセも顔負けの顔キラキラだ。
「グランディールは素晴らしい町でしたわ」
目にもお星さま。すげーなこの人。アパルやサージュと歳あんまり変わらないはずなのに、子供みたいなキラキラ度合い。
まあ、そうでなきゃ甘味の町の町長なんてできないだろう。甘味を求めるのは金持ちと女性と相場が決まっていて、女性が好むお菓子は可愛らしいもので、それを創造するカノム町長の頭の中は可愛らしいものでいっぱいじゃなきゃいけないから。
「全てのものが計算され尽くした町! スキルに寄りかからず暮らしていく町民! 素晴らしいですわ素晴らしいですわ素晴らしいですわ! あたくし、大変に感銘を受けましたわ!」
聞いていたイェルペ副町長の無表情が、ぼくが辛うじてわかる程度に歪む。
……いいようには見られていないな。まあそうだろうな。
ぼくがお飾り町長ならこっちのお飾り町長を任せてもいらんことは吹き込まれないと思ってこっちに任せたら、何か人生感変わっちゃったみたいな感じで戻ってきたからな。
うわ見てる。こっち見てる。それもジト目で。
あんた、何を
「スラートキーは、甘いお菓子だけでなく、甘い料理も創造するべきなのですわね! 仮にも甘味の町を名乗る我々が、野菜という甘味に気付かなかっただなんて……! そうですわ、「甘いお菓子」だけでなく「甘い料理」も開発するべきなのですわ!」
その手には大きな網かご。そこに入ったサツマイモ、ニンジン、カボチャ、トウモロコシにニンニク。
クイネの所に行った後、「甘い野菜の見本をいただきたいのですが」とのお願いに畑によって、ヒロント長老の好意に甘えて運ぶ用に完熟一歩手前の野菜を貰って来たのである。
「町長」
イェルペ副町長が声を上げた。
「サツマイモもニンジンもカボチャもトウモロコシもニンニクも、スラートキーにあります。町長が別の町から野菜を持ち込むなど」
「でもイェルペ、貴女、スラートキーの土が痩せていていい野菜が出来ないと嘆いていたじゃないの」
網かごを胸に抱えて、奪われまいと全身ガードしながら説得もするカノム町長。器用。
「スラートキーの野菜とこちらの野菜を食べ比べれば、どんな味の違いがあるか分かるでしょう?」
「それはまあ……そうなのでしょうが……」
「それに、もし甘味がなくなったら、スラートキーはなくなってしまうわ。甘味以外の名産も作らないと」
あ、カノム町長カノム町長、それ以上言わないで。疑いの目がザクザクぼくに突き刺さっているんで。
「町の為にあたくしに甘味以外の何ができるかを考えないと」
「町長は甘味のことだけを考えていればいいのです」
イェルペ副町長の声が凍り付きそうなものになっている。怖い怖い。
「それ以外のことをする必要は」
「あたくしが町長なんでしょう?」
真剣な目のカノム町長。
「……はい」
渋々認めるイェルペ副町長。
「なら、あたくしの第一の仕事は、町の皆を守ることですわね?」
「……はい」
「あたくしの第一の仕事は、町を守るために新たな甘味を生み出し続けること。それに変わりはありませんわ」
でも、と決意のこもった目でイェルペ副町長をみるカノム町長。
「何かがあってあたくしがいなくなった後も、スラートキーが存続できるように考えていくことも、あたくしの重要な仕事……そうでなくて?」
「町長がいなくなるなどと!」
イェルペ副町長、悲鳴のような声を上げた。顔も微かに歪み、多分彼女の最大級の悲痛な叫びだったんだろう。
「今町長がいなくなられたら、スラートキーは……スラートキーは……!」
「そうなっても大丈夫なようにしましょう、と言うのです」
背筋を伸ばして宣言するカノム町長。
ぼくの影響受けまくったなあ……。
ぼくが話したのは、町長としてのカノムさんに自覚がないようだから、そのとっかかりでも作ってほしいと思ったんだけど……。
爆発的に影響しちゃったなあ。
何か演説を始めようとするカノム町長の前に回って、どうどう、と落ち着かせる。
「そのお話はスラートキーに帰ってからじっくりとして頂いたほうが……」
「そうです町長……他所の町で語られることでは」
「クレー町長」
イェルペ副町長に向けていた挑むような目から、元のお星さまの瞳に戻って、カノム町長は言う。
「甘味の輸出はスラートキー町長の名において許可いたします。町印もございますので、契約してしまいましょう」
「ちょ、町長! この町は未だ我々と取引するには及ばず……」
慌てて止めるかかるイェルペさんを片手でいなしながら、その手から契約書を取り上げる。
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