第437話・「料理」スキルと甘味
困ったように言うカノム町長。
まあ……そうだろうなあ。
「料理」系は、どの町にでも割とよく出るスキルの系統だ。
スキル内容とレベルにもよるが、小さな町で料理上手と言われるような人から、SSランクの町でデカい店を開いてVIPが押しかけるような料理人まで、文字通りピンからキリ、でもどんなレベルであってもどの町でも重宝されるスキル。だって、食べずに生きていくのは無理だし、同じ食べるなら美味しい物の方がいい。だから、レベルが低くても、スキルに目覚めたなら少なくとも近所の人たちは大喜びする。
しかし、それが「甘味」に限定されると、……そりゃあ少ないだろうなあ。
純粋に「料理」であれば、甘味も作れるだろう。だけど、「料理」系は専門が多いスキルでもある。
例えば「肉」「魚」「野菜」と、食材が限定されてくるスキルとか。
「焼く」「揚げる」「蒸す」と言った調理法が限定されてくるのとか。
とんでもないのになると「焼き魚」や「野菜炒め」なんていう、一品物も登場する。
そう言う、専門系スキルは、特定されたものは滅茶苦茶すごいけど、それ以外は全然、というパターンがとにかく多い。
カノム町長は「甘味創造」、つまり新しい甘味を生み出すこと。新しい甘味をどんどん考えだせる。しかもそれは確実に美味しいという、スラートキーになくてはならないスキル。
しかし、それを形に出来る人間がいないと意味のないスキルでもある。
カノム町長は当然考えたのを全部作れるんだろうけど、その周囲の甘味職人が作れなければ意味はない。どんな豪華で美味しい甘味でも、一人しか作れる者がいないなら、商品にはならない。
スラートキーがあちこちの町から料理系スキルの持ち主を引き抜こうとしているのは有名な話だ。
つまり、カノム町長が考えたスキルの大半が、現在の町民ではほとんど商品化されてないってことだな?
う~む。
それは、勿体ないなあ。
お金になるならない以前に、商品化できない甘味が残念だ。
スラートキーに連絡を入れたと聞いた時から、明らかに女性陣がソワソワしている。市販品から高級品まで、スラートキーの甘味にハズレはないのだと言われているから、それを仕入れるつもりのぼくの株も上がり、期待も膨らんでいる。
女性をそこまで引き付ける甘味が、せっかく生み出されたのに、世に出ないとは可哀想。
ていうか、明るいの、少しは考えろ。「甘味創造」スキルを与えたんなら、近くに「甘味生産」スキルも出せ。でないと意味がないだろう。
「甘味というのはスキルがなければ作れないものですか?」
カノム町長は猫を愛でながら、こてん、と首を傾げた。
「どうでしょう……甘味を作ること自体は、そんなに難問ではないのですわ。言われた通りに作る。そうすれば、あたくしの考えた甘味の大半は正確に作れますわ」
「では、何故スキルの持ち主を探して……」
「スキルを持っていないと辛いからですわ」
猫を膝の上に乗っけして、カノム町長。
「あたくしも、スキルがなくとも甘味を作れると分かっていますから、イェルペに頼んで志望者を募って教育を始めたんですの。でも、全員半年もせずに辞めましたわ」
「それは……また。でも、何故?」
「言われた通りに作るには、非常に大変な作業ですの。甘味を作ると言うのは」
お。カノム町長の甘味講座、聞けるか?
「まず甘味は、材料の分量を正確に量らないと、甘味として成立しないんですの。その正確性が求められますから、大雑把な男性の方々はあっという間に消えましたわ。そして、量ったそれらを掻き混ぜたり、練ったり、こしたり。甘味調理は力仕事でもあるんですの。それが複数人数ともなれば余計に。ですから、自分で甘味を作って食べようという女性志望者もあっという間に出て行きましたわ」
「あ~……スキルなしで作れるけど、なしで作るには辛い作業、なのですね?」
「ええ。スキルがあれば目分量でいい所を、スキルがなければ最も正確な秤で細かく増やしたり減らしたりして正確な分量にする。スキルがあれば目を閉じていても出来ることが、ないと大変な力仕事になる。そうですわね、一番近いのはパン職人さんかしら」
「パン職人?」
「ええ。あの方々もそうでしょう。小麦を製粉し、練り、叩き、寝かせ、その間目を離せない。パン職人と呼ばれる方々がどうして人々の尊敬を勝ち得るのか、その答えは簡単です。主食を大量に生産できる能力があるからですわ」
確かに……。
グランディールにいるパン職人はアルトス・フリエーブ。ファヤンスから連れてきた一人で、今は彼の下に十人の弟子と、六人の手伝い子供がいる。朝早くから生地を作ってパンを焼き、人々の朝食に間に合わせる。
以前、「町長がしばらくいないと困らないけどアルトスが半日でもいないとグランディールは崩壊する」って
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