第434話・厄介そうな客人の来訪
大湯処の設置は、スラートキーからの客人が帰った後、と決めた。
なんせ大湯処はあちこちの町の町長が全員「一番乗りしたい!」と希望して揉めに揉めた挙句、全員一緒に呼ぶことになった。
町長が十人、ギルド長や商会長が八人。その家族などが十五人。これが大湯処に招く客である。
で、その従者とか乗用鳥とかの操縦者とかそう言うお付きの人たちもちゃんともてなさなきゃだし。四十人近い人間のお出迎えやおもてなしやお見送りを成し遂げなきゃなんである。
その直後にはぼく含めて六人しか知らない最大ミッション、フォンセのおもてなしもある。
それが終わったら、しばらくは休みたい。
塩対応の町長の相手は、気力があるうちに終わらせたいんだよ。
「おっし、じゃああと少し時間があるんだな。それまでにここをもうちょっと変えてどうなるか見てみたい……」
設置予定日の変更を伝えられたシエルの反応である。
うん、天才ってやっぱすごいわ。「出来たんだから早く作れ」じゃなく「まだ作れないんならここ詰める」んだからなあ。
デザイン室でシエルが紙を撒き散らしている間に、ぼくとアパルとサージュは門前に立つ。
浮遊状態のグランディール、相手も乗用鳥に乗って直接乗り付けると言っているので、ここで待つしかない。
スラートキーは南の町。そこから乗用鳥に乗ってくる……結構いい鳥を持っているって証拠だ。
南向きに門を向けて待っていると、遠くに小さな黒い点が現れた。
それはだんだんと大きくなってくる。
大きな金色の乗用飛行鳥が三羽、こちらに向かって飛んできた。
門の前、空中で停止する。
「スラートキーの客人か」
ソルダートとキーパが、門の手前で槍を交差させて問う。
「如何にも」
先頭の飛行鳥の操縦者が、掲げられた旗を向ける。
スラートキーの町章、
確認した二人が槍を外し、門を開き、飛行鳥を導きいれる。
騎獣下馬所で、全員飛行鳥から降りる。うちの騎獣世話役とスラートキーの世話役が、騎獣を引いて小山で連れていく。これから水を貰って翼を解してもらうんだろう。
何となく視線で飛行鳥を見送ってから、前に向き直る。
真っ先に目に付くのは、真ん中の飛行鳥から降りてきた二人の女性。
蜂蜜のような柔らかいウェーブがかった金の髪を束ねた、翡翠の瞳を持つ幼い感じのする女性と、月の光を形にしたような真っ直ぐの銀髪を後ろに流し、氷のような青い瞳の冷たい印象を与える長身の女性。
噂に聞いた通り。
「初めまして」
金髪の女性は胸に手を当てて礼をした。
「お初にお目にかかります。スラートキーから参りました。こちらが町長のカノム・ドルチャージョイ。わたくしは補佐の副町長イェルペ・ヘルプン。お見知りおきを」
「初めまして。グランディール町長、クレー・マークンです。以後お見知りおきを」
にこやかに笑ってお辞儀しながら、ぼくは読み取っていた。
あ~。
あの塩手紙返事したの、イェルペさんの方だな。
一発で分かった。
ぼくは確かに若いと言うか幼い。つまりそれは経験不足。だけど、色々な人……偉い人や貧しい人、男の人女の人、天才型や秀才型と話してきたら分かる。
カノムさんは何かイェルペさんの影に隠れてる。
普通自己紹介は町長であっても自分でやる物なのに、カノムさんが喋ったのは最初の「初めまして」だけ。あとはぜーんぶ副町長のイェルペさんが喋ってる。
カノムさんにとってのイェルペさんは多分、ぼくにとってのアパルやサージュのようなものだろう。彼らがいないと
そう言う人なんだろうと分かるが……。
う~ん。
アパルがさりげなく前に出てきて、にこやかに歓迎の意を伝え感謝の意を伝えるが、イェルペさんは無表情のまま淡々と喋っている。
「……で、どのような条件があればスラートキーの甘味を我が町に入れられるか、条件を教えていただきたいのですが」
「条件、ですね」
冷ややかな青い瞳に照らされてもアパルはびくともしない。温和な印象であまり目立たないアパルだけど、「法律」のスキルを持ち、政に詳しいアパルは、内政から外政までやりこなせるエキスパートなんである。イェルペさんとあまり齢は変わらないけど、正直ぼくみたいな新人町長には絶対に必要な人材。アパルとサージュがいなければ、グランディールは早々に内部崩壊を起こしている。
穏やかに話すアパルと、つっけんどんに話すイェルペさん。
うん、この塩具合。間違いなくあの手紙の草稿はイェルペさんだわ。
そして……。
う~ん。
他の町に首を突っ込みたくはないんだけど……。
ちょっと口出ししたほうがいいんじゃないかと思うくらいには、カノムさんとイェルペさんは、大問題を抱えていそうだった。
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