第431話・甘味の町からの手紙

 スピティのフューラー町長と、スラートキーのカノム・ドルチャージョイ町長に手紙を書く。


 特にスラートキーはグランディールの前に出来た新しい町。グランディールとしても仲良くしたい町である。


 なんせ町長のカノムさんは甘味という売りだけで町を創り一気にSランクまで持って行った女性、是非とも町作りに関するお話を伺いたい。


 でもとりあえずはフォンセに出すために「女性陣のため」という名目で、甘い菓子を売ってもらうか作れるようにしてもらうかしなければならないのである。


 作ると言っても、クイネみたいな出来上がった料理人は、甘味作りに向いていないのではなかろうか。そう言う心配もある。


 ので、それも含めて相談の手紙をフューラー町長に送る手紙と別にして本人のみしか開けられない手紙として、印を押して封をして封筒に入れる。


「んじゃエキャル、頼んだよ? いい返事だったらフューラー町長の紹介の手紙と一緒にスラートキーへ」


 エキャルは頷くと、窓から飛んでいく。


 エキャルは大変だな、行ったり来たりだ。そうさせているのは僕だけど。


 帰ってきたらたっぷり休ませてあげないと。



 エキャルが帰ってきたのは、翌々日の昼過ぎだった。


「エキャルお疲れ様ー」


 町長室の窓を開けるとエキャルがふわりと入ってくる。


 長旅でお疲れのはずなのに、エキャルはご機嫌でぼくに頭をこすりつけてくる。


「おーしおし。しばらく休んでくれよ」


 エキャルは止まり木に留まって、羽根繕いを始める。


 これだけ時間がかかったと言うことは、スラートキーまで行ってきたってことだ。本当にご苦労様エキャル。


 まずはフューラー町長の手紙を読む。


 喜んで紹介状を書いてくれる旨の手紙と、大湯処はまだかというそわそわ。


 ああ期待が大きい。


 大湯処はほぼデザインや内装に目途がついて、詰めまで入っている。シエルがこのまま突っ走れば、明後日には創造できるだろう。


 そして、スラートキーからの手紙を開く。


 綺麗で整った字が並んでいた。


 『グランディール町長クレー・マークン殿』


 スラートキーの甘味を教えていただけるだろうか。教えてもらえなくても輸入させてくれれば……。


 字の列を目で追う。


 『グランディールのお噂は伺っております。成人したばかりのお若い方が創り、一年足らずでSランクを勝ち得た町と言うことに驚きを隠せません。わたくしは町として認められるまでに十年、Sランクにアップするまで五年かかったと言うのに』


 ……ん?


 自然に眉間にしわが寄るのが分かる。


 な~んか……不穏な気配というか。


 『ついては、我が町の甘味の輸出条件に合致するかどうか、調べさせていただきたいと思います』


 う~む。


 仲良くしたいと書いたつもりなんだけど。


 ……な~んか、対抗意識を抱かれたと言うか。


 ……まあね? ぼく成人したその日から町づくりを初めて、進みに進みまくって、一年目で無印からSランクまで駆け上がった町だから、他の町に羨まれたり怨まれたりする覚悟はできてた。


 でも、同じSランクの町にここまで警戒されているとは。


 敵愾心を抱かれないだけマシかあ。


 とりあえずぼく一人で考えるにはややこしい。



 ので、サージュとアパルの所に行って手紙を見せる。


「スラートキーの町長から?」


 手紙を受け取ったアパルが書面を読んで、そしてぼくと同じように眉間にしわを寄せた。


「町長、フューラー町長の紹介状も一緒に送ったんだろう?」


「うん。エキャルに頼んで、紹介状貰ったら直でスラートキー行くように頼んだし」


「で、何でここまで牙むかれる?」


「……分からない」


 手紙の文章も問題ないと思ったんだけどなあ。


「ちょっと情報集めてみる」


 サージュが久々にスキル「知識」を使う。


 目を閉じているサージュの頭の中には、スラートキーの知識が集まっているんだろう。


「う~ん」


 サージュも眉間にしわ。


「どうだった?」


「スラートキー町長は随分とグランディールに対抗心を燃やしているようだ」


「それは分かる。問題は理由」


「嫉妬だな」


 サージュは一言で言ってのけた。


「嫉妬」


「ああ。スラートキーのカノム町長、スキルは「甘味創造」。ヒゥウォーンの生まれで、スキルに目覚めて「甘味」で町を創ることを志して町を出た。それからあちこちに繋ぎを取って、材料を、職人を、色々集めて町にしたのが十年前。Sランクまで駆け上がったのが破格の五年」


「町の形になってから一気に成り上がった名町長だと思ったんだけど」


「じゃあお前は何なんだ」


 サージュに言われて、一瞬理解が追い付かない。


「ぼく?」


「生まれ町を出て町を創った。出発は同じでもあっちは十年。こっちは半年未満。町になってからSランクに行くまでうちは半年ちょい。そりゃあ嫉妬もするだろう。おまけに湯処で噂が盛り上がってるものな」


「あ~……」


 嫉妬されるって言われても、こっちも苦労してるんだけどなあ。


「それで、お前とグランディールを確認に来たいというのが本音だな」


 ぼくは思わず頭を抱えてしまった。

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