第430話・察してお願い

「とりあえず、話し合いは無事に終わったんだな?」


「うん。待つ楽しみを教え込んだから」


「は?」


 全員の疑問の視線を受ける。


 うん、ぼくが悪かったです。説明するからその疑わし気な目、やめて。


 で、フォンセに「待て」を教えたことを説明する。


「……とりあえず、いきなり町が焼けるとか、大陸が吹っ飛ぶとか、そう言うことはないんだな?」


「うん」


 はー、とティーアは大きく息を吐きだした。


「……まあ、そう言うことなら……いい……のか? いいのか?」


 マーリチクが何度も「いいのか?」を繰り返している。


 気持ちは分かる。けど多分大丈夫。あのお目目キラッキラは、二月ふたつき待ってくれる顔だった。


「……待ってくれるなら御の字だろ。いきなりグランディールぶっ壊されるより全然いい」


 ラガッツォが顔を覆って呟く。


 ……まあ、三人ともの聖職者だしな。こういう危機にが助けてくれないのは選ばれた聖職者として複雑だろうな。


 だけど、ラガッツォの言う通り。待ってくれるだけ御の字、助かっているのだから文句のつけようがない。


「まずは、スラートキーに繋ぎか?」


 聖職とか関係ないからとりあえず目の前のありがたいことは受け入れる性質らしいティーアが聞いてくる。


「うん。フューラー町長に紹介してもらう」


 甘味はいずれ町に入れようと思っていたけど、まさかこんな理由で入れることになろうとは。


 コンコンコン、コンコンコン、と窓を叩く音。


 結界が張られているこの部屋に外から影響を与えられるのは、この一件に関わっている存在だけ。つまり。


「エキャルー」


 結界を一部解いて窓を開けると、真紅が飛び込んできた。


 ぐりぐりぐりと頭を擦り付けてくる。


「あー、フォンセ来たの分かった?」


 見上げる瞳は不安そう。


「大丈夫、とりあえずアッキピテル町長からの手紙見せて」


 エキャルの封筒から手紙を外す。


 そこには感謝とか言う言葉と共に、「ストルッツォ」という新走鳥の呼称が書かれていた。


「ストルッツォ、ストルッツォね」


 エキャルが頷く。


「よし。時間も詰まってきたし、動かなきゃな」


 ぼくは太ももを叩いて立ち上がった。


「大湯処に本気で取り組むのか?」


「うん。そうじゃないと期限までにフォンセを招けない」


 ラガッツォの言葉にぼくは頷く。


「ティーア。この手紙をシエルに」


「分かった」


 ティーアは何も聞かずに手紙を受け取って、部屋を出て行った。


「三人は」


 うん、と三人が頷く。


「適度に参拝者減らせる?」


 きょとん、とする二人。ラガッツォだけが真意を掴んでくれる。


「フォンセの機嫌取りだな?」


「うん、……まあ無理だったら」


「何とかできる」


 ラガッツォのこういう時の威厳とでも言うものは、本当に頼りになる。ぼくより一つ若いけど。


「大湯処が出来るんだろ?」


「うん」


水垢離みずごりというか、来月一月は身体を清める月間だと言い切れば」


「なるほど」


 性質的には正反対のフォンセとだが、基本神なんで、清められた空間とかは大好き。神殿によって清められた空間は嫌いでも、人間が自分で清めたものは好き、らしい。だから、水やお湯で自分の力(町スキル入りだけど)で清められた人間は嫌いではない、筈である。


 だから、ラガッツォの考えは、とってもいい。


「それで行ってくれる?」


「行く。行かせる」


 力強いお言葉頂きました。


「ヴァチカとマーリチクもその口添えを」


「分かったけど……いいのか?」


「うん分かった」


 まだ不安そうなマーリチクと、開き直ったヴァチカ。


「ぼくは手紙を書くから、エキャル、も一回運んでくれる?」


 エキャルは長い首を折り曲げてうん、と頷く。


「フューラー町長にいい返事がもらえたら、そのままスラートキー行ってくれる?」


 もう一度、うん。


「ありがとうねーエキャルー」


 働き者の伝令鳥を撫でまわして、ぼくは一人になった部屋で手紙を書く。


 あ。


 サージュとアパルに言うの忘れてた。



「というわけで甘い物を取り入れようと思います」


「何を、藪から棒に」


「何がというわけなんだい?」


 会議室で書類をまとめていた二人の所に行って切り出すと、サージュに眉をひそめられ、アパルにツッコまれる。


 うん、藪から棒ですね。でも、詳しい話が出来ないんですよ……っ!


「時々ティーアや聖職者と話しているのに関係があるのかい?」


 アパルさん鋭いです。でもお願い、ツッコまないで。


「人口の半分は女性なんで、女性の英気を養えればと」


「まあね、女性の大半は甘い物大好きだし、反対するわけじゃないよ? わけじゃないんだけどね?」


 それ以上言わないでアパルさん……っ!


「何でその考えに行きついた?」


 言えません……っ!


 プルプルしているぼくを見て、アパルは肩を竦めた。


「反対はしないよ」


 軽く首を竦めて、言うアパル。


「まあな。理由は謎だが、反対する理由もない」


 サージュも頷く。


 すいません、察してくれて感謝します……。


「じゃあ、手紙書きます……」


 フューラー町長とスラートキーの町長に送る手紙の文面は考えてあるから、それ以上ツッコまれないうちに会議室を退散しました。

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