第426話・エキャルさん
「で町長、何か知らんがエキャルが帰ったらイラストを見てくれるって言ったよな。見てくれるか?」
「ぼくが見なきゃ始まらないんだろ……」
町長の許可を出して町の外に出すものに、目を通してないなんて許されるわけもなく、ぼくはシエルの描き上げたイラストを見る。
「うっわ」
チラッと見て、まず出たのがそれ。
「かっわい」
次に出たのがこれ。
と、唐突に圧がすぐ傍から。
「エキャルさん……」
エキャルが見てる。じっとこっちを見てる。ジト目で見てる。自分がいるのにそんな鳥に心惹かれるの? って ぼくを見てる。
「エキャルさんが一番ですから……」
何故か敬語になるぼく。
エキャルの前に座って、説明を始める。
「決してエキャルさんを邪険にしてるわけじゃありませんから……」
その鳥が可愛いって思ってるんでしょ? って顔。
「エキャルさんが一番ですから……後からどんな鳥が来ても、ぼくにとってはエキャルさんが一番ですから……」
「何エキャルに言い訳してんだ」
イラスト修正や色付けをしていたシエルが不思議そうに聞いてくる。
「エキャルさんが怒ってらっしゃるんですよ……。自分が一番可愛いんじゃなかったのかって……浮気するのかって……」
「何で敬語なんだ」
「何か敬語じゃないとダメな気がして……」
「何でそこまで気を使うんだ……てっ!」
ずん、と音を立ててエキャルがシエルの頭を突いた。
「何すんだ!」
怒鳴るシエルに睨むエキャル。
しばらく睨み合い。
「……ごめんなさいでした」
シエルが負けた。
もともと押しとノリに弱い男だし。
「でもこのイラストが売れないとグランディールが困るんです」
恐る恐る進言するシエルに、ん? という表情をするエキャル。
「この鳥と大湯処は町は違いますがセットで売り出されます」
シエルもエキャルの前に座って、イラストを見せながら説明を始める。
「大湯処でこの鳥が人気が出たら、この鳥は売れます」
まあそうだろうなという顔のエキャル。
「逆を言えば、この鳥が人気が出なかったら、大湯処も人気がないと言うことです」
ちょっと難しい顔をするエキャル。
「大湯処が人気が出るとこの鳥が人気が出て、鳥が売れます。鳥が売れると、マスコットにしている大湯処も評判が広がって人気が出ます。これを繰り返して、グランディールとフォーゲルが両方人気が出ます」
首を傾げるエキャル。
「つまり、鳥が売れなきゃグランディールも売れないと言うことです」
シエルは膝をついてエキャルに説明を続ける。
「グランディールの為、そして町長の為と思って、この走鳥を認めてはもらえないでしょうか?」
イラストを差し出して頭を下げるシエル。
「ぼくにとってはエキャルさんがいつまでたっても一番なので、許してはもらえないでしょうか?」
ぼくも頭を下げる。
シートスが微妙な顔。
男二人伝令鳥の前に膝をついて敬語で頭を下げている図だもんなあ。
んー、と首を捻り。
しょうがないなあ、と軽くぼくの髪の毛を引っ張ってくれた。
「お許しいただきありがとうございます」
土下座するぼく。
鳥に何してんだと言われても仕方がないけど、グランディール町長の伝令鳥として名高くなったエキャルに振られると、町長としての座も危うくなるのである。
シンボルに見捨てられた権力者なんて情けないものなのである。
今のぼくだって十分情けないって言われそうだけど、エキャルの機嫌を損ねるよりは、
ここだったらシートスとシエルとエキャルしか見てないわけだし。
「エキャルのお許しは頂けた?」
シートスの声はしっかり呆れている。
「お許しを頂けたようです、とりあえず」
「とりあえず?」
「ご機嫌を損ねたら一からやり直しと言うことで」
「大変ねえ」
大変なんです。エキャルは表情豊かだからまだあっちの意思が伝わりやすいしこっちも説明しやすいけど。
「じゃあ、これでいい……ですか?」
まずイラストをエキャルに見せてご機嫌伺いするシエル。
よきに計らえ、と首を反らすエキャル。
「町長は?」
ひょい、と差し出されたイラストを見る。
イメージ、とぼくのイラストと並べた走鳥は……今いる走鳥より些か小柄だけど、ぼくよりデカい。
でも、ちょっと足を短くして、飛べない翼を広げた走鳥は、羽毛がふわふわっぽくて目も大きく黒めがちで、思わず抱き着きたくなる可愛さである。
「これが、フォーゲルに回す走鳥モデル。こっちは湯処で見張らせるグランディール鳥」
もう一枚渡されたのは、町スキルで創る予定、子供を摘まみだせる用に嘴が大きめで、泳げるように足もしっかり目な鳥である。
鳥と言ってもグランディールのは走鳥じゃないからなあ。新しい鳥としてフォーゲルのアッキピテル町長に名前を決めてもらおうか。それでグランディールとフォーゲルで統一したほうが可愛がってもらえそうだし。
そのことを記した手紙と、グランディール仕様とフォーゲル仕様のイラストを一緒にエキャルの封筒に入れる。
「頼めますか、エキャルさん」
エキャルはもう一度首を反らして、窓から飛んで行った。
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