第421話・そうだ、この人だ

「面白がってる……面白がってるんだよな……」


 ラガッツォが頭を抱えている。


「敵に思われないだけマシだよ」


「そうなんだよなあ……!」


 天井を仰いで溜息吐きながら絶叫するという、実に器用な芸をラガッツォは見せてくれた。


「で、知っちゃった君たちにも相談したいんだけど」


 ぼくは椅子に座り込んだまま、聞いた。


「フォンセがこの町でもてなされる理由、一緒に考えてくれない?」


「「「はあ???」」」


 三人とも同時に口を開けてこっちを見た。


「今の所、ぼくかスヴァーラさんを何かで助けた礼にグランディールに招待したって言う案が出てるんだけど」


「ちょ、ちょと待て、ちょっと待って」


 マーリチクが両手を前に押し出してぼくの言葉を止めようとする。


「なんでそんなことを、僕たちが」


「言いたいことはよーく分かる。君たちは光の精霊神に仕える聖職者だ。何でよりによって闇の精霊神をもてなす理由を考えろって思うだろ。分かってる。分かってる」


「ならなんであたしたちに相談するのよ~……なんでこんな厄介なことを考えなきゃ……」


「だって、事情を知ってる人間が少ないんだもん」


「そりゃあそうだけどお……」


「既に、フォンセをもてなさないって言う選択肢はないだろ?」


「ない、けど」


「だけど、何処かの町長でもない限り、フラッと現れた一放浪者を町長がもてなすのかって理由をつけないと、もてなしようがないんだよ」


「…………」


 三人とも、難しい顔をして黙り込んでしまった。


 うん、ごめん。本当は君たちを悩ませるべきじゃなかったんだよな。


 だけど、今は一つでも多くのアイディアが欲しい。


 三人寄れば何とやら、じゃないけど、違う考え方をする人間が集まれば、色々なアイディアが出るんじゃ……出るんじゃないかなー、と。


 正直ぼくとティーアとスヴァーラさんだけで進めるには手に余ってるんだ。


 こういうのならアパルやサージュに相談したほうがいいとは思ってる。分かってる。町のイベントとしてもてなす相手。理由がいると言えば文句を言いながらでも考えてくれるだろう。


 だけど。


 実は闇の精霊神が存在し大陸を壊そうとしていると言うことを知らせれば、あの二人でもパニックになるだろうし、その闇が人間の姿を取って「もてなしてもらいたい」と言っているなんて。


 あの二人は常識人だ。いい意味でも、悪い意味でも。


 こういうぶっ飛んだこと、とてもじゃないけど相談できない。


 ぶっ飛んでるんならシエルだ。相談すれば何かアイディアは出してくれるだろうけど。


 シエルに内緒の相談なんてできない……っ!


 なんせ彼、思ったことが全部口に出ちゃうタイプ。


 「ちょっと考えさせて」と外に出て行って、「えーと、闇の精霊神をもてなす理由……理由……」とか言いながら町をうろつく姿が目に見える……!


「つまりー……」


 ラガッツォが顔を上げてぼくを見た。


「フォンセという女性が、町長かスヴァーラさんを助けて、町長が彼女をもてなそうとしている……そう言うことでいいのか……?」


 うん、と大きく頷いたぼくに、ラガッツォは机に肘をついて手の甲に顎を乗せる。


「確かに……誰にも相談できないなあ……」


「分かってくれると嬉しい」


 嬉しいって言うか泣きそうだよ……。


「助けられた理由を、考えろって言うんだね? できるだけ、どっちの精霊神にも角の立たない理由を」


 マーリチクの言葉にぼくは無言で頷いた。


「う~ん……」


 悩む。もちろんぼくやティーアやスヴァーラさんも悩んでます。頭の上でエキャルも羽根を垂れているし、膝の上のテイヒゥルも喉を鳴らさなくなった。


「う~ん……」


「助けた……助けたかあ……」


「凶獣や魔獣じゃダメよね……あれは闇の精霊神の下につくんだから……」


「かと言って光の精霊神の僕とかでもダメ……」


「人間は?」


 マーリチクが投げやりに言った。


「結局人間に襲われたってのが一番妥当じゃないか?」


「人間でもなあ……」


「グランディールの町長に手を出す人間っているか? よっぽど怨み持ってないと……」


「スヴァーラさんでもいいんじゃない?」


「ワタシに怨みを持ってる人間……ワタシ……ワタシ?」


 スヴァーラさんが指を一本、立てた。


「ミアスト町長かモルなら?」


 ぱん、とティーアとぼくが同時に手を打った。


「ミアスト?」


「エアヴァクセンの元町長……よね。あたしたちをさらおうとした」


「で、精霊神に町長の座と落ち着くところを取り上げられたって言う」


 聖職者三人も成人式の日の誘拐未遂事件をしっかり覚えている。


「そうだ……てか何で今まで思いつかなかったぼくは……」


「いや、放浪中の人間を出すのはまずくないかと思ったら」


「光の精霊神直々に追放されたんなら、多分何処の町にも寄れない」


 ラガッツォが呟いた。


「植物すら食べられているかも怪しい」


「でも死なせないはずだ、なら」


「なんでだ?」


「成人式に他所の町入り込んで聖職者さらおうなんて、町長に認めたのメンツ丸つぶれだから。だから、死なせない。自分に背いた人間がどうなるかを見せる為にも、悲惨な姿をさらそうとするな」

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