第420話・グランディールの勝機

 ドアを閉め、外から聞こえないように見えないように結界を張って、確認してから、聖職者三人に、、フォンセの来訪目的を説明した。


「もてなして、もらいたい」


 呟いて、口をポカンと開けたままのヴァチカ。


 頭を抱えてしまっているマーリチク。


 酸っぱい物でも食べたのかという顔で黙り込んでいるラガッツォ。


「えーと、……まとめると」


 ヴァチカがやっとのことで言葉を紡ぐ。


「……遊びに来たわけ? 闇の精霊神が」


「うん」


「……そして、今度、遊びに来るわけ? 闇の精霊神が」


「うん」


「闇の精霊神って、大陸を壊そうとしてるんじゃなかった?」


「うん」


 まあ相手は人間とは精神構造の違う精霊だから、人間の常識を当てはめちゃダメなんだと思うけどね。その一割がぼくの中にもあると言うことはとりあえず忘れてください。今だけでも。


「もてなして欲しいって、何よ、何なのよ……」


「……おれは喜んだらいいのか? 困ったらいいのか? 怒ったらいいのか?」


 ラガッツォ、その気持ちはよーくわかる……。よーくね……。


「とりあえずグランディールを燃やされたりしなくて良かったと喜んでいいんじゃないかな……」


 頭を抱えたまま机に突っ伏して、マーリチクが言った。


「……オヴォツみたいに黒く燃やされなくてよかった、と」


 その言葉にスヴァーラさんが頷く。


「ディーウェスの廃墟は一面真っ黒に染まってましたから……」


「それにならなかっただけ、マシ……と思うしかないよな……そうだよな……」


 ラガッツォがうめく。


「で、もう一回、遊びに来る……」


 ヴァチカがそう言ったきり中空を眺めて言葉を出さない。


 しばらく、沈黙。


「……どうすんの」


「どうするもこうするも、もてなすしかないだろ」


「もてなせるの?! 精霊神を?!」


「人間のもてなしって文化に興味持ってるようだから、問題はない……と、思いたい……」


「てか、精霊神様はどうするんだ」


 マーリチクが突然半身を起こして言った。


「僕たちは光の精霊神様にお仕えしてるんだろ? 闇の精霊神を出迎えてもてなしたら……」


「まあ、の御機嫌は斜めになるだろう」


 ぼくは膝に頭を乗っけしたままのテイヒゥルの固い毛をごしごし撫でながら言った。


「でも、の機嫌を損ねることより、フォンセの機嫌を損ねる方が怖いね、正直」


「なんで」


は 人間を守るって言う自分に課した役割がある。の機嫌を損ねても、フォンセの怒りを買ったらどうしてくれるんだと言い返せば多分は何も言えない」


 膝の上の剛毛が手に落ち着かない。と、エキャルが飛んできて頭の上に乗っけした。手を伸ばして頭上のもふもふを楽しむ。


「一方、フォンセは、最良で人間にちょっかいをかける。最悪で人間滅ぼす」


 ぼくの言葉に三人もティーアもスヴァーラさんも黙り込む。


「フォンセは今の所グランディールに興味を持っている。好奇心。面白そう、という感じ。一番近いのは子供だな」


「その子供の相手をして精霊神様の御機嫌を損ねるのは」


「その子供はグランディールを簡単に潰せるんだよ?」


 マーリチクの言葉に、ぼくが反論する。


「そして、ちなみにいうと精霊神は人間のミスでフォンセがグランディール潰したとしても、グランディールを滅ぼしたのは闇と知らせて警戒させるだけ」


「精霊神様はグランディールを助けてくださらない……?」


「闇の恐ろしさを知らせるいい材料にするのがオチだな。そして勝手に悪役にされたフォンセは更に機嫌を損ねて、そのうち精霊神対精霊神の一大戦争が始まる。大陸から逃げられるグランディールはその時には既にない」


 もふもふとごしごしをしながら言うぼくの顔は、非常に辛気臭しんきくさいものだろう。


「精霊神の機嫌損ねてフォンセもてなすのと、どっちがいい?」


「……聞くまでもないよな……」


 ラガッツォが溜息と言葉を同時に吐き出した。


「でも、もてなしで相手の機嫌を損なうことは?」


 ヴァチカの言葉に、ぼくも溜息交じりに話す。


「人間のもてなしを体験したいんだし、ワイワイと騒ぐ人間が面白いらしいから、その中に入ってワイワイしたいんだと思う。だから、面と向かってフォンセの意見を否定したりとか、を褒めるようなことをしなければ、とりあえず問題はないと思う……多分」


「多分かよ」


「多分だよ」


 ぼくも本当なら机に突っ伏したい気分なんである。ただ膝の上のテイヒゥルと頭の上のエキャルがそれを許してくれないので、代わりに椅子に沈み込む。


「ぼくがの個性を少しでも残してりゃ別の答えがあったかもだけど、残念ながらはぼくから精霊の気配を綺麗に消して人間にしたから、今のぼくは精霊の考え方なんて分からない」


「多分……多分……多分に賭けるしか、ないんだよなあ……」


 ラガッツォが天井を仰いだ。


「まだ……勝機があると考えられるだけ、マシなんだよ……」


 ぼくも嘆く。


「フォンセは話して見た限り、今はグランディールを面白がっているから……」

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