第419話・雪崩乱入

 スヴァーラさんを新町民に登録して、再び僕たち考えこむ。


「クレー、フォンセに助けた理由を考えろとか言ってたじゃないか。本人が……」


「まね、本人が考えたんだし? フォンセが何かからぼくを助けたって」


 ぼくはぼくが思っているより難しい顔をしているんだろう、ティーアが首をかしげる。


「でも、多分そこでストップする」


「ストップ?」


「何かからぼくを助けた。多分フォンセはそれで満足しちゃってる。誰も文句言えないナイスアイディア~と思って、それ以上ツッコまず考えず、今頃はそれすら忘れて歓待を楽しみに自分の宿る人間の肉体をこしらえてるね。賭けてもいい」


「ああ、考えなくなるのか……」


「精霊ってのは目の前の好奇心に素直だからさ、多分今は人間にしか見えない肉体を作るのに夢中になってる。多分、周りの人間がみんな惚れてしまうような美女か、ものすごく何処にでもいそうな肉体を作るかは分からないけど」


「精霊をもてなすのは大変だな……」


「人間とは次元の違う存在だからね……」


「お前の一割だろ。理解できないのか?」


「核はかも知れないけどがフォンセから隠すのに人間としての誕生成長成人してるんで、ぼくの考えは髪の毛一筋から足の爪に至るまで人間そのものでーす。よって、今生きてここにいるぼくには精霊の考え方なんて理解できませーん」


「そうか……」


「人間の体を作るのに夢中になってるってスヴァーラさんも知ってるから、自分を助けたって理屈ならって案出してくれたんじゃないか。……ていうかスヴァーラさんの方がフォンセ知ってるんじゃないか。フォンセ入ってる間スヴァーラさん意識あったんだろ?」


「ええ、まあ」


 サラッと言うけどそれってとんでもないことなんだぞ。人間じゃない存在に肉体乗っ取られて自我保つって、乗っ取っている相手が相当気を使っても人間の精神やられちゃう可能性大きいんだから。フォンセが大事にしてたのと、スヴァーラさんの耐性が強かったからだ。ミアストみたいなヤツに耐えて耐えて耐え抜いて自分とオルニスを守り抜いた強さこそが、スヴァーラさんが今ここにいられる理由なのだ。


「でも、確かにワタシは肉体をフォンセに奪われて、意識は彼女と近い場所にはありましたが、それでも理解はできませんでした。分かったのは、純粋にワタシを気に入ったという意識と、面白そうというワクワクくらいですかね。それ以外は理解しがたいと言うか……思考回路が人間と違うので、彼女の精神と共にいると危ないと思って奥に引っ込んでいたんです」


「……動物の方がまだわかりやすい?」


「ええ。……もっとも、相手が人間の姿をしていて、人間に似た知識を持っているから惑わされる、というのもあるでしょうが」


「確かに。見た目が人間で話が通じれば理解できると思うな」


「でも理解できない。は人間じゃないから」


 三人で顔を見合わせて、そして同時に息を大きく吐き出した。


「人間向けの歓迎、喜んでくれるといいんだが」


「ワタシに憑いていた時のように好奇心に満ち満ちていればいいんですけど、機嫌を損ねるとダメですね」


「何で機嫌を損ねるか分からないからね……まあ光を讃えることをしなければ大丈夫だろうけど」


 その時、激しくドアが叩かれた。


 内緒の話をしていたぼくらは思わず飛び上がる。


「誰だ」


 ティーアが動揺を見事に覆い隠した声でドアの向こうに声をかけた。


「町長! クレー町長!」


「ラガッツォ?!」


 そうだ、マーリチク、ヴァチカ、ラガッツォの聖職者も精霊神の気配に気付けるんだった。


 アナイナはぼくに仕えていることになっているし、精霊神の気配なんて興味もなさそうだから関係ないみたいだけど。


 で、去る時フォンセは堂々と姿と気配をさらして行ったから。


 ティーアがぼくの顔を見て頷き、ドアを開けた。


 聖職者三人組が雪崩れ込んでくる。


「大丈夫?!」


 ずだだだだ、と音まで立てて雪崩れ込んできた三人の声をかけると、青ざめた顔の三人が見上げてくる。


「町長は?! 大丈夫なのか?!」


「あの気配……例のあれ闇の精霊神が来ていたんでしょう?!」


「一体何されたんです?!」


 ぼくより一つ下だけど精霊神(だけどな)に仕える彼らは、その力も強さも危険度も良く知っている。多分気付いてすぐ来てくれたんだろう。けど、闇の気配が消えたのにぼくたちが出てこないから闇が何かやらかしたのかとひやひやしながら待っててくれたんだろうな。それでも出てこないから……。


「ごめんごめん」


 ぼくが謝り、ティーアはチラリと三人組の背後に視線を向ける。


 聖職者の乱入にサージュ、アパルが不安を覚えてついてきたようだが、ティーアが掌をひらひらさせて「大丈夫、問題ない」と「この三人に話がある」の合図を送ったので、不安そうながらも頷いて、そこから踏み込んで来ようとしない。


 ごめん。でも、話せないんだ……ッ!

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