第418話・フォンセの求めるもの

「意味が二つ?」


「そう。食用として大事に育てた肉を成果として捧げろって意味と……生贄を捧げろって意味と」


「生贄、か」


 ティーアがうーんと考え込む。


「肉ってオヴォツじゃ何を捧げていた?」


 くるっとスヴァーラさんの方を向くと、スヴァーラさんはこめかみのあたりに指を当てた。


「普通に……牛や豚だったと思いますけど……愛情をかけたものならものほどいいと言われていた気が……」


「生贄っぽいな」


「試しているかも知れない」


 ぼくは指で机を叩きながら呟く。


「試す?」


「うん。人間を試すのかもしれない。精霊神に大事なものを捧げられるか、と」


「確かに、それはあり得ますね……。あの方は、確かに、そんな雰囲気がありました。自分の前に立つ人間を試すような……黒い炎で自分に選ばれる資格があるかを試し、捧げ物で大切に育てたものを自分に渡せるかを試す……」


 大事なものを捧げる……つまりそれだけ自分を信仰できるかを試す。


「でも、今回はそこまで深刻に考える必要もないと思う」


「何故だ?」


「人間を試しているんじゃなく、おもてなしされたいから。純粋に」


「純粋なんてことに確信してるのか?」


「うん。九割九部行けると思ってる」


「その根拠は?」


「スヴァーラさんの……性格も肉体も気に入っているようなのに、スヴァーラさんを簡単に引き渡した」


「ああ。それが?」


「そんなに気に入りならそれを要求しただろう。だけど彼女はもてなしを選んだ。そして彼女を置いて行った」


「ああ……なるほど。欲しい物よりイベントを選んだわけか」


「そ。それが根拠。人間として迎え入れられ、人間として歓待され、人間の中でわあわあ騒いでみたい。欲しい物よりもてなすという人間の風習がフォンセの心に響いたんだろう」


「う~ん……」


「なるほど……そうですわね。欲しいものを選ぶなら、ワタシの肉体……あるいはワタシそのものを連れて行ったでしょう」


 そう言うことだ。


 興味を持ったものに真っ直ぐ進む心。ことわりや常識ではなく、好奇心こそが行動理由。が世界を存続させなければ、と精霊として少し歪んだ方向に行っている分、対のフォンセの純粋さが際立って見えるのもある。


「そう言えば、とにかく人間相手にやるように歓待しろって本人も言っていたな」


「怒らせなければ成功だと思うよ。なんせ彼女は、人間が人間を歓迎する時どうするかを知りたいだけなんだから」


「具体的に言うと、人間と一緒にワイワイしたい、と言うことか」


「うん。だから」


 ぼくはぼくの部屋にも取り付けられている映像機を発動させた。


 大湯処(シエル原案)の図が浮かび上がる。


「これを完成させて、フォンセを招く。町の人間も入り混じって彼女を中心に大騒ぎ。多分それが彼女が一番望んでいる歓待なんじゃないか、と思うんだけ、ど」


「まあ……それが一番妥当な判断だな」


 ティーアが息を吐いた。


「俺は何をすればいい?」


「動物たちを落ち着かせる」


 フォンセ……世界を滅すると言われている闇の精霊神が近くに来ただけでエキャルもテイヒゥルもオルニスも怯えてたからね。


「歓待に怯える動物は相応しくないからね」


「分かった。その日が近くなったら少しずつ動物たちを落ち着かせるようにフレディにも言う。理由は……フォンセが動物に好かれない体質とでも言っておくか」


「一番無難ですね」


「テイヒゥル、エキャル、ぼくの傍にいられる? フォンセがすぐ近くに来るけど我慢できる? それとも何処かに隠れてたほうがいい?」


 エキャルが考え込む前にテイヒゥルが胸を張った。


「護衛猫のプライドだな」


 ティーアが呟く。


「自分も怯えるほどの相手の前に主を一人立たせるわけにはいかないか」


「いや、怖かったら怖いでいいんだよ? ぼくは文句言わない」


 テイヒゥルは更に胸を張る。


「……分かった。じゃあテイヒゥル、フォンセがいる間、ぼくの身辺警護を頼むよ」


 ここで退くことを提案すると落ち込みそうなので、ぼくはテイヒゥルの頭を撫でて頼んだ。


 するとエキャルがバサバサ。


「エキャルも怖いなら怖いで……」


 テイヒゥルがいるなら自分もいる、とバサバサするエキャル。


「対抗心燃やさなくていいんだよ……?」


 バサバサするエキャルと胸を張るテイヒゥル。


 このぼくの傍にいなきゃダメなアニマルズ、どうにかならんのか。


 うん、エキャルもテイヒゥルもぼくが飼ってるんだけどね? 懐いているから可愛いんだけどね? ぼくを張り合わなくてもいいんだよ? 張り合うのはアナイナとヴァリエだけで勘弁なんだけど。


「じゃあ、シエルや町の上層部をせっついて大湯処の歓声を急がせる」


「ワタシはグランディール町民にしてもらわないと」


「うん、それは今ここで登録しちゃうから」


 町民戸籍簿に書いて、スヴァーラさんとぼくの印を押すだけでいいからね。


「で、フォンセさんがワタシを助けたと言う事件はどうしましょう」


 うん、それ一番重要ね。フォンセをぼくが歓迎する理由になるからね。

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