第417話・おもてなしに必要なもの
「湯はワタシが案内しましょうか?」
「スヴァーラさんっ?!」
まだフォンセに乗り移られていたダメージが回復しきっていないだろうに、スヴァーラさんはベッドの上から微笑んでいる。
「フォンセさんはワタシのことを気に入ってくれたのですよね?」
「うん、それは間違いない」
外見だけじゃない。それだったらフォンセはスヴァーラさんの肉体に宿った時、肉体を操るのに邪魔な精神なんて、潰すか、あるいはぼくと明るいのの時のように精神を肉体から追い出してしまうことだってやれたのだ。それを、肉体の中に宿したまま、自我を崩すこともなく、自分が去った後すぐ肉体の主導権を引き渡せるまでに大事にして。
相当スヴァーラさんを潰さないよう気を使ってくれたとしか思えない。
「見た目や口調が女性なら、無理やり一緒に入ろうとするよりは女性が案内したほうがクレー町長のお立場にも問題は出ませんし。気に入ってくれたというならその立場も使ったほうが良いかと」
「でもスヴァーラさん、グランディールの町民でもないのに」
「町民でないなら町民となるまでです」
肩に留まるインコのオルニスを指先でくすぐりながら、スヴァーラさんは微笑んだ。
「それに、彼女がワタシを助けた、と言うことにしたら、どうです?」
「あ」
グランディールに縁深いスヴァーラさんを、フォンセが助けた。新町民となったスヴァーラさんがそのことをぼくに言い、ぼくは町民を助けたという礼の為にフォンセをグランディールに招いた……。
うん、言い訳の何処にもボロはない。
フォンセが大々的な大歓迎を求めているならそれは無理だろうけど、とりあえず彼女(?)の望みは今の所町を挙げた大歓迎ではない。なら、ぼくとスヴァーラさんが個人的に恩義を感じて招いたなら……。
「それ、いい言い訳」
「でしょう」
スヴァーラさんがニコッと笑う。悪戯を思いついた子供のような笑顔。
……こういうところか。フォンセがスヴァーラさんを気に入ったのは。
大陸の全てを創り上げた対と意見を異にして、大戦争の末大陸から追放され、何とか戻ってきたら自分が全部の悪を背負わされたような状況になっていて(まあ完全にシロとは言えないんだけど!)、不貞腐れて大陸を叩き潰してやろうとしていると聞かされていた闇の精霊神は、話して見ると明るいのなんかよりよっぽど人間を大事にして尊重もして話も聞き入れてくれる存在だった。
ぼくがフォンセを警戒していたのは、光の分霊であるぼくの創った町にどんなちょっかいをかけて来るか分からないから。そしてスヴァーラさんの精神が壊されるかもしれないの二つ。
うち一つでも傷付けるようなら、いざとなったら一割しか持っていない力を使ってでも戦ってやろうと覚悟すら決めていたのに。
フォンセはもてなしを楽しみにすると言い残してグランディールから消えた。
……うん。明るいのより
それが演技だったとしても、だ。
「湯のもてなしは……頼めます?」
「はい。でもその前にその湯を試させていただければと」
そりゃそうだ。知らない所を案内しろって言われても困るよな。
「うん。それは説明する」
「後のおもてなしはどうしましょう……」
「おもてなしなら食事だよな」
「クイネの食事は口に合うかな」
精霊神って何食べるんだろ……。
「明るいのがぼくの中入ってたときって何食べてた?」
ティーアに聞くと、首をかしげて考え込む。
「特に好き嫌いはなかったと聞いているが……だが、そもそも味なんて分かるのか? 精霊神……精霊ってのは通常肉体ないんだろう?」
「うん……それなんだよね」
明るいのが何か好きなものを食べていたとしたらフォンセにも共通するかなと思ったんだけど。
「う~ん……」
そもそも、精霊が人の肉体に入る以外で味を感じるなんて在り得るのか?
自分で肉体を作ったとして味覚というものを作ることはできるのか?
明るいのはぼくの中にいた時に味を感じたことがあるのか?
ああ畜生、明るいのに聞くわけにはいかないし。フォンセはまだ明るいのに存在を知られるのは嫌だろうし……。
「せめて、もうちょっと種類を絞れればなあ……」
「お供え物なんてどうだ?」
ティーアが口を開いた。
「精霊神に供えるものならある程度絞れるんじゃ?」
「そうだ」
ぽん、とスヴァーラさんが手を叩く。
「オヴォツの精霊神神殿では、穀物と肉を供えておりました」
「穀物は分かるけど……肉?」
ぼくは首をかしげてしまった。
確かに供え物は、その対象の精霊が気に入っているものを捧げる。食べ物だけじゃなく、金属、鉱石、水や花、炎、色々だけど、その精霊や精霊小神に係わりがある気に入りのものを捧げるのが常識。だが、肉体を持たない精霊は、肉の体をワンランク下に見ている傾向がある。精霊神ならなおのこと。だから、供物も
「ええ。オヴォツの精霊神に捧げられるのは、狩猟の獲物……ただの野獣の肉ではダメらしいのです。自分の手で育てた愛しい肉でないと」
「つまり、食用肉……ってこと?」
「ええ、人間が愛を注いで育てた獣を」
ん~。
「二つの意味が考えられるなあ」
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