第422話・理由は出来た

がひどい目に遭わせるのを認めたミアストを、更にひどい扱いにしても、は文句言わないな」


 ティーアの呟きに、うん、うん、とぼくは頷く。


「なんせミアストの悪行はグランディールのほぼ全町民が知ってるんだから、そいつに酷い目に遭わされていた人がさらに酷い目に遭わされそうだったのを助けた、ってことなら歓迎するな」


「よしこれで行こう。三人とも感謝。ありがとう。おかげでアイディアが出た」


「おれたち唸ってただけなんだけど」


「いや一緒に唸ってくれただけでありがたかった。力になってくれる人間のありがたさってのを思い知らされた」


 ……なんで顔を赤くする? 素直に感謝しただけなのに。


「いや……闇の……フォンセか、もてなすアイディアとかに悩んだら、また付き合う。呼んでくれ」


「助かる!」


 ラガッツォを片手で拝むと、ラガッツォは鼻の頭を掻いて立ち上がった。


「あと、何か精霊神様絡みであるようなら、そっちも連絡くれ。おれたちは町長には負けるけどそれでも精霊神様には近い。闇の方でも何か力になれるかも知れないから。もちろん秘密は守るし」


「感謝!」


 三人はちょっと照れ臭そうに笑うと、部屋から出ていく。


 三人を見送って。


 ぼくたち三人はそれぞれ椅子やベッドに深く深く沈み込んだ。



「……まあ、おかげで言い訳としてはこれ以上ない言い訳を作れた」


 ティーアが呟く。


「ミアストちょ……ミアストは、何処かで聞くでしょうか」


「聞いたとしてもグランディールには来れないだろ」


 心配そうなスヴァーラさんにぼくは手をひらひらさせる。


「出来ない。多分、エアヴァクセンやグランディールにはミアスト近付きたくないはずだから」


「近付きたくない?」


「エアヴァクセンに行って追い出されるのも、グランディールに来て嘲笑われるのも、あいつは嫌なはずだから」


 落ちぶれた姿を見せて同情を引く、という手を使えるタイプはいるけど、ミアストは賭けてもいい、絶対そう言うことはやらない。あのプライドの塊が、これまで見下していた人間に見下されるなんて考えたくもないだろう。


 遠くで噂を聞いても、心当たりはあり過ぎるし、確認しにも行けないし、悔しい思いをするだけだろう。


 とにかく、これで言い訳の目途はついた。あとはフォンセが自分用に拵えた「人間の顔」を確認して、言い訳周りを確認する。それが終わったらもてなし。よし。


 さて、それでは。


 ぼくはテイヒゥルの頭を叩いて膝から頭をどかせ、よっこいしょ、と立ち上がった。


「クレー?」


「シエルのお尻叩きに行く」


 今頃猫の湯で幸せそうなのは目に見えている。これまで頑張ってくれているシエルの邪魔は出来るだけしたくないけれど、シエルが動いてくれないともてなしの準備はできない。


「スヴァーラさんは落ち着くまでベッドにいていいから」


「でも」


 その時、ぼくの頭からエキャルが飛んでスヴァーラさんの傍に行った。


「ほら、エキャルも大人しくしてろって言ってる」


「エキャル……」


「フォンセに居座られたあと厄介な相談にも乗ってくれたんだ、疲れてるだろ、エキャルがいいって言うまで大人しくして」


 エキャルが胸を反らす。


「ティーアもそろそろ戻らなきゃだから、アパルかサージュに頼んで食事持ってこさせるから。多分スヴァーラさんの家も出来てるけど、今の状態じゃ動ないでしょ。動けるようになるまではここにいて。大丈夫になったらエキャルが案内する」


 エキャルが更に胸を反らす。


 お前、いい気分になると折れるんじゃないかって思うほど胸反らすのやめろ。


「え、でも、町長のベッド」


「歩いて家まで帰ってベッドまで立ってられるって言うなら引き留めないけど」


 スヴァーラさんはベッドの上でずれて、床に足をつき、立ち上がろうとして……崩れ落ちた。


「言わんこっちゃない」


 ティーアが肩を竦めて、スヴァーラさんの細い体を軽々掴んでベッドの上に戻した。


「申し訳ありません町長……ティーアさんも」


「気にするな」


「どんだけしんどいかは分かってるから。だから大人しくしてて」


「お言葉に甘えさせてもらいます……」


 申し訳なさそうにベッドに横になるスヴァーラさん。


「ティーアは前も言った通り動物たちを安心させて」


「分かった」


「ぼくはシエルと大湯処おおゆどころを詰める。スヴァーラさんは、頭が働くようだったら、ミアストにどんな目に遭わされそうになってフォンセにどんな風に助けられたかの設定を詰めてくれる?」


「あ、はい、わかりました」


「じゃあ、それぞれ、やることをやろう」



     ◇     ◇     ◇



 それからぼくは毎日シエルの家に出入りした。


「……クレー……」


「何」


「何でオレばっかり見てるんだよぉ」


「シエルがサボるからです」


「ちゃんと真面目にデザインの仕事するからさあ!」


 シートスとぼく、二人の監視付きのデザインはきついだろうけど……。


「もうどれだけの町長から参加希望の伝令鳥来てるか分かってる?」


 各町の町長が大湯処がまだかと伝令鳥を送って来ている。たくさん、たくさん。


「知ってるよぉティーアに見せられたから……」


 各町から飛ばされた伝令鳥は「いい返事をもらうまで戻ってくるな」と言われているらしく、「もう少し待ってください」の手紙を出そうとしても飛んで行かない。伝令鳥は自分の運ぶ手紙の内容を感じている、とはよく言われているけれど、事実だなこれは。

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