第414話・人間としての顔と背景
真面目に答えると、闇は嬉しそうにニコニコと笑った。
「そっか。そうなんだ」
「何が「そう」なわけ?」
「真面目に考えてくれてんだ、って」
ニコニコ、ニコニコ。
嬉しそうなその表情からは、大陸を闇に染め沈めようとしている破壊の気配は微塵もない。
「そりゃあ……もてなすと決めたらもてなしますよ。お客様がいらっしゃるとなったらね? 迎える気がなかったら好みとか趣味とか聞かないで、ひたすら逃げますよ」
げんなりしているぼくに、闇はうんうん、と頷いている。
「おもてなし? されるのって初めてだから、楽しみ」
「で? あんたはどういう設定でこの町におもてなしされに来るんだ?」
「設定?」
「まさか「はいこんにちは闇の精霊神ですもてなしなさい」って入ってくるつもりじゃないんだろ? 人間としてもてなされたい場合は人間として町に来ないともてなしようもないでしょ」
「そうかあ。なるほどねえ。そうよねえ。人間として来なきゃ人間としてのもてなしは受けられないんだ」
なるほどとまたも頷く闇。
「闇の精霊神として受け入れて支配させろってわけじゃないんなら、人間としての顔と背景作って来い」
「このままこの身体」
「スヴァーラさんに迷惑でしょ! その体はここ出る時ちゃんとスヴァーラさんに返す!」
「えー。気に入ってんのに」
「もっと気に入る肉体を自分で作って持って来い。生きてる人間に乗り移らなくても好きな形作れるんだろ?」
「あら、知ってるんだ。明るい方に聞いたの?」
「聞かなくてもある程度は分かる。分霊だから。明るい方は一度精霊体でぼくの所にやってきたけど、あれは単に背景作るのめんどくさかったからって分かってる」
「うん、あいつ、そういうところ手を抜くの」
「とにかく、好みの顔と人間としての背景を作って持って来い。話はそれから」
「顔って言うけど、要は見た目よね。じゃあ背景って?」
「中身。演じてる人間が何者だって話。どんな生まれ育ちをしてどんな理由でここへ来たか。どんな理由でもてなされるか。性格はそのままでいいんだろ?」
「あら、このままでいいの?」
「精霊神感バリバリで来られたら困るし、慣れない口調とか作ったら絶対どっかでボロが出る」
「明るい方だってボロ出したものねえ」
「そう言うこと。今喋ってるのが本性ならそのままで来い。性別女性、年齢二十代前半、性格ちょっとお調子乗り系、それは決まった」
「後は?」
真剣に聞いてくる闇。
「顔は完璧に。顔立ち、身長、体格。ちゃんとした実体を作る。そのまま大陸をうろついても明るい方が気付かないほどに完璧に人間に。身長が馬鹿高いとか頭がやけに大きいとか一般的な人間の作りから外れたらダメだからね」
「ふんふん……それも納得。この顔をそのまま使ったらダメなのね?」
「当然」
「んー、残念。結構気に入ってんだけどな」
本当にスヴァーラさんの顔気に入ってんだな。でもスヴァーラさんが既にいるんだから双子の姉妹って設定でもない限り同じ顔はマズイ。
「むか~しむかしの気に入った顔でも持って来い」
「あ、そうか。昔の人間ならいいのよね。記録に残ってないような古い人間なら」
「……まあ、そうだな」
「うん、で、二十代前半女性調子乗りに合う顔ならなおいいのよね?」
「なおいいって言うか、必須だから」
「分かった。あとの背景は?」
「氏素性」
「つまり、何処で生まれたなんて人間か、ってことね?」
「ああ。だけどこれは昔の人間参考にしちゃダメだからな」
「よね。私って人間は今現在生きてるって設定だから」
「ああそうだ、あと名前! 闇とか暗いのとかって呼べないから、人間っぽい名前!」
「名前」
闇は目を閉じて、んー、と考え込んで。
「フォンセ」
「フォンセ?」
「フォンセ・オプスキュリテ。何か問題はある?」
「ない、な」
心当たりに知った名前がないのを確認して、僕は頷く。
「じゃあ、ちょっと人間を学習して、おもてなししてもらえるよう器の顔と背景を作るわ。そうしたらここに連絡すればいいのね?」
「ああ」
「んふふ」
闇は嬉しそうに笑う。
「人間のおもてなしでいいんだな?」
「ええ。今この状態で私を祀れなんて言っちゃったら、あなたの大好きなこの町が壊れちゃうものね」
「うん、それは全力で避けたい」
「全力を尽くしてくれるなら、私も全力で顔を作る。完璧に何処から何処まで、明るい方が見ても気付かないくらい完璧な人間を創り込んでくる」
ぐっ、と拳を作る闇……もといフォンセ。
ぼくも闇とか暗い方だとか言ってたら間違えるかもだから、フォンセの名前に慣れておかないと。
「後は、もてなされる理由! 町長が出てきてもてなすなんて結構大ごとだからね、町長が全力でもてなしたいって理由を作って!」
「えー。そこまで私が決めるの?」
「もてなされたいんならもてなされる理由を考えなさい」
「んー」
フォンセは唇に指を当てて考え込んで。
「何かから私があなたを助けた……って言うのはどう?」
「なるほど。それならぼくが個人的にもてなしてもおかしくないな」
頷いて、フォンセは笑う。
「急いで作ってくるわ。ああ楽しみ! 思えば生まれてからもてなされるなんて一度もなかったもの!」
スヴァーラさんの姿がぶれて、黒い炎のような何かが離れた。
ぞくりと首筋の毛が逆立つ。
「じゃあね。楽しみに作り込んでくる!」
黒い炎はひゅうっと渦を巻いて消えた。
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