第413話・サプライズ

「……何を?」


 この場で戦いになるかも、と身構えながら聞いたところ。


「私を歓迎してよ」


 …………。


「はい?」


「せっかく来たんだから、私を歓迎してよ。この町、今はおもてなしの為の設備を用意していたんでしょう?」


 予想外過ぎる返事が返ってきた。


 てっきり、町を闇で染めるとか、そう言うことを言い出すかと思いきや。


 しかし。


「いや、人間相手のもてなしで、精霊神は」


「せっかく来た私をもてなしてくれないの?」


「あんたをもてなす理由がない」


「えーっ」


 膨れる顔はむしろ本来のスヴァーラさんより魅力的に見せるかもしれない。でも、相手は人間じゃないのだ。


 文字通り、人間の皮を被った人外なのだ。


「じゃあ、焼き尽くす」


 う。


「せっかく来た私を歓迎しない失礼な町は焼き尽くす」


 傍から見れば子供が駄々こねてるみたいだけど、そこには町一つ……そこに住むみんなの命がかかっている。で、ついでにこの大陸の存亡すらかかるかも知れない。


 ぼくは大きく溜息をついた。


「どんなもてなしをされたいの」


「えー? それはサプライズでしょう」


「サプライズって意味分かってる?」


「ひとを驚かせ喜ばせることでしょ?」


「そう。で、いい感じにドッキリさせるには、相手の情報を握ってないとダメなんだよ? 何も知らん情報ない人間ですらないあんたのサプライズなんて無理。させてもらいたいならあんたの情報寄越せ」


「え~?」


 闇、不満顔。


「サプライズしてもらいたいんならな」


「どんな情報よお」


「例えば好きな物、嫌いな物」


「好きなのは闇。嫌いなのは光」


「だ~か~らあ~……」


 思わず頭を抱えるぼく。


「そんなの情報の内に入らないの! 闇の精霊神が闇が好きで光が嫌いなのは考えなくても分かるだろ! そうじゃなくてぇ、例えば好き嫌いな食べ物とか飲み物とか、興味のある物とか……」


「それ教えたらサプライズじゃなくない?」


「本来サプライズってのはよく知っている相手に対して仕掛ける物なの! もう好き嫌いなんでも知っている相手に仕掛けるの!」


「知らない他人が仕掛けてるの見たことある!」


「それは依頼人から最初にデータもらって、それを元に計画してるの! こんなノーデータのサプライズなんて失敗しか考えられない!」


「ぶー!」


「怒っても無駄! サプライズさせられる情報が見つかりません!」


「ん~……それじゃあ……」


「明るい方から聞けって言っても無駄だから!」


「なんで?」


「明るい方が持ってるのは相当昔のデータでしょ! あんた追放されて五十年前に戻ってきてオヴォツで大騒ぎした後は雲隠れしてまともに明るい方の前には出てきてないでしょ! 神話的に昔のデータとか話にならないし、五十年前でも相当昔過ぎてやってられない! 欲しいのは! 今! 現在! ここに来て! サプライズされたいって言ってる! あんたの! データ!」


「データ教えればサプライズしてくれる?」


「情報次第!」


 大声をあげて、ぜぇはぁと肩を上下させるぼく。


 闇は、ん~、と考え込んでいる。


「その情報悪用しない?」


「どう悪用するの」


「例えば私を誘き寄せる餌にするとか、……あっ、油断させて私を倒そうとか?」


「そんな簡単に利用して倒せる相手なら明るい方がすでに利用してるでしょ」


「ああそっか」


 闇~……。


 演技か本音かは分からないけど、作った性格だとしたら相当作り込んで来たなこれ……。


 でも、闇に関するデータがないってのは本当で、本気でサプライズを望まれているんならデータは絶対必要。


 精霊の、しかも神に人間視点があるかどうかは分からない。


 明るい方はかなりその知識がなかった。ぼくの肉体に入ってぼくの振りをして、ほとんどの相手に気付かれなかった理由は、ぼくの仮面……ぼくの肉体に染みついた「ぼくらしいぼく」を演じたからだ。それでもティーアは「なんだか浮世離れしていた」という感想を後に漏らしていたけど。


「そもそも人間風のサプライズでいいのかどうか」


「どんなのでも」


 にっこり笑う闇。


「でも神殿とかでお祀りするのはやめてね。あの神殿明るいののでしょ? そこで私を祀られても嬉しくない」


 あ~ま~そうだわな。大陸は精霊神として祀っているけど、実際に祀られているのは光の精霊神のみで、闇の精霊神は存在すらしてないってことになってるんだよな~。闇が祀られているのは恐らくオヴォツだけで、そのオヴォツも闇と知って祀っているわけじゃない。


「じゃあ闇の神殿を創って祀れとか?」


「そこまでは言わないわよぉ。ただ私を喜ばせて欲しいだけ」


「何をして喜ぶ」


「分からないからサプライズしてみてって言ってるの」


 あ~も~。何かウナギと話してるみたいだ! ぬるぬると!


「……へえ」


 一生懸命頭を働かせているぼくを見て、闇は興味深そうにこっちを観察した後、くすっと笑った。


「精霊神が迷惑かけてきてる、迷惑、追い出そうじゃなくて、ちゃんと考えてくれてんだ。へえ」


「考えろと言われたら考えるよそりゃあ。第一追い出したら何されるか分からないじゃないか。そりゃあ必死に考えますよ」

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