第402話・大破壊の時

「なんかさー」


「うん?」


「なんでもそう思っちゃう自分のことが、嫌になってきたんだ」


「厄介者は厄介者で間違いはないだろう」


「なんだけどね、それより、何か都合の悪いこととかあるとあいつらにせいにしている自分がいるのに気付いて」


「……ああ」


「で、自己嫌悪中なわけですよ」


 はー、と息を吐く。


 何か自分に都合のいいことがあれば喜んで受け入れるのに、都合の悪いことをあのに押し付けて責任逃れをしている自分が気に入らない。


 テイヒゥルがかわいいと思うのに、いつあのが予告した明るいのと暗いのとの戦いが始まってグランディールが巻き込まれるか分からない、というのを言い訳に、テイヒゥルの責任を取りたくない自分がいる。


 たくさんの町民の命を預かっているのに、理由をつけて虎の命を拒絶する自分がいる。


 そう、一番ぼくが気に入らないのは、ヤツらでもテイヒゥルやモール町長でもない、ぼく自身だ。


「気持ちは分からないでもないが」


 宣伝鳥の抜けた羽根を集めながらティーアは肩を竦めた。


「あんまり自分を責めるな。ヤツの一割を引き継いだのはお前の意思じゃないんだから」


「そうなんだけどね」


 エキャルを抱えてそのふわふわと存分に楽しみ、精神を落ち着ける。


「あ~なんかぼくがすごく嫌な奴に思えてくる」


「思い込むな」


 宣伝鳥の飾り尾羽を抱えながら、ティーアは僕の頭を軽く叩いた。


「お前はいい加減でいいんだよ」


「町長がいい加減でどうするんだよ」


「周りに、お前のいい加減をフォローしてくれるヤツはたくさんいるだろ」


「周りに負担かけるわけには」


「モール町長を見ろよ」


「え? 何であの人?」


「あの人は自分の猫好きを飯の種にしている上に、テイヒゥルを売り込むために町の仕事全部ほっぽってグランディールにやってきた」


 そう言っちゃうと……何かモール町長が無責任町長のような気が……。


「でもフェーレースは動いている。彼女は自分がいなくても町がちゃんと動くことを知っているんだ」


「町が……ちゃんと、動く?」


 その一瞬、コチカさんの姿が頭に浮かんだ。


 猫が関わると人が変わるフェーレースの取引担当長。


 猫を愛する町は猫を愛する人が集まって、猫を愛する町長を支えている。


 だけど、ぼくは。


「ぼくは……みんなを信頼してるのかな……」


「んー?」


「んー……みんながぼくを信頼してくれているのは知ってる。でも、ぼくが……みんなを信頼しているのかなって」


「これは相当だな」


 集めた羽根を袋に入れて、ティーアはぼくの向かいの椅子に座る。


「僕に向けられる信頼がヤツの影響でないなんて言えない。そうやってみんなのことを信頼できない自分がいる。それが……嫌で……」


「生まれる前から運命が決められているなんてのはさすがにオレもゾッとするがな」


 抜けた羽根を選別しながら、ティーアは言ってくれた。


「でも、決められていると気付けたんなら、捻じ曲げることは可能なんじゃないか?」


「え?」


「確かに、お前にはヤツらの大喧嘩を止める力はないかもしれない。そもそもお前が生まれたのだって、大喧嘩を止められないから、そこから起きる大破壊カタストロフィを何とかするため、だよな?」


「うん。でも」


 まあ聞け、とティーアはぼくの言葉を遮って続ける。


「だけど、お前はヤツらの為じゃなくて、町のみんな、町に関わったみんなの為に何とかしようと思っている。その時点で、既にヤツらの想定の範囲から外れてるんだよ」


 紅の飾り羽を机の上に置きながら、ティーアは続ける。


「お前は面と向かって、「の言いなりになるのは御免だ」と言ったんだろう? そしてヤツはお前に強制できなかった。もうお前はあいつらの手駒じゃない。自由に生きる。それが出来るようになったはずだ」


「でも、現実には」


「ああ。お前はヤツらに縛られている。でもそれは自分で縛っちまってるんだ」


「え?」


「お前がヤツらの糸に縛られている、と思い込んで、逃げられなくなってんだよ」


「…………」


 何か言葉を考えようとした。


 同意? 反論? 異見?


 ……ダメだ、何も出てこない。


「お前はお前だ。お前の成長にヤツらが関わってはいない。だから、お前の考えは、お前が考えて生み出したものだ」


「…………」


「そして、お前は守らなきゃいけないものが多すぎる。だからこの上、虎まで入ったら……許容量キャパシティが崩れる、そう思ってるんだろう?」


「……うん」


「だけどな、いずれ来る大破壊の時、お前は守りたいものの中にフェーレースまで入れてしまった。その時点でテイヒゥルは入ってしまってるんだよ。近くで守るか遠くから守るかの違いだけだ」


「……結局、ぼくはテイヒゥルを受け入れるべきだって言ってるの?」


「いぃや? お前には癒しが必要だって言ってるんだ」


「でも、エキャルがー……」


「忘れたか? グランディールにテイヒゥルを連れて入って来た時、最初の子供にきっかけを与えたのがエキャルだったって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る