第399話・人食い凶獣かデカい猫か
エキャルがぼくの頭の上に戻ってくる。
ぼくは少し考えて、それからモール町長を見た。
「いつの間にエキャルを
「あら、してないわよ? そんなこと」
モール町長ニコニコ。
「ただ、分かるだけ」
「分かるて」
「エキャルが、あなたのことが大好きなこと。あなたが、テイヒゥルちゃんのことを気に入ってること」
「?」
分からず首を傾げるぼくに笑顔でモール町長は続ける。
「エキャルは、テイヒゥルちゃんのことは気に入らないけど、あなたを悲しませたくないから、町の人たちとのきっかけになろうとした」
「エキャル?」
エキャルは首をグーンと曲げて、ぼくの顔を逆向きに覗き込む。
「お前、モール町長と一緒にぼくのことを
「あらいけないわクレー町長。エキャルは町長のことを思ってやったのよ? テイヒゥルが悲しい目に遭ったらあなたも悲しむと知っているから。その為に一人占めしたいあなたをテイヒゥルちゃんと共有することも認めたのよ?」
……。
「モール町長のスキルは「動物感知」ただし猫に限る、でしたよね?」
「そうよお。でも、猫と猫に関わる人を見ていれば、その考えていることは分かるわ。それでこその町長よ」
「恐れ入りました」
「それを言うのはわたしの方」
モール町長はテイヒゥルの頭をナデナデしながら笑う。
「猫好きでもないのに初対面でテイヒゥルちゃんの頭の前に手を出せて、頭を撫でて。懐かれて断ることも出来たのに、テイヒゥルちゃんのことを考えて断れない。こんな人がいるだなんて思わなかったわ」
いや、生まれも育ちも人なんですけど、魂があの通称明るい厄介者の一割で出来てるんです。言わないけど。信じてもらえないだろうし信じられたらもっと厄介だし。
でも、だからテイヒゥルやエキャルの考えていることが分かるわけじゃないんだと思う。
アパルやサージュがぼくが言う前にぼくの言いたいことを悟る……気にしていて観察しているからぼくの言動を先読みしてくる、それとぼくがエキャルやテイヒゥルにやっているのは一緒なんだろうと思う。
付き合いが短いのに出来てるのはそれこそあんにゃろのせい……おかげ……いやいやせい……なんだろうけど。
ぼくは駆け引きをする人間より素直に好いてくれる動物の方が好きなんです。
◇ ◇ ◇
大通りを真っ直ぐ突っ切って、会議堂へ向かう。
当然テイヒゥルも歩いているので、十人近い人間の中に虎が一頭どーんといるのである。
さっきのヴァイカス君の一件で子供の視線は柔らかくなったけど、大人の視線はまだまだ危険警戒警報。
ま、普通はそうだろうねえ……。
虎を実際に見たことがない人でも虎と分かる模様。巨体。ぶっとい四本足。爪。牙。
大陸の南の方に野生種はいるらしいけど、精霊神に作られた「野獣」の中でも凶暴な「猛獣」であることは確か。闇の力に影響されて更に凶暴化した凶獣や魔獣に分類する学者がいるほど、人間を襲うことも多い生き物である。
……まあ、これは、むかーしむかし、「くに」があった頃。人間がその美しい毛皮を目当てに虎を狩りまくったことから虎が人間を不倶戴天の天敵と認識したという話があるので、虎としては迷惑だろう。他にも人を食う野獣・猛獣はいるんだしね。
でも、「虎イコール人を食う」認識のせいで、虎という生き物が誤解されているのは確か。
正直なところ、テイヒゥルは虎というよりデカい猫と認識したほうがよさそうだし。
ぼくやモール町長が傍に居るとテイヒゥルが甘えに行くので、更にデカい猫のイメージが出て来る。
「凶獣、魔獣」のイメージから「デカい猫」のイメージにしてもらうには……やっぱり近くで観察するのが一番で、だからこそモール町長が三日時間をくれって言ったんだろうなあ。
しかし、子供の半分近くはさっきの一件で持って行ったから、残りの半分も持って行きやすいとは思うけど、大人……虎は凶獣・魔獣と認識してしまっている大人を納得させるのは難しいぞお? モール町長、どうする?
機嫌よくテイヒゥルを撫でているモール町長はぼくの思いを知ってか知らずか。初めて会った時からほとんど崩していない笑顔でテイヒゥルのブラッシングをティーアに教えたりしている。
明日からどうなるか……。
実の所。
モール町長が動いたのは、夕食の時からだった。
食堂はあちこちで出来ているけど、クイネの食堂が一番古くて一番美味いと聞いたモール町長は、テイヒゥルと一緒に食べに行った。
ぼくたちがついて行く間もなかった。
何とかエキャルを飛ばす間はあったので、クイネがヴァリエに近所の食堂や放牧場に向かわせて生肉を準備したところでモール町長到着。
「本日のおすすめ料理とたっぷりの生肉!」との注文に答えられたらしい。
クイネ、相当焦ったって。だって今まで「準備不足」で待たせたことがないのが自慢だったのに、虎用の肉を用意してなくて待たせるなんてプライドが許さなかったってさ。
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