第388話・猫様猫猫ありがたやー♪
で、ついに最後の湯処改築へ。
行く前に、グランディールはペテスタイを連れて移動を始めた。
フェーレースに行くため。
シエルがワガママを通すために全湯処のデザインをきっちり仕上げて作り上げたので、ごほうびとして猫の湯を実現することになったのである。
本当ならスヴァーラさんがそろそろ帰ってくるはずなんだけど、エキャルが手紙を持ってきた。「旅の疲れかちょっとフォーゲルで休んでから行きます」と書いてあったので、その間を利用しての移動である。
ちなみに、「ただの家猫じゃいやだ大小様々な種類の猫がごろごろしていてその中に突っ込んでいきたいんだ」とワガママを言い出したので、注文は「湯処の癒しとするために猫を必要としている。とにかく穏やかで人好きな猫を種々様々に見せてくれ」となった。アパルはどれだけかかるかと顔色悪くなってる。
もちろん町のみんなも入るからね! シエル独占の湯じゃないからね!
ちなみにペテスタイの人たちがついてきたのは、グランディール以外の町を見たいと言うことで、町をステルス状態にして、グランディールの服を借りて他のグランディール町民と一緒に見学に行く。
もうそろそろフェーレースが見えて来ようかと言う辺りを移動中。
「フェーレースっ、フェーレースっ」
浮かれてるのはもちろんシエル。
「猫様猫猫ありがたやー♪」
「……何なのその歌」
「憧れのフェーレースに行けるぞ猫様にお目にかかれるぞありがたやありがたやの歌」
「なんで歌よりタイトルの方が長いんだよ」
「歌本編考えたら歌い終わるまで半刻はかかりそうだったんだが」
「やめろ」
知らない所で何デザインしてんだ。
「うん、だからやめた」
さすがにここでぼくやアパル、サージュを怒らせるとフェーレースから回れ右になるのが目に見えているのか、シエルは珍しく自重している。シエルにしては、だけど。
フェーレースからは訪問歓迎の返信を受け取っている。動物関係ではトップに位置するフォーゲルから鳥を大事に扱ってくれる町と聞いたらしく、猫もきっと大事に扱ってくれるだろうと思われたらしい。
猫が宣伝鳥やエキャルを襲わないかちょっと心配だったけど、フェーレースで躾けられた猫は言われた以外の獲物は余程飢えるなどの危機的状況下に置かれない限り襲わない、とお墨付きをいただいたので安心している。
うん、身の回りに猫がいなかったから猫のことあんまりよく知らないんだけど、興味がないと言えば嘘になる。
シエルをあそこまでぐねんぐねんにする猫という存在に興味津々なのはぼくもだ。
そしてグランディールには「ウサ湯」に代表されるように動物好きが多いらしく、生猫がたむろする猫の湯を作るにあたって猫を買いに移動するという情報は行き渡り、ちょっとお金を持っている町民から「猫を飼いたいので買いに行ってもいいか」という質問を受けたりもしている。フェーレースからは猫を食用にせず大事にしてくれるならと返事をもらったので、十数人がフェーレースに行って家猫だっけ? そう言うのを買う予定。もちろん元ファヤンス住民がウサギを愛しながらも食べていたことは言わないのである。
しかし……シエルはどれだけ買えばいいと思ってるんだろう。
ティーアの奥さんで、動物を懐かせるスキルを持つフレディと子供二人が湯と猫のお世話をすると言うのでありがたく頼むことになっている(本当はシエルはこの役目をやりたがったが、グランディールに必要なのは猫飼じゃなくデザイナーなの!)。フレディのスキルであれば一気では四十匹程度なら楽勝で行ける、らしい。しかし本当に四十匹も買うのか。お金は何とかなるんだろうか。
「そろそろフェーレースっす」
移動管理担当リューの言葉に、即座に手を伸ばすぼくたち三人、駆けだそうとしたシエル。
三人いっせーのせでやっとのことで止められた。
「行きたい! 行くんだ! フェーレース!」
「飛び降りる気か!」
「大丈夫下には猫様クッションがあって飛び降りたオレを優しく暖かく受け止めてくれる」
「今からでも回れ右していいんだよ?」
リューがもう堪える様子もなく全力で笑っている。まあ笑うわな。猫に会いたいがために空飛ぶ町から飛び降りようとする人間なんてこのシエル以外にはいないだろうし。
グランディールが完全静止して、ペテスタイが消えているのを確認し、ぼく、アパル、サージュ、欲しい主のシエル、そして旦那のティーアに子供を預けて初仕事の飼育担当フレディ、そしてファーレが衣装を整えて(ぼくは髪と眼の色を変えて)準備する。
まずはぼくたちが行って、フェーレース町長と挨拶、その後町の湯処を全改装して様々な種類の湯処を作ったという(「猫の湯」を作る事情を説明するのに全湯処改装のことは言わなきゃだから)グランディールに行ってみたいというフェーレース町長とお話をして、その後アパルとファーレはぼくらと別れてフェーレース町長と同行、湯めぐり。ぼくらはフェーレース一番の猫取り扱い担当に会って猫と引き合わせてもらうことになっている。
下降門をぼくの意思でフェーレースの門前に設定し、降りる、
パッと景色が切り替わって、大きな門の前。
柔らかい笑顔の女性が手を広げていた。
「ようこそ、フェーレース、猫の町へ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます