第385話・「陶土の住宅」
シエルの納得が行った所で、早速湯づくりに向かうことに。
グランディールにある丘の中では一番高いのが「陶土の崖」。次が「放牧場」。ただし放牧場は結構あちこちにあるので、平らな町という印象はない。
とにかく、陶土の崖は掘られ続けているのに端から再生しているからグランディールで一番高く険しい崖という評価は変わらない。
ついでに言うと、世界的にも物凄く貴重な崖で、掘りやすい崖でもある。
陶器に使う土、「白土」「黒土」「赤土」「鍋土」が全部出て、しかもそれぞれ最上級品。更に、雨が降らないから崖崩れの危険はないし、地盤沈下とかそう言うのもない。
だから掘師は楽をしている、という人間もいることはいるけれど、彼らの仕事が力仕事でグランディールになくてはならないものであって一番体力と気力を使い、そして他から見て危険が多くて報酬が少ない仕事、というのも確か。
薬湯で報いられるなら、いくらでも作ってあげたい。
子供が多いのでウサ湯では待ってもらっていたけれど、やっぱり一緒に行きたいとわさわさしてたエキャルを頭に乗っけして陶土の崖の見える東に向けて歩いていく。
昼前に陶土の崖近くまで歩いていくと、向こうから歓声が聞こえた。
「? 何かあったの?」
「あったんじゃないか? というかあるんじゃないか? これから」
「これから?」
「掘師連盟の念願が」
「???」
首を傾げながら歩いていくと、歓声と拍手がさらに大きくなった。
「陶土の住宅」が見えてくる辺りで、人垣が出来ているのが見える。
みんな半泣きで拍手。その中から出て来たのが、今朝陳情書を出しに来ていた連盟長だった。
「クレー町長!」
連盟長が出てきて、がっしと大きくごつい手でぼくの手を握った。
「陳情を聞いてくれたのですね! ありがとうございます! ありがとうございます……!」
「ひょっとしてこれ、ぼくらの歓迎?」
「はい!」
半泣きの連盟長。
「遠くから伝令鳥の緋色が見えたので……」
エキャルの乗っけは目立つ。よくその姿で町を歩いているからかな。
「薬湯を作りに来たよ」
うお……歓声の圧が……すごい。
人垣に流されて、「陶土の住宅」に作られた湯処に辿り着いた。
これはぼくが最初に創ったノーマルタイプの湯処である。
これを変更する。
「えー、とりあえず」
ぼくは図面を広げた。
ざわ……と空気が震える。
「とりあえず、三種三パターンプラス普通の湯で作る」
「陶土の住宅」の住人は図面を読むどころか識字率も怪しいと言うので、ぼくが図面を指しながら説明する。
「湯は男女で分かれて、で、十種類ある」
「十種、とは?」
「まずここは普通の湯。ここから三方向に部屋があって、右が怪我、左が病、正面は疲れ」
とん、とん、とんと指差すと、どよめきが大きくなる。
「まず、右のこれは傷を治す湯、これは骨を丈夫にする湯、これが傷口から毒を抜く湯。左のこれは身体を暖める湯と、病の毒を消す湯と、心を落ち着ける湯。正面のこれが、筋肉の疲れ、体の熱りを取る、で、最後の内臓を落ち着ける湯」
「?」
きょとんとしたみんなに、ぼくはシエルの創った湯説明イラストを見せながら説明した。
「これが傷を治すの絵。これが骨の絵。これが毒抜き」
「ああ、これならわかる」
「本当にこれを作ってくださるのですか?」
「そのつもりだけど、何か欲しいものがある?」
「あ、じゃ、じゃあ」
一人が手を挙げた。
「揉み処を!」
筋骨隆々ではあるけれど、他のみんなと比べて筋肉のつき方が違う人。
「揉み師さん?」
「はい、近くで働いている揉み師です!」
熱気あふれる目でこっちを見る。
「店を開いてはいますが、湯に入ってから揉むのが一番効くのに、私の店は湯処から遠すぎて来る人が少ないんです!」
あー。
「近くに店を出せればとも思うのですが、堀師ではない私が湯に近い場所に店だの家だのを作れず……! 通いでいいです、毎日通います、揉み処を!」
「シエル?」
「おう。湯の一番奥に揉み処設定して、揉んでほしい人は鐘を鳴らす様にしとく。その奥に待機所作っておけば、仮眠もとれるだろ」
「町長!」
感激したように声をあげる揉み師さん。
「町からお金出すから、揉むのにはお金取らないようにして」
「いいんですか?」
「揉み処は疲労回復に必要だろ?」
「ありがとうございます!」
揉み師さんと掘師さんが一斉に頭を下げる。
「じゃあ、こんな感じで創ってみるから、みんなはいい湯が出来るよう祈って」
「はっはい!」
全員が目を閉じて祈り始める。
シエルはその思いを集めてどんな形にするかを決める。
ぼくはそれを形にする。
ぱぁんっ!
「ひゃっ」
「うわっ」
あちこちから小さい悲鳴。
が、それがすぐ歓声に変わった。
「うわあ!」
「すごい!」
「これが……俺たちの湯!」
「ふーっ」
ぼくは大きく息を吐く。
ウサの湯よりも力使ったかも。
ウサの設定は簡単だったけど、今回は薬湯って専門分野に踏み込んでたからなー。サージュとかだったらどんな効能にするか詳しく設定できたんだろうけど。
「こんな感じ、かな」
目を開けると、「陶土の住宅」に溶け込むような頑健な作りの湯処が出来ていた。
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