第384話・くすりの湯
「猫の湯」は、何とかシエルの言うような猫をフェーレースから買えるだけのお金と余裕ができるまでは、とねじ伏せて。
とすると、次はどうする? という話なんである。
「目玉の大湯処は最後にするの?」
「そうだな、そのほうがいいな……いい加減諦めろシエル!」
猫、猫と呟いているシエルの頭をサージュが小突く。
「
ぼくが受け取ったばかりの陳情書をひらひらさせる。
「あ、それだ。そう言うのが必要なんだ」
最初ウサにしたのはそこが一番具体案が出来ていたから。ウサの湯が出来てから一日経ってないのに、町のあちこちから具体案や陳情書や依頼書が届きまくっているのだ。
薬湯。うん、出来るだけ早く作りたいのはそう言うところ。
世の中には地面の熱い所……地熱で温められ、薬のような効能を持った「温泉」というものがあって、温泉の湧く町は「怪我を癒す町」「病を治す町」「疲れを取る町」などと言われて各地からたくさんの
でも、薬をお湯に浸して、同じ効用を出す薬湯があれば、怪我も病も疲れも取ってくれる。
ちなみに「掘師連盟」とは、陶土の崖から陶土を掘り出す職人さんたちの
でも医者や癒しのスキルの主はそんなに多くないというこの町で、湯にゆっくり浸かって疲れを取り、怪我も治す薬湯を一番欲しがっている人たちでもある。
ちなみに、他の町にもSランク以上であれば薬湯はあるけれど、普通の人は入れない。なんせ入れる薬が高いので入湯料も高いのだ。一般人にはちと入るのに敷居が高い。それが怪我を治すとかっていう特殊成分になるともっと高くなる。しかも肉体労働の方々って言うのは、大体給金が安い。疲れを取るのは寝る時だけ、怪我をしたらもうアウトみたいな厳しい環境に置かれている。
ファヤンスや各地から、もしかしたらここならと希望を持ってグランディールに来て、無料でいつでも入れる湯に入って疲れは取れるものの、怪我は治らないので、グランディールの中では寂しかったらしい。
そんな中出た湯の改装希望。
サージュとアパルが帰ってくるちょっと前に筋肉ムッキムキの方々が陳情書持ってきたんで僕が受け取ったけど、全員揃って頭を深々下げて「どうか我々の仕事が重要と仰って下さるならみすぼらしくてもいいから薬湯を!」と直接要請されてしまった。
うん、そういう人たちこそが報われないとね。
「薬湯ってどんな成分があるんだ?」
「怪我を治す薬湯に入れるのは、ハトムギやカモミール。病や疲れは
「どれも当たり前にあるんじゃないか?」
薬湯の薬は高いって言うけど、今サージュが挙げた薬、ぼくでも知っているヤツばっかり。
「当たり前にあるけれど、ちゃんと温泉にも負けない効能出すにはちゃんと専用の薬師が調合しないとダメらしい」
「ダメかー」
「ダメじゃない、町長」
苦笑してアパル。
「町に必要なものなら何でも出て来るスキルが、町に住む人間の中でも一番大変な彼らの為に反応しないわけがない。多分、出来る。丸一日いつ何時でも入れて疲れも怪我も取れる
「猫~」
「とりあえずその言葉を一度言うたびに一日遠ざかるとそう思え」
「……はい」
サージュがシエルを静めて、そしてこっちを見る。
「怪我の治る湯、病の治る湯、疲れを取る湯の三種、それを二・三個ずつ望めばいいんじゃないか?」
「どうやって」
「この湯は切り傷治れとか、この湯は火傷治れとか」
「ちょっと待ってね」
陳情書陳情書。
「えーと、傷の癒える、あるいは治りが早くなる湯、筋肉の疲れを取る湯、体の
「投げっぱなしだなあ」
「それをいいデザインに落とし込むのがいいデザイナー」
ぼくの言葉に二人の目線が、呆れたように呟いていたシエルに向く。
「って言われてもなあ」
「猫の湯を作るためなら何でもデザインしますって言ったのは何処の誰だ」
「ここのオレですやりたいですやらせてくださいやりますマジで」
シエルは分かりやすく
「じゃあ、どんな湯を作るんだ?」
「えーと、怪我の湯なら……傷の治りが早くなる湯、骨を丈夫にする湯、あとは傷口から毒を抜く湯、かな?」
「うんうん、そうだそうだ」
シエルカリカリ。
「疲れの湯なら、筋肉の疲れを取る湯でしょ、あと体の熱りを取る湯もここかな。それで、内臓が落ち着く湯も」
「あ~、緊張して腹壊したりするヤツいるもんな」
緊張とは無縁のシエルがカリカリしながら呟く。
「病の治る湯は、身体を暖めて病を取る湯と、病の毒を浄化する湯と、心を落ち着ける湯?」
「なんで心を落ち着けるのがいるの」
「病は気からって言うじゃない」
「ああなるほど。じゃあそれだ」
シエルがしばらくカリカリして、顔を上げた。
「こんな感じ、どうだ?」
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