第382話・ウサ湯完成です

 ウサ車は湯処を見終わってから作ろう、と言うことになって、次に大人湯へ。ご婦人方は女湯へ行くけど、さすがに男性陣でついて行くのはいない。男湯へ。


 引き戸のドアを開ける。


「へぇ~」


「ほお」


「はあ」


 広々とした空間に、子供湯とは違う、リアルなウサギの彫刻の持つ筒や管から、浴槽や洗い場に水やお湯が流れている。


「子供湯のウサ具合を見てどうかと思ったけど、これはこれでいいな」


「ウサ湯だしな、大人湯にウサが一匹もいないとウサ湯って言えないだろ」


「これなら大丈夫だ、気恥ずかしい思いはしねえ」


「酔っぱらって入ってへし折っちまわないか心配だけど」


「酔って風呂入るってまずいんじゃない?」


「まずいよ」


 聞いたぼくにシエルが答える。


「オレ、三徹明けで風呂入って寝てそのまま沈んだことある」


「死ぬよ?!」


「うん、シートスが様子見に来て引き上げてくれて助かった。その後、滅茶苦茶説教食らったけど」


「うん。それはシエルが悪い」


「……いや、オレのことはさておいて」


「さておけないでしょ死にかけて」


「陶器職人って言うのは結構疲れて酒飲んで風呂入るってパターンが多いんだわ。で、酔って風呂入るとそのまま沈んでったり寝て水分取れなくて脱水症状起こしたりしてってパターンも多いんだな」


「さすが経験者」


「だから、シートスがいれば」


「シートス湯に常駐させとく気?」


 いくら男所帯になれているシートスとは言え、男湯に常駐ってまずいんじゃなかろうか。


「いや、シートスじゃなくて、代わりにウサ」


「ウサ?」


「じゃあオレがやってみよう」


 バッとその場で服を脱ぐシエル。


「待って待って、せめて脱衣所で脱いで!」


「女いないしいいじゃないか」


 バッバッと脱いで、お湯に入る。


 座って、そのまま沈みこんでいく。


 その時。


 奥から大きめのウサギの彫刻が二体跳ねてきて、シエルの両脇を抱えて引き上げた。そのままお湯から引き出して、引きずって、脱衣所の横になるところまで連れて行くと、冷たいおしぼりを持ってきてシエルの顔に当てた。


「と、こんな感じで。ヤバいと感じたら近くの医者まで連れていく」


「すごいなシエル」


 おー、と拍手が起きる。


「これなら風呂場で寝落ちしてカミさんに怒られることねえな」


「酔っぱらってひとっプロ浴びたくてもダメって言われることもないか?」


「いや、酔っぱらったら基本入るのNGだからね?」


 注意注意。


「これはあくまで安全装置だからね? これを当てにして入ってなんかあっても、町じゃ責任取れないからね?」


「ちぇっ」


「酒飲んでひとっプロはダメってことか」


「基本それでお願いします」


 ウサぐるみに連れられて帰る子供がマナーなってないって思われるのと同様に、二羽のウサギに運ばれて家に帰るのはだらしない酔っ払いだって噂流すからね?


「こんな感じで大丈夫か?」


 冷たいおしぼりをウサギに返して濡れた体を拭って服を着るシエル。


 服を着終わったところで女性陣がやってきた。


「すごいわ女湯!」


「あんな気持ちのいい空間初めて!」


「これまでの湯処で満足してたけど、あれを見ちゃったら入れなくなるわよねえ」


「どれどれ」


 行こうとした男性陣全員が奥さんや女性陣の説教を受けた。


「町長、他の場所にも違う湯処作るんでしょ?」


「うん。ここはテストケース。ここで上手く行ったらあちこちどんどん変えて行く予定」


「楽しみねえ!」


「休みの日にあちこちの湯を巡るってこともできるんだ」


「なんだか楽しみ!」


 その笑顔を見ると作ってよかったって思える。


 これこそ町長の醍醐味。町長の喜び。


 ミアストはこれが分かってなかったんだなあ。


 みんなの喜ぶ顔。それが一番の報酬だってのにね。



     ◇     ◇     ◇



 ウサ車を作ってセネクスに引き渡してから、ぼくたちは会議堂へ戻る。


「どうだった?」


「前代未聞の湯処が出来た」


 聞くアパルに答えるぼく。他になんて言えばいいんだ。


「前代未聞?」


「とりあえずあの湯処周辺でウサギに運ばれてるのはあんまりよくない子供とだらしない酔っ払い」


「何だそれ」


「名前はウサ湯」


「何だそれ」


 何だそれって言われてもねえ、そうとしか言いようがないから。


「とりあえずそこの湯処は「ウサ湯」って名前で登録しといて」


「何故にウサ湯」


「行ったら分かる。ウサ湯としか言いようがない」


 町の立体地図のその場所に「ウサ湯」と登録して、アパルが首を傾げる。


「ウサギの湯、じゃダメなのか?」


「いや、ウサ湯だわ、あれは」


「デザインしたオレも言う。あれはウサ湯だ」


 うん、親しみやすさから考えて、ウサ湯だなあれは。


「ついでにウサ車も作ったから」


「ウサ車?」


「ウサ湯の周り、親が忙しくて子供一人で湯に行かせるってデータ、あったろ?」


「ああ、それで子供湯と大人湯を作ることにしたんだったな」


「一人で湯に行く子供たちに、グランディールの中とは言え子供だけは怖いって話になったから、ウサギの形した車作って、セネクスって元陶器職人が送迎するって言ってくれたんだ」


「ああ、それは安全でいいな」


「ウサ湯はウサギらしさと安全に配慮して作られています」


「……明日あたり見に行っていいか」


「ご自由に」

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