第379話・子供の情報網
「子供から聞き出す?」
エキャルのような感じで首を傾げた元ファヤンスの大手陶器商会、現グランディール陶器専門紹介フェアムーゲン商会の長、アイゲン・フェアムーゲン。商売は情報が必要とよく言うけれど、大人相手の商売なので、子供から情報を集めるというのは今一つピンとこないらしい。
「子供は意外と色々なことを聞いて覚えて、そして広めてくれるんだよ」
僕がニヤッと笑う。
「たとえば?」
「どこそこの職人が良くサボっているのを見るとか、そこここの店で見知らぬ相手にぼったくる商人がいるとか」
「!」
アイゲンが珍しい程、
「何故、子供がそんなことを」
「アイゲンと同じ。相手が子供を舐めてるからさ」
町の偉い人でも、この情報網を知らない人が多い。
ぼくも湯処へ行った時偶然……を装って町の偉い人とお話しするぞちびっこ団と話すようになってから知った。
結構子供ってのは色んなものを見て聞いて覚えている。両親の喧嘩とか良く吠える犬とかの話に混ざって、人間関係の変化とか商売の方針転換とかそう言うものを見ているのだ。ただ大人が「子供の話だから」と本気に取らないだけで。真剣に聞けばどれだけ重要な情報か分かってくる。
ちゃんと聞けば、子供の中でも秘密とされている奥の事情に通じるような話もしてくれるのだ。で、情報の裏を取れば、あ、これ確定、ってことも多い。
しかも場所は湯処。相手が町長だろうが何だろうが湯処の中じゃ裸一貫の湯浴み者の一人でしかないのだ。で、いつもいるのとは別世界という雰囲気で、子供の口は更に軽くなる。
「町長は、そこまで読んで湯処を創った……?」
「いいやそれはさすがに偶然」
「では、どうやって」
「湯処で一緒になった子に町のどんなところが好き? って聞いただけ」
ついでに風呂上りにちょっと高い飲み物をおごったりすると、サボり職人やぼったくり商人とか子供嫌いなおっさんとか、そう言う情報を対象者に気付かれず集めることが出来るのだ。
「なるほど……」
アイゲン、唸ってる。お茶で唇を
「町長は情報収集にも長けていると思っていましたが……そのようなところに情報網があったとは」
「町中の情報網の中でも、結構使えるものを持ってきてくれるよ。予算もそんなかからないし」
ちょっと高価な飲み物とか甘い物とかがあれば、口は軽くなるし情報も増える。
実はぼく、アイゲンの情報網も知っている。陶器職人の弟子とか商会の下っ端とかに紛れ込ませてる。
で、子供がそれを敏感に見てるんだよなあ。
「そうそう、ピェツの所に弟子入りさせてあるアイゲンの
アイゲンが口に含んでいたお茶を吹きだした。
「そ、そ、それは」
「うん、ちびっこ情報網ね。何か仕事サボってしょっちゅう物陰で何か書いている弟子がいるって入って、ちょっと裏取ったら出て来た」
「……面目ない」
アイゲン、淹れたての茶を一気飲みした時のように渋い顔。
早耳草とは、町に入り込んで情報を集める人間、草の一種と思われているけど厳密には違う。早耳草は、町の偉い人間が町民の情報を集めるために自分の町の中に人を派遣する情報収集の手段の一つだ。やってることは草と同じだけど、自分の町を調べるのに使うから早耳の草なのだ。
「早耳草ですら見抜くとは……子供の情報収集、侮れませんな」
「ああ、子供を使って情報収集するつもりなら、気を付けなきゃいけないことがあるよ」
「はい?」
「まず、子供を子供と見ないこと。対等の相手と見ないと、子供だから侮っているって子供は敏感に気付くからね」
「……ふむ」
「それと、情報を集めようと思って行ってもダメ。子供は情報屋じゃないんだから、注文を受けて特定の情報を集めてるわけじゃないんだよ」
「ああ、なるほど」
「あとは、よっぽどのことじゃない限り情報を集めている自分が行った方がいい」
「何故ですか? 町長や私が情報を集めてると知られたら……」
「だから、情報を集めようって目的で子供に接したらダメなんだよ」
首を捻ってしまったアイゲン。
「ぼくは、話を楽しむために湯処に行ってると思っている。相手が大人だろうと子供だろうと、話してくれる人とは誰とでも話してる」
「そうですか……つまり、話の流れでこんな情報を聞いたけど実際はどうだろう、と裏を取ってみる、ですか」
「そゆこと」
アイゲンは感心して何かメモっている。
周りのいい齢した大人たちが、子供の情報網で感心している。
情報網で言えば、アナイナなんかすごかったもんなあ。エアヴァクセンの同年代の子供、みーんな
子供ってのは、意外と侮れないんですよ。忘れた? かつて子供だった皆様方。
ぼくも、湯処で子供と喋っていてやっと思い出したんだけどね。
子供だった頃出来たことをすっかり忘れていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます