第376話・憩いの場
「そういやそろそろスヴァーラさんがくるな」
「一旦フォーゲルへ向かうんだっけ?」
「うん。そこで乗用鳥を借りてここまで飛んでくるって」
グランディールは基本住所不定な町。フォーゲルやスピティ、ヴァラカイと言った親しい町にはその時々の位置情報を知らせて、取り引きをしたり荷の引き渡しをしたりしている。
大事であればグランディールごと大移動するけれど、一人の為に大移動は良くないんじゃないか、という話になって、スヴァーラさんと親しみのあるフォーゲルが窓口になってグランディールまで送ってくれることになった。
スヴァーラさんは愛鳥オルニスを大事にしている。鳥の町フォーゲルが見本にして欲しいというくらい。アッキピテル町長が喜んで引き受けてくれた。
鳥について楽しく話したいなあ。エキャルも楽しみにしてるし。
青いインコのオルニス君は歌うように
鳥の囀りを楽しめない程度の町では町民は楽しく暮らせませんよ。
なんて言ってみたりしても、グランディールにも町民が楽しめる施設は少ない。各地にある湯処くらいか?
ん~。フォーゲルでは「愛鳥園」と言って様々な鳥と触れ合える場所がある。伝令鳥や宣伝鳥も相手の御機嫌が良ければ撫でさせてもらえるという各地の鳥好きさんが一生に一度は訪れたいと願う場所だ。
スピティには「理想の部屋」。町で扱っている家具を、町民の希望で入れ替え入れ替えして町民全員の理想の部屋を作って、抽選で当たった人たちに一泊してもらって感想を聞く、というイベントがある。
ヴァラカイはヴァラカイ町民なら楽しむんだろうな、今のぼくは楽しめないな施設として、創世神話をステンドグラスで表した神殿外廊がある。「くに」の時代から伝えられた神話を正確に作り上げた絵として大陸的にも有名だけど、本当の神話を知ってしまったぼくには既に楽しめないな。でもグランディールでも興味を持っている人はいるんで、そのうち見せてもらいたいなあ。
そう言う施設がないのは痛いよなあ。
現実逃避じゃないけど、町の人たちに住んでもらえるためにはそういう施設いるよなあ。
グランディールに作るとしたら、う~ん。
う~ん。
…………。
ダメだ、思いつかない。
水路天井は大陸中に回って、必要な町は全部取り入れているらしいからダメ。
神殿は?
いや……西の民がキレるな。神殿は祈りの場所であって楽しむ場所じゃないって言うよなあ。
これ以上騒動は起こしたくないし。
そもそも、「新しき町」「祝福されし町」という二つ名に、ヒントはない。「鳥の町」だから鳥を、「家具の町」だから家具を、そして「西を守る町」だから聖地に関するものを。とやってるんで、グランディールは……うん、新しいだけじゃ何も考えられないし、祝福ったって明るい厄介者の陰謀で聖職者が選ばれたっ言っても言い過ぎじゃないのに。
今のところ、町の売りは家具と陶器。この二つで何かやるとしても、既にスピティとファヤンスがそれを売りにしてる(ファヤンスはもう潰れたけどさ)から、二番煎じになりかねない。
空とぶこと。ダメだこれもペテスタイの二番煎じだ。ライテル町長は笑って許してくれるだろうけど、グランディールのみんなはあんまりいい顔しないだろうなあ。それにペテスタイが聖地に行って帰ってきたことを知られたら、絶対出る。「聖地に連れてけ」って言うヤツ。そう言うヤツを出さない為にもペテスタイの秘密は守らなきゃだしなあ。
いっそのこと「神の奇跡ある町」とでもしてやろうか。ラガッツォあたりが「奇跡をー」って言ったらぼくが光をバッとやるとか。……いや、精霊神の奇跡は奇跡だけどこれって自作自演だよな。バレなくてもぼくが嫌な気になる。やめよう。
シエルとか辺りに相談してみようかなあ。
……はい分かってます。絶賛現実逃避中です。
明るいのと暗い厄介者がぼくを右と左で引っ張ってるんだから、ちょっと逃げさせて。ぼくは町の為にも自分の為にも楽しく優しい話題が欲しいんです。しばらく現実から目を逸らさせてください。
はああ。
テーブルに肘をつき、その手で頭を支えて考え込む。
気配を感じて顔をあげると、エキャルが机の上に乗ってぼくの顔を覗き込んでいた。
「なあエキャル」
ん? とエキャルが右に首を傾げる。
「町の売りって何だと思う?」
エキャルが左に首を傾げる。
「ん~……エキャルに毛繕いしてもらえるけ……いやなんでもありません」
エキャルが露骨に嫌な顔をしたので慌ててひっこめた。エキャルや宣伝鳥は気に入った相手しか毛繕いしない。相性が悪いとアナイナ相手のように喧嘩を始めたりする。エキャルは割と好きにさせているけど、真面目な宣伝鳥でも嫌いな人には
観光や憩いの場にするには無理がある。
「何かいいの、ないかなあ……」
シエルに聞いてみるか、と思いながら、テーブルの上でちょっと威嚇のしたんしたんを始めたエキャルを宥めた。
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