第368話・愚痴
「全部言ってないって、何で」
「ぼくがキレたから」
うん、とティーアが頷く。
「まあキレるな。そんなこと言われたら」
「で、一度キレたぼくに攻撃されて、死ぬほど痛い目に遭ったから」
強い敵意に傷付けられると痛みを感じると精霊神は言った。だから。
「ヤバいと思って逃げたんだな」
「そ」
攻撃開始秒読み状態だったしね。
「……確かに、お前が話すのを
腕組みをして、ティーアは唸った。
「話が大きすぎて、正直ついていけない」
「あと、それ以外に方法はない的なことも言われた」
「それは絶望もするな……」
ティーアは肩を竦めてから、ぼくを見た。
「もしかして、連中、方法を考えてない……ていうか思いつかないだけじゃないのか?」
「うん、それはぼくも思った。冷水とお湯が混ざるように水と油が混ざるなんて思い込んでたくらいだし。精霊神は神を名乗ってるけど頭は良くないと思う」
「おい、そんなのに大陸と生命を創らすな創造神」
「ティーアに同感。て言うかもうちょっと頭のいい神を創ってくれればもうちょっと何とかなったかもなのに」
ぼくの言葉にティーアも溜息をつく。
「創造神というのも完璧な存在ではないんだな」
「もしかしたら別の大陸を創った神の中にはいい神様がいるのかもしれないけど」
「要するに俺たちが創造主くじのハズレを引いたってことか?」
「多分ね。ぼくの九割だから悪口ブーメランしてくるの覚悟で言うけど、正直光も闇も精霊神はかーなーりー自分本位で自分勝手だよ」
はー、と息を吐いて、ティーアは髪をかき回した。
「そう言うのに食事のたびに感謝しろと子供に言ってきたんだな、俺は……」
「分かっちゃうと敬意とかそう言うの全部吹っ飛ぶね」
ぼくも息を吐いて、むっくりとベッドから半身を起こす。即座にぼくの膝に乗ってくるエキャル。
「正直言うと、逃がさないでぶん殴ればよかったと思ってるよ」
エキャルをもしゃくしゃしながらぼくは後悔した。
「で、ついでに説教してやればよかったとも思ってるよ」
「説教が効く相手か?」
「効かないと分かっていても言いたいときはある」
ぐっと拳を握る。
「その拳はなんだ」
「いや、効かなかったら殴ってやろうと思ってた」
「ああ、直接攻撃の方が効くだろうな」
ここまで精霊神を憎んでる人間なんか他にいないだろうしな、とティーアが呟く。
「光や闇かどっちかの精霊神を憎んでる人間はいるだろうけど、二柱いることを知っている上で両方憎んでる人間は本当にごくごくわずかだろ」
オヴォツの民は闇の精霊神を自分たちに罰を与えた唯一神と思っているけど、二柱の精霊神がやらかした結果と聞いたら、腹を立てるんじゃないだろうか。
「で?」
ティーアが投げてきた視線の意味を悟って、ぼくは肩を竦める。
「迷ってる」
ぼくは正直に言った。
「完全拒否じゃなくて、迷っているのか?」
「うん」
エキャルをむぎゅッとして、ぼくは言葉を続ける。
「精霊神が最初からぼくの意識を弄っておいてくれれば何にも悩まなくてよかったのに、とも思った」
「まあな……」
いっそ「選択肢はない、やれ」と言われた方が楽だった。
そうすれば、何も考えず投げ出せたのに、と。
グイ、と引っ張られて、ぼくの身体が
ぐしゃぐしゃ、と髪の毛を撫でられる感触。
「そう言うことを、一人で抱え込もうとしていたのか?」
「相談できる相手、いないだろ?」
ティーアに話したのだって、かなり「俺では何にも役に立てない」と言われる覚悟したんだからな。
「確かにな。だけど吐き出しもせずに溜め込んでみろ。いつか爆発するぞ」
「爆発したほうが精霊神に嫌がらせになれたかな、と」
「毒親みたいなヤツ相手にやったって嫌がらせとは思われないからやめとけ」
いっそ本気で殴ったほうがスッキリするぞ、と言われその通りだと思い直す。
ぼく一人で爆発しても、精霊神がぼくの考えとかに思い至らない可能性を考えれば、直で殴ったほうが精霊神は思い知るしぼくはスッキリする。
「分かった。今度会ったら全力でぶん殴る。今度は涙と鼻水と涎だけじゃ済まさない」
「ああ、そうしてくれ。その方が聞いていてもスッキリする」
よし。精霊神。今度ぼくの前にのこのこ現れたら、問答無用でぶん殴る。覚悟しとけ!
◇ ◇ ◇
それから一週間。
スピーア君の石化が解けた。
「ごめんなさい! すみません! 本当に申し訳ありませんでした!」
広場の中央で笑いものの石像にされていたスピーア君は、石化が解けるなり作業室の会議室に駆け込んで来てスライディング土下座した。
「ああ。戻ったのか」
書類のサインで手がくたびれていたぼくは、疲れを
「僕が! 僕が全部悪いんです! 聖女をたぶらかしてスピティに戻れば、僕の立場が良くなって次期町長も夢じゃないって! そう、思って……!」
「反省したんだね?」
「はい! もう追放するなり処分するなりしてください! 僕、僕が全部悪い……!」
「はい待って」
ぼくは片手でスピーア君を止めた。
「君が十分に反省したのは分かってる。君への呪いは君が反省した時に解けるものだったからね。だから、それ以上言う必要はない。だけど」
書類をバサリとテーブルに投げ出して、ぼくはやっとそこでスピーア君を見た。
「二度はないよ」
「は……はい!」
スピーア君は顔面涙でコーティングされた状態で頷いた。
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