第367話・話を聞いてくれる人

「で? 何を言われたんだ?」


 聞かれて、でもぼくは話す気はない。


 だって、大陸史が変わるほどの話だよ?


 あんにゃろがぼくに死ね以上のことを言ったんだよ?


 話すにはどう考えても重すぎる。


 ティーアを信頼してないわけじゃない。彼は全部を打ち明けてもきっと誰にも何も言わない。自分の内に収めておいてくれると思う。


 でも、これ以上心配をかけたくない。


 ティーアにはぼくの入れ替わり事件で散々心配及び迷惑かけた。これ以上心配かけたくない。


「これ以上心配かけたくない、とか思ってるだろう?」


 びくぅっ!


 勘付かれた! 心の中でひっそりと思うだけにしといたのに!


「そんな気配りをされてもこっちが困る」


 何で気付かれた?


「あんな不安そうな顔をしておいて大丈夫なわけないだろ」


 また気付かれた!


「お前、自分が思っているより子供なんだよ」


「そりゃあまだ十六だから……」


「いや、お前、自分を律することが出来ると思ってるだろ? だけど俺から言わせればまだまだ出来てない」


 小さく首を振って、ティーアは言った。


「お前は上手く町長出来てると思ってるだろうけど、それがお前の言う「町長の仮面」……言ってみれば町長用の別人格のおかげであって、お前自身は成人して一年目の、海千山千の相手には腹芸も通じないまだまだひよっこに過ぎないんだ」


 うう……否定できない。


 「町長の仮面」を使わないと決めてから、上手く行かないことが多い。スピティにもスピーア君の件で上手く丸め込まれた感が拭えない。


「そんなひよっこが一人で上手く行くと思うなよ? 誰の力も借りないで出来るのが大人じゃない、何でも言える相手を見つけて初めて一人前の大人なんだ」


 何だか誰にも言わないで心の中に秘めておこうと思ったことを悟られて責められている感じ。


「その中には、当然愚痴や悩みをこぼしていいヤツって言うのも含まれている。ちゃんと聞いてくれて外に漏らさない人間って言うのも入ってるんだ」


「…………」


 ティーアが悩んでいるぼくを心配してくれているのは分かっている。「外に漏らさない人間」が自分だとも言わず、ただそう言う人間を見つけなさい、と言っている。そう言う人間が今のお前には必要なのだと。


「……いないんならエキャルに喋っておけ。エキャルはお前を大事にしてるし、人の言葉は分かるけど他に喋らないから」


「……うー……」


 エキャルを顔に当てたまま唸るぼくに、ティーアはぽんと肩を叩いてきた。


「大丈夫だ、誰も信じられる者がいないって疑ってるんじゃないよ。のおかげでお前の知ってしまった何かを他の誰かに被せたくないんだろう? それはお前の優しさだ。ただ、一人で飲み込むには大きすぎるものだったら、誰か……それこそエキャルにでも一緒に抱えてもらえ」


「…………」


「じゃあ、俺は行くから」


 ぼくは無意識の内に手を伸ばしていた。


 出て行こうとしたティーアの服を掴む。


「ん?」


「……うー……」


 エキャルに顔を当てたまま、何を言おうか考える。


「分かった分かった」


 ティーアの声が苦笑している。


「一人でいたくないんだな? 分かった分かった。付き合うよ。鳥たちもお前が落ち着かないと落ち着かないしな」


「……うー……」



 一度ティーアは出て行って、もう一度お茶を持って戻って来てくれた。


 ぼくはベッドに寝転がってエキャルを顔に当てたまま。


「……相当参ってるようだな」


「……そりゃ参る……」


 ぼくはぽつりぽつりと話し出した。


 ティーアだから察していると思うけど、ぼくが精霊神の一割から作られた人間であること。


 創造神が創ったという、この世界の成り立ち。


 精霊神だけじゃない、この海に浮かぶ大陸の神たちが高次の世界に行く権利を廻って争っていること。


 精霊神には光と闇があって、両方の力をぶつけ合うことによって大陸とそこにあるすべてを創り出したこと。


 そして、闇の精霊神が光の精霊神と意見を異にして争い、光が闇を追い出し、残った光は唯一神を名乗って、光と闇が混ざり合った人間を創ろうとして、今に至るまで失敗し続けていること。


 敗れた闇の精霊神が戻ってきて、ディーウェスを滅ぼした後、光絶やすこと容易たやすしと機会をうかがっていること。


 そして……。



「何だそりゃ」


 最後の話……光の精霊神ののことを聞いたティーアは、顔を赤くして憤慨ふんがいしてくれた。


「そんな話、聞くまでない。責任は精霊神……たちにあるんだろう。お前が光の精霊神の一割だったとしても、切り離して、自分とは違う者にしてしまったんだろう? なら、お前がそのとやらを聞き入れる必要もない。というか聞き入れたと聞いたら俺はまずお前の正気を疑う」


「ありがとう、ぼく正気」


 ベッドに寝転がったままで話しているぼくの頭の横でエキャルも憤慨して翼をバサバサさせる。


「で、様はそれだけ言い残して行ってしまったわけか」


「多分、言いたいこと全部言ったわけじゃないと思うけど」

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