第360話・逃げ込まれる危険
空を、飛ぶ?
ライテル町長の言葉が妙に引っ掛かった。
ペテスタイは空を飛べたから日没荒野を超えられた。
では、何故グランディールは飛べるのか?
確か、森の奥にグランディールを創っちゃって、不便だなという話になった時、アナイナが「飛べばいいじゃない」と言ったから。半信半疑で、それでも飛ぶことをスキルに願ってみたら。上下左右に浮遊移動することが可能になった。
ぼくのスキルは、町を創るということに関しては無限の可能性を持っている。
そのスキルを与えたのは、誰だ?
大陸に住む人なら「精霊神様のお恵み」というだろう。だけどぼくは知っている。聖地に伝わる伝承の方……スキルとは光の精霊神が精霊の加護を与えなかった人間へ闇の精霊神が与えた、精霊の代わりの贈物……が正しいのだと。
スキルの中には時々精霊神が悪意を持って与えたんじゃないかって思えるものもある。
スヴァーラさんから聞いたミアストのスキルは「誤認」。真実ではないものを真実と思い込ませるスキルを知らされた時、ミアストはどう思ったろう。町長に向いていないどころか犯罪にしか使えないようなスキル。これも、闇の精霊神が与えたものだとしたら? 人に純粋であれ無垢であれと言う光の精霊神が与えるものじゃあない。
かと思えば、聖職者という光の精霊神が直々に与えたであろうスキルもある。
でも、そのどれもが闇の精霊神が源になっている。
「スキル」は闇の精霊神の力。となると、人間からスキルを取り上げれば闇の精霊神は力を取り戻せるはず。
なのに今まで人間にちょっかいをかけていなかったのは?
五十年前ディーウェスに襲撃をかけた理由は?
分からないことばかりだ。
「悩ましいですな」
ライテル町長も天井を仰いだ。
「が、グランディールの町民に伝えないほうがいいというのは正しい判断だと思います」
ライテル町長は一礼して言った。
「我々ペテスタイの民はクレー町長が精霊神の分霊であることを知っております。ですからクレー町長の言葉は疑いません。そして、他の町との交流もありませんし、今なら何かあっても
一度頷いて、しばらく顔を伏せた後、ぼくを見た。
「ですがグランディールでは上手く行かないでしょう。クレー町長のことを知っているのはわずか。闇の精霊神のことを知るものはまずいない。聖女や大神官がいてもそんなことは伝えられない。光の精霊神と等しい力を持つ闇があると知れば、大混乱が起きるでしょう。そしてグランディールは他の町とも強い繋がりがありますからな。情報とは漏洩するもの。他の町にも知られ、大陸の危機となれば知った者がグランディールに逃げ込んでくることが確実」
「……広がるから」
「ええ。グランディールを創ったスキルを聞く限り、クレー町長がいる間はいくらでも広がるでしょうな」
「ぼくがいなくなったら」
「これまでと同じです」
ライテル町長は言った。
「グランディールは滅びるでしょう」
黙ってしまったぼくに、重ねるようにライテル町長は言った。
「クレー町長は町を永らえるために人を増やした、と仰っていましたな。それは正しい。ペテスタイも多くの人を集めて初代町長の穴を埋めた。ですが、グランディールに逃げ込んできた者すべてを受け入れて、グランディールを広げていけば、塞がなければならない穴がどんどん大きくなる。その為に人を増やせば、当然才能のある者はどんどん力を貸すでしょう。しかしクレー町長がお隠れになった後に問題は噴き出します」
「……分かってます」
誰がぼくの後継となるか。
町が大きくなれば大きくなるほど、町長の権力は強くなる。ミアストが町の力を自分の力と勘違いしたように。スピーア君のように野望を持つ者がつけ狙うように。
町を創ったぼくが消えた後……どんな形であれ、ぼくはいずれグランディールから消える。永遠にいる町長なんてないのだ……その座の奪い合いが始まる。自分の力が大きいから自分が町長になるべきだ、自分が前町長の信頼が厚かったから自分がなるべきだ、自分が……そう言い出す人間は大勢いるだろう。
町の穴を埋めることも忘れて権力争いが始まる。
そして争っている間に穴を埋める力を失った町は滅びる。
かつてディーウェスの研究家が書き表した本にあるように。
ライテル町長が息を吐き出した。
「……未来はいずれ考えなければなりませんが。とりあえず今の話に戻りましょう。闇の眷属や精霊神が動き出しているのは」
「大陸を手に入れる為ですね」
「あるいは大陸に生きる光が強いものを滅ぼすためやも。闇はディーウェスで全てを巻き込むように見せて自分の選んだ存在を傷付けないという力を示していますからな」
それも考えられる。大陸とそこに宿るすべては、光と闇のぶつかり合いによって生まれた、両方の要素を併せ持つ存在。両方を持っているから、光にも闇にも引っ張られる。光に引っ張られた人間や動物だけを滅ぼすことが出来るなら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます