第355話・ディーウェスに行った人

 我が妹ながら厄介な要素が揃った聖女だよなあ。


「……まあ今回のことについてはぼく甘い顔しないし、神殿としても当然の処分って顔しといて。そもそも反省すれば出られるのにまだ扉が出来ないってのはぼくのお説教も全然効いてなかったって証拠だし」


「アナイナがいないのは寂しいけど、仕方ないわね……」


「自分のやったことは自分で責任とらないとな」


「僕の力でアナイナを解放してくれって言われたらどうすればいい……ですか」


 マーリチクが難しい顔をしている。


「精霊神の力には敵わないって言えばいい」


 神殿を守る「守護者」は神殿の内部構造などを自在に変えられる。その力で出してくれって言われる可能性も大だけど、その力を与えたのは精霊神。精霊神の力には勝てない、と言えば納得するはず。まず疑問は抱かないだろう。


「精霊神の怒りが解けるまでは聖女と言えど無理。そう思ってもらわないと罰を与えた意味がない」



 話し合いが終わって、ぼくは神殿の入り口に進む。


 ラガッツォがついてきた。


「町長も辛いだろ」


「ん?」


「結局アナイナに甘い町長が、こんな罰を与えるなんて、相当悩んだんだろ」


「まあね……結局精霊神の真似だし」


「精霊神様の?」


「精霊神はアナイナは知らんと言ったんだ。ぼくの側の聖女になったからって」


「うわ」


 ラガッツォは額に手を当てた。


「じゃあ、スピーアの石化だけか。精霊神様がやったのは」


「そ。ぼくはそれ聞いて、……スピーア君よりちょっと甘くてそれでも内外に罪の重さを知らしめられて厳しいと思われるような今の神殿軟禁ついでに無視を思いついたんだ」


「軟禁より無視の方が辛そうだなアナイナの場合」


 腕を組むラガッツォ。


「お兄ちゃん子だからなー。大体アナイナの話はお兄ちゃん自慢のことが多い」


 ぼくも腕を組む。


「うん、ぼくも反省してる。ぼくが最終的にアナイナを選んじゃうからアナイナはぼくが最後には結局自分の味方になるって思っちゃってるもんな。それが悪かった。今回は本気で怒ってて許す気もないってこと思い知ってもらわないと」


「辛い所っすねお兄ちゃん」


「ぼくが甘い顔を見せないこともあるってことを思い知ってもらわないと、この先が不安だよ」


 聖女として町にいてもらわなければならないアナイナがフラフラ出て行くことをぼくが許可したなんて思われていたら大変なことになる。


 きっちり反省してもらわないと。



     ◇     ◇     ◇



 静かだ。


 スピーア君は今も広場の中央で晒しもの。


 アナイナは部屋に扉が出来る気配もない。


 三日経ったのに罰が解ける気配がない。


 ……うん、分かった! 未だに自分は悪くないって思ってやがるな二人とも!


 精霊神に石化と聞いた時残酷なって思ったの論外だったよ! 三日も石、三日も閉じ込められで反省の欠片もないってのは想像もしなかったよ! 辛い思いをしてどうして自分がこんな目に遭わされてるか思い返してすぐ反省すると思ってたよ! そんな考えの欠片もないんだな!


 羽毛袋に手を突っ込んでもしゃくしゃ。現在エキャルラットはおりません。どこかに遊びに行ってます。今はグランディールもペテスタイも何の問題もないから構いません。ただぼくの愛する生のもしゃくしゃがないだけで。


 と、コンコン、と窓が叩かれた。


 ん?


 窓を見ると、エキャルの姿。


 窓を開けてやるとバサバサと入ってきて、ふわりと止まり木に着地すると、首を反らした。


 手紙?


「お前どこから手紙貰って来たの?」


 エキャルは誇らしげに首を反らしている。


 ぼくは手を伸ばして、首にある封筒から手紙を取り出す。


 青い小鳥の印。


 青い、小鳥?


 慌てて差出人の名前を見る。


 『グランディール町長クレー・マークン様へ スヴァーラ・アンドリーニアより』


 スヴァーラさん!


 ミアストの配下として使われ、脅しに使われていた愛鳥オルニスを逃がしたことで暴行を受けた挙句、鳥を大切に扱わなかったから鳥を引き上げると鳥の町フォーゲルに脅されたミアストにその責任者として無理やり追い払われた……と言うかフォーゲルのアッキピテル町長とぼくたちグランディールが手を組んで、エアヴァクセンがスヴァーラさんをフォーゲルに連れてくるように誘導して、助けた女性と鳥。


 愛鳥と共に、これまで出来なかった、絆を繋ぐ旅を。


 富める強国、滅びし大国と呼ばれる、数ある町の中で唯一精霊神に「くに」とまで呼ばしめながらも滅んだディーウェスを見て、自分が何を成せるか知りたいと言っていた彼女からの手紙。


 何かあった?


 手紙を開く。


 『クレー町長お元気でしょうか。その説はお世話になりました。スヴァーラです』


 エキャルはスヴァーラさんの愛鳥オルニスと友達で、ぼくが許可を出して遊びに行ってもいいと言ってあるので、時々フラッといなくなって、満足そうに戻ってくる。


 だけど、スヴァーラさんから手紙が届いたのは初めてだ。


 行くのはエキャルの気が向いた時なので、エキャルが遊びに行った時いちいち手紙を出さなくていいですよ、と言って置いた。返事のないのが良い便り。


 なのに、今回は手紙が来た。


 吉報だろうか。凶報だろうか。


 エキャルがご機嫌なので、最悪なことはないとは思うけど。


 ぼくは手紙を読み始めた。

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