第353話・反省していない

 アナイナの方は……神殿内のアナイナの部屋にいるのを確認したので、ドアや窓を全部壁に変じて、物理的に出られないようにしたんだけど。


 それをラガッツォに夢で伝えもしたんだけど、ちゃんとなってるだろうか。


 神殿に向かう。


 西出身の民がひそひそと話し合っていた。


「どうしたの」


「どうしたもこうしたも……て町長」


「はい町長です。……どうしたの」


「聖女様が……ああ聖女様のお兄様でしたね……聖女様が」


 しばらく混乱したような顔をしていた町民が、一息に言った。


「罰を受けたのです!」


「罰」


「大神官様が仰るには、精霊神様が自由をお認めになったのをいいことに、あの愚かな連れ去り犯について町を出た。それが罰で、反省するまで部屋に閉じ込められ、誰も顔を見るどころか声すら聞けない状態になったと……」


「連れ去り犯の方はどうなったか聞いた?」


 困惑しながらいいえと首を横に振る町民に、町の広場で石になっていると伝えると。


「あの愚か者はそれで構わない!」


「我らの聖女様を連れ去ろうとして!」


「精霊神様は正しい罰をお与えになったのだ!」


 うん、精霊神って人間に容赦のない一面もあるからね。ぼくも基本人間だから、こういう時にビシッと罰を与えられるのはしかいない。ぼくはそれに便乗しただけ。


 う~ん、頼りたくなかったけど結果的に頼ることになったなあ。これで恩着せがましいことを言われなきゃいいんだけど。


「でも、聖女様は」


そそのかされただけなのに」


「唆されたからまずかったんだろうな」


 ぼくは難しい顔を作って頷いた。


「聖女が他の聖職者や町長に許可を得ず一人で町を出た。それが精霊神様のお怒りに触れたんだろうな」


「聖女様……おいたわしや」


「愚か者の像を壊してやりたい!」


「それはやめようね。壊すなら精霊神様がやったはずだろうから」


 さりげなく止めといた。


「う、うむ、精霊神様の罰に手を加えてはならんな」


「それは我々人間のやるべきことではない」


 頷き合う町民たち。西出身は信仰心が篤いので、精霊神の御意思って言えば大体話は通る。楽だけどに貸しを積み重ねているみたいで何か気に入らない。


 息を大きく吐き出して、気を取り直して神殿に向かう。


 跪いて泣いている人が何人か。聖女に下った罰に泣いているんだろう。


 いや、でも、閉じ込められる程度で済まないはずなのに、かなり甘い罰を受けたんだからね? スピーア君に比べれば随分と甘いんだからね?


 神殿の入り口では「守護者」のマーリチク・バーンが待っていた。


「町長! ……お待ちしていました」


 ここにいる聖職者三人はぼくの本性を知っている。ラガッツォは比較的フレンドリーだけど、マーリチクは何かぼくに畏れとでも言うものを抱いているらしい。ぼくにすっごく丁寧だ。


「ヴァチカとラガッツォは中?」


「はい。町長が来るまでは誰も通すなと言われています」


 マーリチクは神殿の大扉を閉めて、先に立って歩きだす。


「……アナイナを罰したのは精霊神じゃなくちょう……いや……」


「町長でいいよ。それ以外の呼ばれ方が身について人前で間違って呼ばれたらややこしいし」


「では、町長と……町長様」


「いや様いらないから」


 突っ込んでおいて、ぼくはマーリチクの後を追う。


 どんどん奥に、神殿の人間の居住エリアに向かう。


 と、行く手から二つの足音。


「町長!」


「町長」


 ラガッツォとヴァチカが早足でやってきた。


「やり過ぎですよ町長!」


 ヴァチカが叫んだ。


「あんなふうに、ドアも窓もない場所にアナイナを閉じ込めるなんて……!」


「じゃあ、どんな罰が良かったって?」


 ヴァチカ、途端に黙り込む。


「言っとくけど、当の精霊神がスピーア君に下した罰に比べたら、ぼくの下した罰なんて甘いもんだよ」


「スピーア? 夢じゃアナイナに罰を下したとしか聞いてなかったけど、スピーアにも?」


 ラガッツォは結構くだけてる。


「いや、さっき言った通りスピーア君を罰したのは精霊神だ。聖女誘拐は未遂でも重罪だからね。石にされて最長半年固めっぱなし」


「石」


 ラガッツォが腕を組んで考え込む。


「ただ石にしただけじゃないですよね」


「うん。意識はあるんだ。だけど、意識があることを伝えもできないし、喋ることも出来ない。受け止めることは出来ても発せない」


「ああ、自分が今こう思ってるとかっていう意思表現が出来ない、と」


 ラガッツォが納得する。


「それどころか指一本動かせない。スピーア君が心底反省したら解けるようになっているはずだけど、最長である半年を超えたら……ヤバいな」


「アナイナも反省したら……出られる?」


「ていうか、反省してないから出てきてないんだよ」


「ああ……」


 アナイナの性格を分かったヴァチカが小さく声をあげる。


「心から反省すれば部屋から出られる。それは伝えた。それでも出てきていないっていうのは、まだ自分が悪くないって思ってる証拠」


「それは……確かにアナイナは反省しないといけないわよね……グランディールの外に行こうって言葉に誘われて許可も取らずに町を出たのはどう考えてもアナイナが悪いんだもの……でも一人っきりっていうのは……」


「ヴァチカ、甘い」


 ラガッツォが言い切った。

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