第348話・スピティからの手紙
「スピティに連絡は行った?」
「行った。行って帰ってきた。近いしな」
ほい、とサージュが手紙を渡してくる。
町長以外には封の開けられない手紙。
開いて、中の手紙を読もうとして、全員が何とか手紙を覗き込もうとしているのに気付いてアパルに「読んでくれ」と頼む。
「了解。えー……『スピティ町長フューラー・シュタットより、親愛なるグランディール町長クレー・マークン殿へ』」
ごほん、と咳払いして、アパルが手紙を読み始めた。
「『当町から移転した、スピーア・シュピオナージュの起こした不祥事、真に情けなく思っております。確かに該当者は当町が派遣した「見学人」ではありますが、そこまで考えなしの行動をとる大馬鹿者とは思いませんでした。大変申し訳ありません』」
「見学人」とは、要するに「草」のこと。「草」という言い方はほぼ大陸中の町で認知されているけれど、本来は隠語。なので、公式には「見学人」という言い方をする。言い方変えても草は草だけどな!
「『しかし、ご承知の通り、スピーア・シュピオナージュは既にそちらの町の人間と言うことになっておりますので、スピティとしてはこれ以上口を出さない方針でございます。聖女を誘拐することを吹き込んだ人間がいるやもしれませんが、それもこの町の人間ではありませんので、ご理解ください』。あとは『お言葉に甘えて、我が町の参考とさせていただくため別の「見学人」を移転させていただきたく思います』。で、普通の挨拶文」
「あ~、スピティはこっちに丸投げしたわけね」
しかも聖女誘拐を目論んだのがグランディールの人間かもと匂わせて。
……こっちは「鑑定」や「識別」で事実やスピーア君の本音知ってるからいいけど、スピーア君の本音知らないでこの手紙を受け取ったら、「ウチが悪いと言ってんのか」とキレてたな。
何が何でもスピティに非はないと言い切る……いや正しいんだけど……でも冤罪とは言い切れない……つもりだねえ。
「どうする?」
アパルに聞かれて首を傾げてしまった。
「何を?」
「スピティに正式に抗議申し立てをするか、それとも町だけの問題にするか」
「考えるまでもない気がするけど」
ぼくは大きなため息をついた。
「スピティには実際非がないんだ。敢えて言うならスピーア君を選んじゃったこと。グランディールに興味があって移転してもおかしくなさそうで連絡取りやすそうなスキルだからって、人格を見ずに送り込んじゃったんだなあ」
新しい町だからって甘く見られたのもあるんだろう。育てた手練れの草じゃなくても情報を集められるだろうと思われたのかもね。
「じゃあ、もしスピーアをスピティに送り返したら?」
「まあ……勝手に聖女を連れて来ようって企んで、町の恥だってことで、良くて追放。悪くて抹殺。どっちにしても町にはいられない。となると帰すのは気の毒だけど……」
「聖女を誘拐しようとした罪は重い。しかも張本人が馬鹿やったせいで事情は会議堂を取り巻く
だが、とサージュは渋い顔をしたまま続ける。
「アナイナの性格も皆が知っているから、多分スピーアもそれほどひどい目には遭わないとは思うが」
「んー。でもスピーアを甘く扱うと、他の町がつけこんでくる可能性もあるんだよね。草とかを好き放題入れて町を荒らしても大丈夫とか思われると困るんだよね。だから、ある程度大変な目に遭わせないといけないんだ」
ガシガシと頭を掻いて、心の中で町長の仮面に手を伸ばしかけて、いけない、と首を振る。町長の仮面は使わないと決めたんだ。精霊神の思う通りの町長にはならないと。
となると、自分の頭で考えなきゃなんだけど、この場合、どうするのがいい答えなのか。
多分自分の頭では
「んー……他の町に甘く見られるのもダメだしー……厳しい判断を下したと、思われないとなあ……」
と、そうだ。
「その前に当の本人を確保しなきゃ」
まだ塔の先に引っ掛かったままな筈。
落ちてないのかと言われれば、落ちてないと断言できる。
何故かって? 時計塔もぼくのスキルで創ったから、ぼくのスキルで変えることも出来る。それで絶妙なバランスでどれだけスピーア君が暴れても落ちないように半固定してるのだ。だからスキルとかで暴れない限りは大丈夫だし、スピーア君のスキルは暴れられるスキルじゃないから大丈夫。
まあ頭が冷えるまで涼しい場所にぶら下がってもらおうかと。
「見てくる」
ティーアが何も言わないのに出て行った。
すぐに戻ってくる。
「野次馬は減った」
「なんで」
「落ちないから飽きたんだろう」
何て身も蓋もない言葉。
って言うか身も蓋もないのはうちの町民。
まあ、これも人間の
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