第343話・ペテスタイの感謝
なかなかに複雑な思いだったぼくに気付いたか気付かないか。ライテル町長さんはニコニコ笑顔で言ってきた。
「そんな忙しい間にも、我々の町への援助、感謝します」
あれ? ぼく、なんかしたっけ。
ライテルさんは相変わらず笑顔で続ける。
「食糧、助かりました。何せ五百年、何も食べる必要のない体で働かされ、当然のことながら我々のスキルで動くペテスタイも、食糧を作るスキルが失われ、設備も失われ、種すらも無くなり……。クレー町長殿のスキルで設備が戻り、グランディールから当座の食糧とスキルで増やすのに最低限必要な種子と家畜の移譲を受けました。これでしばらくはもちます。ありがとうございます」
「あー……」
よ~く考えて思い出してみると、記憶の底からある会話が蘇った。
『町長の連れてきたペテスタイの人たち、食糧とかなさそうですけどどうするんです?』
『あー、困らないだけ譲ってあげて』
うん、確かそう言う話をしてたよな。忙し過ぎて記憶の底に沈めちゃってたけど。
あの忙しい中できっちり重要な懸案を通して許可取って必要なもの集めて引き渡す。うん、やっぱりアパルとサージュは要る。グランディールには必要。
「本当に、肉体には食事が必要だと思い知りましたよ」
苦笑するライテルさん。
「食糧だけでなく、食事をまず届けてくださったことへの配慮、感謝申し上げます」
……あー。食糧があっても料理ができなかったか。
そりゃあ五百年やってなかったら忘れるよなあ。
「非常に美味しく消化の良い食事をありがとうございました」
ぼくが寝てた間に、伝説の町ペテスタイがすぐ隣にいる、という話はグランディールを駆け巡ったらしく、行ってみたい、でも町長がまだ行ってない、行きたいけど行けないという状況になってたらしい。
その中の、西の民を迎え入れた時の食事チームをアパルかサージュのどっちかが指定して、大量の食糧を持ってペテスタイを訪れ、ぼくが作った施設などで料理を作りまくり、ペテスタイの人たちを満腹にしたようだ。
うん、そこまで考えられなかった。みんな、多分ぼくの中身が入れ替わってるの気付かなかったのを気にして、役にたとうとしてるんだろうなあ。ありがとう町民の皆さん。でもぼくの区別つかなかった責任感じなくていいんですよ。精霊神のヤツぼくの顔から僕の情報奪ってそれで作った仮面を被ってたんですから。エキャルが例外でそれから見抜いたティーアが更に例外なだけなんです。
そのエキャルがぼくの頭の上に乗っかってくる。
ご機嫌そうに髪の毛を繕い始めた。
「本当に賢い鳥ですね」
ライテル町長が目を細めてエキャルを見ている。
「どうやってグランディールに連絡を取ろうと悩んでいたら、この子が来てくれたんですよ。おかげですぐに必要だった食事と食糧を持ってきていただけた。グランディールの方々の素早い対応にも助けられましたが、何よりこの鳥がグランディールから何か必要なものはあるか、という手紙を持ってきてくれて、返事を素早く返してくれたからもあるのですよ。あなたを探して荒野を越えただけでなく、手紙のやり取りもしてくれるとは……本当に、賢い」
「あれ? 五百年前に伝令鳥っていなかった?」
「伝令鳥が生まれたのは三百年前だ」
それまで黙っていたティーアが口を開いた。
「え? そうなの?」
「フォーゲルの当時の町長が、連絡を入れるのに人を移動させるのは大変だと言うので精霊神に
「へー」
さすがは動物好きの鳥飼。そう言うことはしっかりと勉強してあった。
「じゃあエキャルはその子孫と言うわけ?」
「ああ」
「へえー」
ぼくは頭に手をやってエキャルのふわふわ胸羽毛をもしゃくしゃする。頭の上ではエキャルがご機嫌のように首を前に後ろにと振り回している。
「クレー、あんまりもしゃもしゃすると」
ハッとエキャルをもしゃくしゃし過ぎて手入れに苦労した思い出を蘇らせる。その直後が大変すぎて、記憶から消えてた。
「大丈夫?」
ぼくは慌てて両手でエキャルを下ろして胸の辺りを見る。よかった、毛羽立ってもない。ふわふわふかふかの真紅の羽毛。
「さて」
ぼくはエキャルを抱えたまま、ライテル町長さんを見た。
「食糧の他に、グランディールが提供できそうでペテスタイに足りないものはありますか」
ライテル町長も頷いて、ぼくらを先導して歩きだした。
ペテスタイの人たちが、ぼくたちを見つけて、食糧や日用品などを運ぶ途中で笑顔で一礼したり手を振ったりする。
「尊敬されてるな、クレー」
ティーアの言葉に、ライテル町長が笑う。
「五百年封じられていた我々の救いの神。慕うなという方が難しいでしょう」
……そう言えば信仰心の糸で繋がってたっけ。ペテスタイの人たちと、ティーアと、ぼくで。
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