第342話・草の後始末はどうするか
「っていうのを、文面考えてくれる?」
アパルは肩を竦めつつも承知してくれた。
「まあ……確かに、草を送るならもう少しましなのを送れ、と言いたくなるね」
「さて、スピーア君はどうしよう」
戻したら確実に処分されるよね。
でもうちの存亡も関わりそうだったから、こっちも甘い顔はしづらい。少なくとも聖女を誘拐しようとした人間を受け入れるほど心の広すぎる人間は少ないと思う。バレたら西出身組から総スカン……だったらまだマシ、取り囲まれてぶん殴られるくらいはされかねない。
つまり、もう彼には放浪者になるくらいしか道がないのだ。
罪を隠して別の町に追放したとしても、町に着いたら、必ず「鑑定」はある。
草は誤魔化しやすい。スピアー君みたいに入ってから元の町から草として動け、と命令される場合もあるし、そもそも草は「まちのおきて」では禁じられてない。別の町のいい所を取り込んで自分の町をよくするのは正しいこと。その為の草は悪い存在じゃないから。だから「まちのおきて」鑑定なんてスキルだと草は引っ掛からない可能性だってある。
でも、聖女誘拐は別だ。
重罪。命にかかわる罪。いるだけで精霊神の怒りを買うかもしれない存在。そんな人間を誰が町に入れたいなんて思う?
個人的には、アナイナを連れて行こうとしたって怒りはあるけど、そんなに大きくはない。アナイナが浅はかだったのも事実だし、ぼくもエアヴァクセンで成人式を迎えるまではすごいスキルを持ってエアヴァクセンのトップに、なんて夢物語を描いていたから。
だけど、なあ。
コンコン、と外からノックする音がして、ぼくはスピーア君が完全に気絶しているのを確認してからノックを返した。
隙間から外に顔を出すと、廊下で待っていたティーアが顔を近付けてくる。
「ペテスタイの町長が、会いたいと」
ライテル町長さんが?
そう言えば精霊神から解放してからペテスタイのこと忘れてた。元の肉体を取り戻し、五百年分の世界とのズレを解消するためしばらくグランディールの傍に置いてほしい、と言っていたっけ。
仕事があり過ぎて忘れてた。ごめんペテスタイの皆さん。
「ぼくは会って来るから、文面考えといて。スピーア君をどうするかの案もあったら」
「分かった」
アパルが頷く。
「スピーア君は目を離さないようにして。追い詰められてるから何するか分からない」
「追い詰めたのは誰だよ」
ヴァローレ。
はい、分かってます。追い詰めたのはぼくです。でも言いたくなった気持ちは分かってほしいです。
「ついて行くか?」
サージュが言ってくれたけど、精霊神関連の話になるかも知れないから、遠慮してもらって、代わりにティーアに来てもらうことに。
◇ ◇ ◇
ペテスタイはグランディールのすぐ隣に停泊している。町としては単独で生きて行けるだけの人と施設が揃ってるけど、なんせ五百年大陸と隔離されていたから、何処にどんな町があってどんなことをしているかとか、町の産業とか、今現在の歴史とかが分からないと他の町とかかわりを持ちたくなった時、話が通じないと言うこともあり得るので。
ペコペコ頭を下げるソルダートに「悪くないし気にしてない」と伝えて、町を出て、隣のペテスタイに向かう。
さすがにグランディールからペテスタイに行った人は今のところないらしい。五百年前行方不明になって、今帰還した伝説の町に、町長より先に入ってみようという人はあんまりいないんだろう。でも好奇心旺盛な皆は入ってみたいらしくて、グランディール方向……背中に突き刺さる視線が痛い。
グランディールを出て、すぐ傍にあるペテスタイ入り口の小さなボタンを押す。
「クレーです」
小さなボタンの下にある突起に向かって告げる。
『今、開けます』
応答する声がして、
扉はぼくたちが入ると再びしずしずと閉じた。
「クレー町長!」
一見圧倒される威厳のある顔に、浮かぶ表情は柔らかい。
伝説の町ペテスタイの十代目町長で、感謝を伝えるためにペテスタイを聖地に向けたがために五百年間も姿を変えられて聖地に閉じ込められた人。
ライテル・トゥテラリィ町長。
手を広げて来たので、ぼくも手を広げてハグして背中を叩き合い、親愛を伝える。
「申し訳ない、町のごたごたで来るのが遅くなってしまって」
「いえいえ、とんでもない。クレー様も町長なのですから。あの神に町を色々された後では大変だったでしょう」
大変でした。
町の方針から施設から何から何まで「やりたい人がやる」から「全員平等にやる」にされて、「なんでここまで変えてまた戻す」と言われるのを避ける為に、ぼくはこの一週間熱に浮かされて仕事した、と我ながら滅茶苦茶な言い訳を貫き通した。精霊神はほとんど休憩もせずに机に向かっていたので、「クレーはどうした」という話があったので、みんな信じたらしいけど。
……ん? ぼくって、仕事やってる方が珍しい人種に認定されてる?
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