第337話・あっという間に捕まる

「待たせた」


 アパル、サージュ、アレ、リューの四人が飛び込んできた。


「大神官にも伝えてある」


「ありがとう。早速だけどリュー。アナイナの「場所特定」出来る?」


「任せるっす。何度も会った、おまけに聖女なら、すぐにでも特定できるっす!」


 リューは言い切って目を閉じる。


「見つけたっす。つかまえたっす。逃がさないっす」


「アナイナは気付いてる?」


「うんにゃ、警戒すらしてないっすね。町を飛び出たって自覚あるんすかね」


 だろうと思ってた。思ってた、けど。


「逃げ出したなら追手の心配しろよ……」


 その程度の警戒心でよくもまあ町出まちでして放浪しようなんて思ったもんだ。


「アレ」


「はいよ」


 アレは目を閉じてリューが特定した場所に集中し、そして。


「行くよ。つかまって」


 そこにいた全員がアレに掴まり、ふっと視界が切り替わり。


 アナイナとスピーア君の目の前に「移動」完了。



「ア~ナ~イ~ナ~?」


 唐突に目の前に現れたぼくの姿に、アナイナは固まっていた。


「どこの聖女様が、町長の個人印の印影使って変装までして勝手に外に出て行くのかな~?」


「嘘、まだ、出てからそんなに時間は」


「ソルダート騙して、勝手に町飛び出して~。どれだけの人間に迷惑かけたか分かってるのかな~?」


「だって、だってわたし」


 アナイナが声を震わせる。


「わたし……」


「はいはい、文句や苦情は町に帰ってから聞きます。それと、スピーア君?」


 スピーア君の顔を見ると、スピーア君は真っ青通り越して真っ白な顔を引きつらせている。


「グランディールでお話、聞かせてもらえるかな~?」


 大人に悪戯いたずらを見つかった子供……にしては深刻度が半端ない顔でこっちを見返してる。


 そんな顔するくらいなら最初からやらなきゃいいのに。


「クレー、クレー」


 サージュが低い声で言う。


「何?」


「顔」


「顔?」


「お前の顔、半端なく怖い」


 ひょいっと差し出された手鏡を見ると。


「うん、分かった。言いたいこと」


 うん。ぼくの顔、半端なく怖かった。この笑顔。子供が泣く。


「その顔で子供の前には出ない方がいいっすよ、町長」


「ああ。みんな逃げる。気持ちは分かるけど」


 ぼくを取り囲んでみんな口々に好きなことを言ってる。これでもかなり抑えてますよ? アナイナとぼく二人きりだったらとうの昔に激怒モード突入してるから。


「で、逃げられるとでも思ってる~?」


 その顔をもう一度スピーア君に向ける。スピーア君息を呑む。そりゃそうだ、こっそり逃げ出そうとしたところで全員の視線を受けたんだから。


「ゆ、ゆ、許して」


「許すかどうかは話を聞いてからになるなあ~」


「取り敢えずグランディールに戻ろう」


 アレが言う。


 アパルとサージュがスピーア君の肩を片手ずつ掴んで、残った手でアレに手を伸ばす。


「アナイナ」


 低い声でぼくが呼ぶと、アナイナがびくっと竦み上がった。


「お、にい、ちゃ」


「言い訳も泣き落としも、グランディールに戻ってからにしような? あっちでじ~っくり聞いてやるから」


 そして、その右手を掴む。


 アナイナの手は冷え切っていて小さく震えていた。


 はあ、と息を吐く。


「捕まって泣くくらいなら、最初から町出するな」


「だ、って、だって」


「お前、ぼくがお前が言ったことに反対なの聞いただろ? ぼくが嫌だって言った理由も知ってるだろ? それを無視して、甘い言葉で言ってくる人につられて実行しようとするんじゃないよ」


 ひっくひっくとしゃくりあげるアナイナに、ぼくは静かに告げる。


「だ、って、お兄ちゃん、は」


「お前は、力持つ者は責任があるって言ってたけどな」


 震える手を握って言う。


「お前だって聖女って力持ってる人間なんだから、その責任を取らないで自分だけの考えで突っ走るんじゃないよ」


「じゃあ、行くぞ」


 アレの言葉にアナイナがびくっと震える。


「わた、しは」


「帰ってから話を聞く。このまま逃げたら……ぼくはお前と縁を切る」


 もっと大きく震えるアナイナの手。


 神と信者の縁だけでなく、兄妹の縁を切ると含ませた言葉。それが嘘じゃないと思ったんだろう。


「嫌だったら帰ってからちゃんと話をしろ」


「…………」


 小さくアナイナは頷いた。


「移動!」


 空間が歪んで、一瞬のうちにグランディール会議堂の会議室に戻った。



     ◇     ◇     ◇



「ヴァローレかシーを呼んで、スピーア君を調べて」


 真っ白な顔のままのスピーア君をチラッと見て、ぼくはアパルとサージュに言う。


「なるほど、「鑑定」か「分析」で、完璧に調べ上げるわけだな」


 アレとリューがスピーア君の両肩を抱えて、サージュとアパルに先導されて部屋を出て行く。


 ……多分、ぼくとアナイナが二人で話す時間をくれたんだな。


 ぼくはアナイナに椅子を差し、その対面にある椅子に座る。


 アナイナは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をして座った。


「アナイナ」


 名を呼ばれ、しゃくりあげる声が小さくなる。


「今、ぼくが怒ってる理由」


 静かにぼくは言う。


「考えられるものから、自分で挙げてみな?」

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