第331話・アナイナらしい覚悟
アナイナの言うことを、すぐには理解できなかった。
「え~と? それは、つまり?」
「お兄ちゃんがいつ第三の精霊神になっても、その神威を示す聖職者はいつでも準備OKってこと」
「~~~~~~~~~~っっっ!」
アナイナは既にぼくの聖女になる気満々。
だけど、ね?
「ぼくは神様になるって一度も言った覚えないんだけど」
「うん、それは知ってる」
「だったら」
「でもお兄ちゃん、この先、あの精霊神が唯一の神様として崇められるの、気にならない?」
「…………」
そりゃあ気になるよ。
あの精霊神だぞ。世界が崩壊しそうだからって勝手にグランディールを第二のスペランツァに作り替えようとしたヤツだぞ。勝手にぼくの肉体を乗っ取って好き放題したヤツだぞ。そんなヤツが一件が終わったからって元通り信仰される?
……あいつは、その信仰に値するヤツなのか?
人間に与えた罰すら忘れて好き放題している……そんなヤツを、ぼくは神として信仰できるのか?
……無理だ。
あれを信じろって言われても、どっかの魚の頭の骨の方が悪いことしないって分まだ信じられる。
だけどね、アナイナ。
「それと、ぼくがその座に就くかはまた別問題なんだよ」
「別にお兄ちゃんがその座に就く必要はないの」
どういう意味?
「お兄ちゃんは力だけ貸してくれればいいの。わたしが勝手に神様扱いするから」
「それって、インチキっていうか……イカサマっていうか……詐欺っていうか……」
「お兄ちゃんが力を貸してくれれば、わたしはその力で、精霊神と対等で、新しい神の存在を伝えられる。その神様がどんな神様でどんな人間が良くてどんな力を与えてくれて何から守ってくれるのか。お兄ちゃんは力を託してくれるだけでいい。どんな神様かはわたしが適当にキャラ付けするから」
「お前……」
……確かに。
これまで、精霊神以外の神は見つかっていない。
精霊小神……精霊の中でも人間に恵みを与えられるほどに大きい力を持った精霊はいる。でも、彼らは精霊神の下の存在。
闇の精霊神は精霊神と同等の存在だけど、散らされて今は名残が大陸中に漂っているだけ。大陸の最高神はあの精霊神なのである。
だけど、今はそうじゃない。
ぼくがいる。
精霊神の分霊として生み出され、人間として暮らすうちに精霊神から変質して、今ではほぼ別物の存在になったというぼくが。
確かに、力は精霊神より下で、精霊神に由来するもの。
でも、精霊神の僕ではない。精霊神の教えに左右されない。
……ん?
「ちょい、ちょい待って」
「ん?」
「なんでぼくが信仰されてること前提なの?」
ぼくが何て言おうと、精霊神信仰は(精霊小神などの精霊信仰を含めて)大陸唯一の法。そう言う大陸でぼくっていう神が出てきても信仰心を集められると思ってるのか?
と、言うと、アナイナはケラケラと笑った。
「大丈夫。グランディールとペテスタイだけだから」
「グランディールでも西の民とかが信じるわけないだろう。グランディールにだって精霊神に仕える
「だから、信じたい人だけ信じればいいの。わたしは新しい神が新しい力を持っているってことを伝えるだけ」
「いや、それはまずい。まずいって」
アナイナ暴走してる。止めないと。
「そんな由来も分からない神様が一柱出て来たってお前が言っても、ペテスタイならともかくグランディールの人間でも信じやしない。お前が異端者として追い出される可能性もあるんだぞ」
「追い出されても問題ないし」
「いやお前問題ないって簡単に言うけどさあ……」
「聖女が欲しい町はいっぱいあるから!」
「それは、精霊神に仕える聖女だからであって」
「精霊神じゃなくても、きちんと御加護を与えてくれる神様は信じてもらえる!」
アナイナはどうだと胸を張る。
「各地の神殿を敵に回すことにもなるんだぞ」
「怖くない」
アナイナにっこり。
「お兄ちゃんの力が、守ってくれるでしょ? お兄ちゃん自身も、守ってくれるでしょ? だったら世界中放浪することになってもわたしは平気だよ。お兄ちゃんがグランディールにいても、わたしのすぐ傍にはいるってことでしょ?」
ニコニコ笑うアナイナ。
いや、確かに、聖女と神は近しい存在で、常にその存在を感じ取ることもその神威を
「ぼくはお前を一人で放浪させたくないよ」
「お兄ちゃんがいるじゃん」
「ぼくの力があっても、ぼくが傍にいるわけじゃない」
「いるよ」
アナイナはにっこり笑った。
「お兄ちゃんはいつでもわたしのことを気にかけてくれてる。お兄ちゃんがグランディールでわたしのことを心配してくれてるってことは、いつだってどこだってわたしは感じとれるよ」
いや、そうなんだけどさあ!
「お兄ちゃんはわたしを心配しすぎ!」
「心配に決まってるだろ、妹なんだから!」
アナイナはにっこり笑って、頷いて。
「だから平気なの。お兄ちゃんがわたしを気にかけてくれる限り、わたしはお兄ちゃんの力を使えるだもん。安全に決まってるでしょ」
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