第319話・プファイフェの行進
朝、顔を洗うために外の水路に出てきた町民が目を丸くする。
ぼくを抱えてエキャルを頭に乗っけしたティーアの後に、明らかに普通の獣じゃない雰囲気を持ってしかも発光までしている獣たちがずんずんとついて歩いてるんだからそうだろうなあ。
子供が指差し大人が顔を見合わせて困ってる中、ティーアは、伝説で語られる、自分を怒らせた町からすべての獣を連れ去ったプファイフェの精霊のように獣を従えて歩いている。まあプファイフェの精霊は町の外へ獣を連れ出したけど、ティーアは中心に向かってるんだよね。
「ティーア?!」
中心部……会議堂の方から走って来たのはサージュだった。
早朝からのざわざわを聞きつけてやってきたんだろう。
「ティーア?! これは一体何なんだ」
「……獣?」
しれっと視線を逸らして答えるティーア。
「……どこからどう見ても聖獣とか神獣とか呼ばれるものばかりだろう!」
おう、サージュのここまでの怒り声は初めて聞いた。
「どこから連れてきた!」
「森にいたのを連れてきた」
うん、嘘はついてないね。森にいたもんね。
「……「動物操作」のスキルで聖獣や神獣や精霊虫は操れるのか?」
「ついてきたんだからそうじゃないか?」
そう言われればサージュに返す術はない。
「……で、どうするんだ?」
「町長に見せる」
当然だろう、とティーア。
「悪いがティーア、クレーは今……」
「町長がどうかしたのか?」
「いや、寝てるんだが」
「もう朝だぞ」
「最近疲れているようだから、午前中いっぱいは休ませてやろうと思ってるんだ……」
「じゃあ、寝起きでどっきりさせてやろう」
ティーアはすたすたとサージュの前をぼくを抱えて通り過ぎていく。
分かってたけど……サージュはぼくだって分かってない。ちょっと悲しいけれど、仕方ない。サージュはぼくの中身がぼくだと疑ってすらいないのだ。多分、アパルも。
ぼくの傍に長くいればいるほど気付かないほどぼくらしくなるぼくの仮面。
ティーアが町長がぼくじゃないと気付いたのは、エキャルが先に気付いたのと、ティーアとぼくの距離が、ぼくがやりそうだけどやらないところを気付く適度な距離だったんだろう。
考えている間にもティーアはずんずんと会議堂目指して歩き、聖獣や神獣(ペテスタイの民)がぞろぞろとついてくる。うん、伝説のプファイフェの行進だ。
「ちょ……おい、ちょっと……!」
サージュの制止が大人しいのは、ぼくであれば、こんな面白いものは見逃したくないからだ。最近仕事仕事で会議堂に籠っていた(らしい)、ぼくを驚かせて喜ばせたいのはサージュも同じ。
「だけど、なあ!」
「大丈夫だ。ちゃんと大人しくしているだろう」
「だからと言って!」
「大丈夫。クレーは喜ぶから」
うん、ぼくは喜ぶよ? 肉体を取り戻しに行けるんだから。
でも、町長はどうかな?
怒るだろうなあ。
そこで尻尾を出してもらえればありがたいんだけど。
町長は町民の中から選ばれる。「この人が町長」と町の大多数が意識することによって、町にも町の長だと認識される。だから、精霊神が尻尾を出して、中身がクレーじゃないと認識されれば、精霊神は町長じゃなくなる……はずだ。
精霊神にこの町長の法則が当てはまるかどうかは分からないけど、スペランツァの時は精霊神が町長と認められていたし、何か関わっているんじゃないかなと思う。
それでだめなら……力尽くかな、うん。
ここは精霊神がいても聖地じゃない。神殿にでも
「問題はないな、うん」
ティーアは頷いて歩き続ける。
「い、いや、会議堂に」
「動物を入れてはいけないという決まりはないな。エキャルはどうする」
珍しい。サージュが論破されてるよ。
「あー、わんちゃん」
小さい子供の声がする。
ティーアがその方に抱いているぼくを向ける。
尻尾を振ると、子供が大喜びで手を振り返す。
「ほら、心配いらない」
ティーアはすたすたと歩く。
聖獣や神獣もぞろぞろ。
きゃあきゃあと子供が楽しそうにその後をついてくる。
ティーアは見た目怖いけど面倒見が良くて、動物も好きなので結構懐いている子供もいる。そのティーアが連れてきた動物なら聖獣だろうと神獣だろうと魔獣だろうと凶獣だろうと大丈夫、という信頼がある。当然ティーアを知っている大人もいるから、大丈夫だろうという信頼がある。
「おい、サージュ……」
外のざわざわに気付いたんだろう、顔を出したアパルがティーアとその後ろの聖獣や神獣を見て渋い顔をする。
「やっとやる気になってくれたクレーの、休憩要求を邪魔するのか?」
「ティーアが何だかやけに頑固で……」
サージュが申し訳なさそうに言う。
「ティーア、せっかくやる気になったクレーを邪魔するような……」
「本当にそれがクレーなのか?」
「は?」
いきなりぶち込んだティーアの言葉にきょとんとするアパルとサージュ。
「さ、行こう行こう。一週間ぶりだな? なあ、エキャルも、お前もだな?」
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