第318話・ヤケクソなティーア
「午前中の……いつ頃かは分からない。俺に直接来た情報じゃないんでな。偽町長からアパル、アパルからアナイナ、ラガッツォを経由してだ。だから偽町長が目覚める時間とかはよく分からん」
いやいや、ありがたい情報ですよ。
(今からグランディールにダッシュして、精霊神が戻ってくる前に肉体に戻る?)
(それもいいですが、その肉体から抜け出す手段が分かりますか?)
ライテルさんに言われ、ぼくの目が丸くなる。
(え……と)
……考えてなかった!
(せ、精霊神の力で何とかなる?)
(なるでしょうが、間違えると二度と肉体に宿れなくなる可能性もありますよ)
(なんでっ?!)
(こうなってから思い出したのですが、精霊神がこの半肉体を私に押し込める時に言いました。「我が祝福を受けたその肉体を捨てるならば、どんな肉体にも二度は宿れなくなるだろう」と)
(呪いか!)
(呪いですよ。それが我々が自力で元に戻ることを諦めた大元の原因)
でも、ぼくにはそんなこと言ってなかった……いや言い忘れただけって可能性もあるな……。
とにかく、今わかるのは、ぼくの肉体を確保しないとまた精霊神が勝手に入り込むってこと。
ぼくの肉体を……取り戻す。
ぼくはティーアの手の中から飛び降りようとして……抱えられた。
「無理だ、無理。グランディールに行こうとしたんだろうが、犬一匹でもソルダートやキーパは通さない。町の人間が一緒じゃないと、アリですらも通さない」
え? グランディール、そこまで厳しかったっけ?
「最近の町長の意向だよ」
……クソ精霊神が!
「でも、やっぱりソルダートやキーパには、クレーののんびり主義が残ってるから、俺が仔犬を連れてきたんなら、問題はない……はずだ」
聖獣や神獣はどうか分からないが、と言うティーア。
ぼくを抱えているティーアの手を前足でてしてしすると、ティーアは普段の厳しい強面に戻った。
「ここの聖獣や神獣はどうするんだ? このペテスタイで待っていてもらうのか?」
チラッとライテル町長さんを見ると、ライテル町長は一同を振り返って、そして意思を統一させて頷いた。
ペテスタイの人たちにとっても、自分の元の肉体を取り戻せるかどうかの瀬戸際だ。ここで明らかに不利な戦いに臨むぼくに全て任せて待っている……という人は、いなかった。
だけど、精霊神の怒りを買ったら……。
(弱気にならないでください、クレーさん)
ライテル町長が言った。
(これはペテスタイの問題でもあります。ペテスタイがもう一度町として在れるかという分水嶺。それをクレーさんに任せっきりに出来るペテスタイ町民は一人もいません。……我々にとって精霊神とは既にクレーさんなんです。ペテスタイを直して、神殿から出してくれた救い主。その為ならば、我々もどんなにでも力になります)
深々と一礼する白い馬。
「聖獣や神獣、精霊虫がぞろぞろついてくる……」
ぼくらの仕草やなんかで悟ったようなティーアは、しばらく髪をガシガシ掻きながら考えていた。
「……分かった!」
突然、大声。
「俺のスキルは「動物操作」。聖獣や神獣や精霊虫が操作できない……とは決まってない! 俺が操作した動物なら町に入っても問題はないはずだ!」
ティーア、賢い!
ティーアがスキルで支配下に置いた獣なら、安全なので通しても問題ないよな! 精霊神はいないから、文句つけてくる町長はいないってことだな!
てしてしてしてしティーアの腕を叩く。
「そうと決まったら早速行くぞ! あんたら全員俺の支配下にあるってことにするからな! 良ければ前に、ダメなら左に首傾ける!」
ペテスタイの皆様が一斉に前に首を傾けた。
「よし、行くぞ!」
半分ヤケクソなティーアの号令に頷いて、ペテスタイの民は歩き始めた。
……ああ。懐かしいグランディール。
一週間くらいしか離れてなかったのに、本当に恋しかった。
「よし。クレーとエキャルを連れて話を通すから、上手く行ったらぞろぞろついて来い。焦るなよ、急ぐなよ? 俺に操られているように、しずしずと、
みんながもう一回前に首を傾けた。
「よし、クレー、エキャル、大人しくしてろよ?」
門から見えない位置にペテスタイの民を置き、ティーアは門に入っていく。
「おう、ティーア」
ソルダートが一応、と槍を向けて、そしてぼくとエキャルに視線を移した。
「エキャルは分かるが……その犬は何なんだ?」
「森の中で動物を支配下に置いた」
「こんな朝から鳥飼以外の仕事?」
「何か獣が拾えそうで行ってみたらかなり多くのを拾ったんだ。この犬もその一匹。通していいか?」
「こいつ?」
ソルダートはティーアからぼくを受け取って、しばらく前脚を動かしたりしていたけど、嫌がる様子を見せなかったから納得したんだろう。
「ティーアがそう言うんなら、問題ないだろ。な?」
もう一人の門番キーパに聞くと、キーパはないだろうな、と頷き返す。
「じゃあ、今から来る獣はちゃんと躾けてあるから通してやってくれ」
「どんだけ数がいるんだ?」
「結構」
ティーアは門の外に向かって腕を振り上げると、森の木々の間から、ぞろぞろと半透明でほのかに発光する獣がぞろぞろぞろぞろ。
「……どんだけ数がいるんだ?」
「結構」
ティーアは知らん顔してぼくを抱えて歩いて行った。
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