第314話・精霊と人間の違い

(リュシオル、グランディールの方向……精霊神の気配の濃い方向は?)


(わかります。大陸で異様なほどに精霊神の気配の濃い場所……)


(そんなの分かるの?!)


(わたしの役目は大神殿の案内。精霊神の気配は探り慣れています。しかも、ここまで特徴的な気配を発していれば)


(精霊神が特徴的?)


(クレーさんからも精霊神の気配は感じます。それにはないものが、目指す精霊神の気配からあるのです)


(ぼくにあって精霊神にないもの? 逆じゃないの?)


(逆ではありません。あなたにあって、精霊神の気配にはないもの)


 なんじゃそりゃ。


 精霊神は自分からぼくの分を切り取って人間の肉体に宿した。その時、ぼくが何か持ってきちゃったのか?


 う~ん。生まれる前のことなのでよく分からない。


(何か、混ぜ物みたいなのがぼくにある?)


(いいえ。混じりっ気のないものです)


 ???


 ……分からん。


(わたしも良くは分からないんです。ごめんなさい)


 いやリュシオルさんが謝る必要はありませんよ? ぼくとぼくをこしらえた精霊神が悪いんですよ?


(ただ、明らかにクレーさんと精霊神が別のものになっているんです。確かに共通部分はある。同じように噛み合っている部分。でも、それより噛み合わない部分の方が多い。それが、クレーさんと精霊神と明らかに別のものとしているのです)


 精霊神の分霊は祭りの前に会った時、そんなことを言わなかった。


 と、言うことは。


(精霊神は、ぼくと自分の気配の違いに気付いてない……?)


(気づいたらすぐに、同じものにするためにクレーさんを修正しようとするでしょう。そこまであからさまに違う気配なんです)


 ぼくも気付いてなかったってことは、本人には気付けない部分なのかな? ぼくもリュシオルさんに指摘されるまで知らなかったし、指摘されても何処がどう違うのか、未だに分からない。自分の気配と、記憶にある精霊神の気配を比べ合おうとしたけど、精霊神の気配をはっきりと思い出せない。


(あるいは)


 リュシオルさんが言葉を続けた。


(精霊神やあなた自身も気付いていないその違いこそが、鍵になるかも知れません)


 よく分からないけど……。


 元は同じ一つの魂。その一割を千切り取られて人間の肉体に宿されたのはぼく。九割を保ったまま聖地にいたけど、一割ぼくが思い通りにならないので無理やり一割ぼくを追い出して入り込んだのが精霊神。


 違い……は……。


 ああ。ぼくが人間として生まれた時に既に発生してるな。


 精霊は実体を持たない。だから肉体が感じる痛みとか苦しみとかってのが分からない。だから、肉体を持った時点でぼくと精霊神に差が出来る……。


 あれ? そういや精霊神、今はぼくの為に作られた肉体に入ってるんだった。じゃあ痛いとか苦しいとか分かるのかな? いやでもなんか分かってない気がする。


 物心つく前、赤ん坊の時から痛いとか苦しいとかと隣り合わせで育ったぼくと、育った身体を奪って無理やり入り込んだ精霊神。


 肉体を持って生まれた存在に、自動的に課せられる苦難。


 病、怪我。苦しみ、痛み。どんなに恵まれて生まれても離れられない


 それを感じて育ったぼくと、知らずに人間の肉体に入り込んだ精霊神。


 そこに何か差があるとするのなら。


(クレーさん?)


 見下ろしてくる白い馬。ライテル町長さん。


(みんなの肉体も取り戻さないといけない……どっちにしろぼくたちは精霊神と対峙しなければならない。グランディールに行かなきゃいけない)


 ぼくは後ろのエキャルを見た。


(エキャル、グランディールの方向はこれで合ってる?)


 リュシオルさんを疑っているわけじゃないけど、グランディールから来たばかりのエキャルに聞く。


 エキャルは首を折り畳んで、羽根を動かして、お上品に「大丈夫ですよ」の仕草をした。


 精霊神の妨害もないようだ。


 なら、行くしかないでしょ。


 いざ、グランディールへ!



     ◇     ◇     ◇



 クレーがクレーの肉体から姿を消し、精霊神が入り込んでからもう一週間経ったろうか。


 その日の夕方、偽町長が言ったという。


「ぼく、ちょっと余計に寝ていいかな」


 サージュは最近色々な仕事をしていた偽町長に、特に疑問に思わず、「最近、大変だったからな。しっかり寝ておけよ」と言ったとか。


 何か、ある。


 エキャルが昨日、町の傍から姿を消した。そのことと関りがあるんだろうか。


 どっちにしろ、近いうちに何かが起きる。


 偽町長……精霊神は、寝る前に、サージュとアパルにこう言ったと言う。


「ティーアには言わなくていいよ。ティーア、ぼくとエキャルがケンカしたと思ってるから、ぼくが寝るとエキャルの顔も見たくないんじゃって心配するだろうし」


 こう言えば、サージュとアパルからは俺にその情報は伝わらなかったろう。だけど、伝えたのは別口だった。


 大神官ラガッツォ。


 成人したばかりの大神官が、このことを伝えてくれたのだ。


「アナイナから頼まれて、伝言に来たけど、誰もいないよな?」


 と、鳥部屋にこっそり入って来たのだ。

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