第305話・昼と夜
昼間はぽかぽかと日の当たる窓際で寝ている。
「ペルロ、寝てる」
「あったかい所にいるから眠くなるのね。仔犬って良く寝るものだし」
「でもペローは寝ないよ?」
「似てるからって眠い時間まで一緒なわけじゃないのよ?」
「そうなの?」
うん。似てるのはペローの肉体はぼくのコピーだからで、考えることとかやってることとかは全然違うから。
「ペルロはちゃんとこの辺りを調べてくれたのねえ。ここがあんたたちにとって安全かどうか」
「そうなんだ!」
「ありがとーペルロ!」
「だからお昼の遊び相手はペローにしてもらいなさい。ペルロはお疲れです」
「はーい。ペロー、行こう!」
マトカさんの言葉に、二人が走り出し、ペローがしっぽをぶんぶん振りながらその後を追いかけていく。
ペローはあの二人が好きになるように創った存在。あの二人を守りたいという思いがペローにとっては真実。
でも。
時々思う。
ぼくがペローにしていることは、精霊神がぼくやペテスタイの人たちにやったことと同じなんじゃないかって。
精霊神が勝手に決めた「使命」。それをぼくはペローに押し付けたんじゃないかって、そう思って。
「ペルロ?」
マトカさんが不思議そうに声をかける。
何? という顔を作って見上げると、そこには心配そうなマトカさん。
「ペルロ、あんた、大神殿に来てからずーっと鼻にしわ寄せてるのよ。どうしたの? 大神殿が気に入らない?」
相変わらずマトカさんは
でも、大丈夫! と尻尾を振る。
「それならいいんだけど……わたしは心配よ。あんたがなんか無茶やってないかどうか」
マトカさんは多分気付いてるんだろう。ぼくがただの犬じゃないこと、目的を持って夜出歩いてたりしているってことを。
さすがに精霊神に対抗するためにペテスタイを再建しようとしているところまでは気付かれてないとは思うけど。
……ぼくが出て行くことでイコゲニア一家に何か迷惑は掛からないだろうか。
イコゲニア家の近くにぼくをすっ飛ばしたってことは、一家に見張らせるため、という可能性もある。あの部屋で各々が精霊神の分霊と対話した時に、何か言われている可能性もある。内容を誰にも話してはいけないと言われているから、それをぼくに打ち明けることはないだろうけど。
でも、パテルさんやマトカさんを、敵と見たくはない。
精霊神からどんな影響を受けているか、どんな命令を受けているかは分からないけど、たくさん優しくしてもらった。たくさん大事にしてもらった。
それに恩返しをしたくてペローを創ったけど、ペローが喜んでいるかどうかも分からないし。
精霊神は人間を創ったりするときこんな風に悩まなかったんだろうか。こんな風にしたら嫌われるんじゃないかって、こんな感じで創ったら嫌がられるんじゃないかって。闇の精霊神と一緒に作ったっていうけど、闇の精霊神はどう思ったんだろう。聞きたかったけど、相手はもう残滓しか残ってないから答えようがないだろうなあ。……でもこんなことで悩むのは、ぼくが人間の魂を持っているからじゃないかと思う。人間だから、精霊じゃないから、嫌われるんじゃないか、嫌がられるんじゃないかと怯えてしまうんだろうか。
「ほら、また鼻の頭にしわが寄ってる」
マトカさんは笑いながらぼくの鼻面をくりくりと押した。
「あんまり難しい考えするんじゃないわよ。それと、あたしは、あんたがあの二人を人噛み蛇から守ってくれた命の恩人ってのは忘れてないからね?」
鼻面をくりくりしながら言ってくれるマトカさん。
「あんたかペロー、どっちかが残ってくれたなら、あたしも満足なのよ。子供たちと遊んでくれるし、気にかけて守ってくれてるし」
マトカさん……。
「ほら、日向でお昼寝しておいで。眠たいんでしょう?」
「くぅん」
ぼくは立ち上がり、木の根元で丸くなった。
昨晩はペテスタイをどこから直すかで住民と話し合って、早速仕事も始めていたので眠くて仕方がない。
ほこほこと暖かい陽だまりの中、ぼくはぐっすりと眠ることが出来た。
そしてもちろん夜はペテスタイの残骸に集まって、作業中。
住民の皆さんに集まってもらってペテスタイにスキル「まちづくり」を重ね合わせて、ペテスタイの形を確実にする作業。しかも精霊神の力でその上に幻を重ねてペテスタイ再建を気付かれないようにしている。
結構これは力を使う。
(大丈夫か?)
ペテスタイ町長のライテルさんが声をかけて来た。
(あーうん大丈夫。一度スキルの使い過ぎでぶっ倒れたことがあるけど、そうならないように力の使い方をコントロールできるよう練習したから)
(無理はしないでくれ。君は我々の希望なのだから)
希望、と来たか。
(全力を尽くすけど、失敗したら……ゴメン)
(失敗したら失敗した時考えよう)
(今はペテスタイの再建、そして大陸への帰還を考えるべきだ)
(失敗した時のことを今考えても仕方ないね。今は全力を尽くすべきだよ)
ペテスタイの人々は嬉しそうにスキルを使いながら、ぼくに思念を伝えてくる。
昨日までは感情すらなかった、精霊に化されていたペテスタイの人たち。
それだけでも……ぼくは間違っていなかったと思える。
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