第304話・ペテスタイ再建のために
ペテスタイの人たち、悪くないじゃん。
単に、知らなかっただけ。精霊神の決めた聖地の掟を、知らずに大神殿にやってきただけ。
先に調べておくべきだとか、そう言うヤツもいるだろう。だけど、自分を慕ってお礼を言いたくてやってきた人に対する仕打ちが人間の肉体を奪って大神殿で扱き使うってどういう扱いだよ! それが神って呼ばれる存在のやることか?!
むかむかと怒りが沸き起こる。
精霊神をぶん殴ってやりたいと思っていたけど、変わってきた。
張り倒して叩きつけて、頭を地べたに擦り付けて謝らせてやりたい。
精霊神であるというプライドを、粉々にしてやりたい。
自分は何をしても許される、そう言う思い違いをぶち壊してやりたい!
ぼくの怒りに影響されたのか、集まった半人たちが動揺する。
(……ああ、すまない)
ぼくは大きく息を吸い込んで、そして、大きく吐いた。
(大陸はあなたたちの住んでいた頃に比べて大きく変わった。もうあなたたちの知っている町はなく、知っている人たちもいなくなっている。……それでも)
ぼくは見まわして、言った。
(それでも、人の姿に戻って、人の寿命を全うしたい? この聖地から出たい?)
(もちろん!)
ライテルさんは地面を前足で掻きながら言った。
(人として生き、人として死ぬ。それが我らに残ったたった一つの願い!)
そうだ、と同意の思念が響く。
(普通に生きたい、それだけだったんだ)
(精霊神の怒りを買うなど、思ってもいなかった!)
(ありがとうと言いたかった、それだけなのに……!)
だろうな。
ペテスタイの人たちは、普通に信仰心の篤い人たちだったってだけなのに。
感謝の意を伝えに来た、それだけ。
なのに、人間の姿を奪い自由を奪い、五百年という時間を扱き使って。
人間を何だと思ってるんだ。自分が作ったモノは何をしても良いと思ってんのか?
また出てきたむかむかを何とか引っ込める。
(なら、みんなで帰ろう。大陸へ)
ぼくの意思に、半人たちはきょろきょろと互いの顔を見合わせ、そして、ぼくを見る。
(方法は……あるのですか? 私たちがここに封じられて五百年。私たちはその手段を見つけられなかった)
(ぼくには精霊神の力が少しある。そしてぼくには「まちづくり」のスキルがある)
ペテスタイの残骸を見回し、ぼくは言う。
(来れたなら、同じ方法で帰れる)
ペテスタイやエキャルは聖地まで来れた。なら。
(みんなでペテスタイを直し、日没荒野を逆に進む)
(ペテスタイを?!)
(全員、スキルの使い方は覚えてる?)
(……あなたが傍に居る時なら思い出せるかもしれないが。それが?)
(ここにいるのが、ペテスタイが日没荒野を超えるために選りすぐられた人たちなら、ペテスタイを維持するスキルを持っているはず)
さざ波のようなざわめきが響く。
(祭りまであと四日。精霊神の本体はぼくの町を第二のスペランツァにするために、祭りギリギリまで帰ってこないはず。それまでにペテスタイを直し、日没荒野へ出る)
(しかし、貴方のその姿は生まれながらのものでない、精霊神の御力で入れ替えられたものでしょう。この姿のまま戻っても……)
(一人)
ぼくはペテスタイの直すべきところを見ながら言う。
(一人と一羽、今グランディールにいるのがぼくじゃないと知っている。ペテスタイで乗り付ければ、ぼくたちがただの動物じゃないと分かるだろう。後は……精霊神がぼくと入れ替わったという尻尾を出すのを待つだけ)
ぼくはぶるっと一回身震いして、一同を見渡す。
(大陸へ戻っても歓迎してもらえるとは限らない。むしろ精霊神の怒りを受けたとして迫害される可能性もある。それでも……大陸に戻りたい?)
改めて確認する。
ペテスタイの民は、うん、と頷いた。
(もともとペテスタイは地上の町と連携を取れなくても生きていけるように自給自足を目指した町)
(付き合いたくない町と付き合う必要もない)
(私たちは人として生きて死にたい。それだけ。……いえ、違うわ。生まれ育ったペテスタイで生きて死にたい)
ぼくは頷いた。
(うん、分かった。じゃあ……みんなで、この聖地から出よう。大陸へ戻ろう)
控え目な歓声が辺りに満ちる。
それから、ぼくたちの作戦が始まった。
◇ ◇ ◇
爆睡して、目が覚めると目の前に干し肉があった。
(あれ……?)
夜明けギリギリまでペテスタイにいて、大急ぎで戻ってきて寝て、それから……。
「あ、ペルロが起きた」
ツェラちゃんの声が聞こえた。
「くぅん?」
「ペルロ、寝てたんだよ?」
ゴメンツェラちゃん。昨夜はほぼ完徹で、明け方から寝てました。これから三~四日この感じです。
……あと、ぼくはこの聖地を出ます。
ペローに再確認して、君たちが大人になるまで傍に居ることを約束してもらったけど、最初に友達になった君たちとはもうすぐ別れることになるそうです。本当にゴメン。
干し肉をしゃぶりながら、ぼくは心の中で謝った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます